著者
岩本 武和
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、国際資本移動が、実体経済に対して、順循環的(pro-cyclical)に及ぼすメカニズムを理論的・実証的に分析し、前者が後者に対して反循環的(counter-cyclical)に作用するような制度的枠組みを提言することにある。近年における国際資本移動に関する諸研究において、プロシクリカリティという分析ツールは頻出するが、必ずしも確固たる経済学的基礎付けや実証分析がなされているわけではない。そこで本研究の成果は、以下の4点にまとめられる。(1)まず、「なぜ資本は豊かな国から貧しい国に流れないのか」という「ルーカスの逆説」(1990)に答える理論的仮説と実証研究をフォローし、本研究の理論的枠組みを提示し、(2)次に、標準的な資本移動モデルで等閑視されてきた「貸し手と借り手の情報の非対称性」(マッキノン等による「オーバーボローイング・シンドローム・モデル」)と「対外債務がいかなる通貨建てであるか」(アイケングリーン等による「原罪仮説」)という2つの視点を入れながら、東アジアの新興市場諸国を対象にした資本移動モデルの理論的研究を行った。(3)また、カミンスキー等(2004)によって、厳密に定義され実証された資本移動のプロシクリカリティに関する「4つの定型化された事実」に関して、上記(1)(2)の理論モデルに依拠しながら、「アジア債券市場」の育成ついて若干の政策提言を行った。(4)さらに、本研究のテーマにとって欠くことができない「世界的不均衡の持続可能性」について考察対象を拡大し、アメリカの経常収支赤字のファイナンスについて、オブズフェルドとロゴフ(2005)の「ドルの実質実効為替レートの33%減価」というベースライン・シナリオについて、価格の硬直性(パススルーの不完全性)を導入したモデルを考察した。