著者
岩崎 説雄 塩谷 康生 門司 恭典 中原 達夫
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
家畜繁殖学雑誌 (ISSN:03859932)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.198-203, 1989
被引用文献数
1

牛卵胞卵子の体外成熟および体外受精,ならびに胚の発生過程に伴うグルコース6リン酸脱水酵素(G-6-PDH)活性の変動を明らかにした。さらに牛初期胚を二分し,分離胚の一方でG-6-PDH活性を組織化学的に測定し,他方で染色体検査により性判別を行い,活性の性差を調べ,酵素活性の差を利用した胚の性制御の可能性を検討した。<BR>胚の性差の検討においては,実験1ではランダムに卵巣より卵胞卵を採取し,実験2では卵胞卵を多数有する卵巣より卵巣別に卵子を採取して,体外成熟,体外受精に供した。G-6-PDH活性は組織化学的に測定し,染色強度により強,中,弱,不染の4スコアに区分して表した。<BR>G-6-PDH活性は成熟卵子,前核期卵子から8細胞期にかけて大きな変化は認められなかったが,桑実期では活性を示さなかった。370個の胚より分離した631個の割球を染色体検査に供し,このうち116個(分裂中期核板像を示した胚の58.6%)の胚で核型が判別した。これらのうち正常2倍体の雌胚39個のG-6-PDH活性は,雄胚51個の活性に比べやや低いが有意差は認められなかった。染色体異常を含め,X染色体の数により分類したG-6-PDH活性は一定の傾向はみられなかったが,多倍体胚(XXX,XXXX,XXXXXX)のいくつかは高い活性を示すことが認められた。<BR>以上の成績より,牛初期胚G-6-PDH活性の性差は明確ではないが,多倍体胚のいくつかは高い活性を示すことが認められた。