著者
岡野 晋 田原 信
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.151-154, 2016 (Released:2016-11-24)
参考文献数
18

甲状腺未分化癌は極めて進行が早く予後不良な疾患である。初診時すでに進行例となっていることも多く,唯一の根治的な手術療法を行うことが不可能な際には,緩和的放射線療法や施設毎の薬物療法が行われてきた。また,薬物療法に関する標準治療は確立しておらず,例え積極的な治療を行っても,その治療成績は満足できるものではなかった。近年の研究により,甲状腺癌に関連する増殖因子とその受容体,遺伝子の異常によるシグナル経路の活性化などが解明される中,基礎的な研究結果に基づいた新規薬剤の開発も行われ,甲状腺癌に対する薬剤が相次いで保険承認されている。その中でも特筆すべきは,未分化癌に対しても使用可能な薬剤の登場であり,レンバチニブは分化型甲状腺癌のみならず,未分化癌に対してもその有用性が確認されている。未分化癌に対する分子標的治療薬の開発状況,そしてレンバチニブの有用性に関して述べたい。
著者
岡野 晋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.22-28, 2019-01-20 (Released:2019-02-01)
参考文献数
12

頭頸部癌に対する薬物療法は, 主に殺細胞薬, 分子標的薬が用いられてきたが, 昨年からは従来の薬剤とは大きく異なる作用機序を有する免疫チェックポイント (CP) 阻害薬が使用可能となり, 新たな選択肢が加わった. がん細胞は, 腫瘍微小環境における免疫監視機構から逃れるために, 免疫 CP であるプログラム細胞死リガンド1 (Programmed cell death ligand 1: PD-L1) を過剰発現しており, T 細胞表面にある受容体であるプログラム細胞死1 (Programmed cell death 1: PD-1) に特異的に結合することで免疫システムを抑制する (免疫逃避機構). 免疫 CP 阻害薬は, この免疫逃避機構を阻害することにより, 自己免疫による攻撃を活性化する薬剤である. 薬物療法適応患者の選択は背景論文, ガイドライン・ガイダンスなど, レジメンの選択は全身状態, 臓器機能などを参考に行うが, 実臨床における患者背景はさまざまであり悩むことがある. 適切な選択を行わなければ, 十分な治療効果を得ることができないだけでなく, 予期せぬ有害事象の発生やほかの治療への影響が出ることもあるため, 安易な選択に基づいた薬物療法は控えなければならない. 免疫 CP 阻害薬の重篤な有害事象の頻度は低いものの, 従来の薬剤とは全く異なる事象が起こり得るため, その管理には細心の注意が必要である. 代表的なものには, 消化器障害 (下痢, 大腸炎, 消化管穿孔), 内分泌障害 (下垂体炎, 甲状腺機能低下症, 副腎機能不全, 糖尿病など), 皮膚障害 (皮疹, 掻痒など) などが挙げられるが, いずれの事象も早期発見・早期治療が行われなければ極めて重篤となり得るため, チーム医療が必須の薬剤である. 免疫療法の治療開発は今まさに全盛期であり, 再発転移例だけでなく局所進行例も含め, 抗 PD-1 抗体薬, 抗 PD-L1 抗体薬を用いた治療開発が数多く進んでいる. さらに, がんゲノム医療, 新規化学療法, 光免疫療法の開発も進行しており, 今後の展開が期待される.
著者
谷 直樹 野口 明則 竹下 宏樹 山本 有祐 伊藤 忠雄 中西 正芳 菅沼 泰 山口 正秀 岡野 晋治 山根 哲郎
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.1536-1541, 2007-08-01
被引用文献数
11

今回,我々は直腸癌術後の膵および肝転移に対する1切除例を経験したので報告する.症例は78歳の男性で,1993年に直腸癌に対して直腸切断術,肝S7の同時性転移に対する肝部分切除を施行した.術後は無再発に経過していたが,11年目の2004年10月腫瘍マーカーの高値を指摘され,腹部遺影CTを施行したところ膵体部および肝S4に腫瘍を認めた.ERCPで膵管の途絶を認め膵体部癌および肝転移を疑い膵体尾部脾合併切除および肝部分切除を施行したが,病理組織学的検査の結果はともに11年前の直腸癌からの転移であった.大腸癌の膵転移はまれな病態であるが,初回手術から長期間を経てから生じること,経過中に肺,脳,肝臓など多臓器に血行性転移を生じる例が多いこと,予後不良であるなどの特徴を有するので治療上の注意が必要である.本邦報告例の検討から,初回手術後長期経過して発見された膵転移は切除後の予後が比較的期待できる可能性があると考えられた.