著者
岩渕 真奈美
出版者
公益財団法人キープ協会
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ヤマネは平均体重18gの小型哺乳類。日本固有種で国の天然記念物に指定されており、平成24年度までは環境省レッドデータリストにて準絶滅危惧種に位置付けられていた希少種でもある。主に森林内の樹上に棲息し花や漿果、昆虫を中心に採食していることより、森林に対する依存度が高い種の1つだと考える。しかしその生態に関してはまだ十分明らかにはなっていない。特に、非活動期の特徴である冬眠に関しては、飼育下での研究報告はあるが自然条件下での情報は少ない。小型哺乳類の越冬は生死に直結する重要課題であるため、本研究は特に冬眠に焦点を当てて調査した。その方法として、活動期と非活動期の生息環境の比較を行うべく、許可を得て一時捕獲をしたヤマネに発信機を装着し、活動期と冬眠期における環境選択の様相を比較した。また森林内の複数地点にて環境温度との関連についても検証を試みた結果、活動期は主に樹上にいるのに対し、冬眠時は地表面近くの地中にいた。様々な森林内環境温度の計測結果より、林内の大半は気温の日格差が高いのに対し、浅い地中は0℃付近で終日安定していた。冬眠期のヤマネは温度差の激しい樹洞ではなく温度が安定する地中を選択的に利用していると考えられる。一方、脂肪蓄積型冬眠を行うヤマネにとって、冬眠前の貯蔵エネルギー確保は最重要課題であると考える。この課題をクリアすべく、嗜好性が高くて栄養組成の把握が可能なヤマネ向け人工飼料の開発について試行した。結果ヤマネは甘味と湿り気に対する嗜好性が高い傾向がみられた。しかし栄養試験に耐えうる乾燥飼料に関しては今後更なる検証を必要とする。これらの研究結果は例数が少なく、まだ傾向を示したに過ぎないが、今後更に研究結果を積み重ねることにより、ヤマネ単体だけでなく、餌資源や住環境などヤマネを中心とした森林内全体の生物多様性を維持・保護していくことができると考えている。
著者
饗場 葉留果 小林 修 湊 秋作 岩渕 真奈美 大竹 公一 岩本 和明 小田 信治 岡田 美穂 小林 春美 佐藤 良晴 高橋 正敏
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;日本,世界各地には道路や線路で分断されている森が非常に多く,野生動物の移動,繁殖,餌の確保等が困難になっている.そのため我々の研究グループは 1998年から森を分断する道路上に樹上動物が利用できるための橋を研究し,建築してきた.これまでに山梨県に 3ヶ所,栃木県に 1ヶ所,愛知県に 1ヶ所建設された.<br>&nbsp;1998年,山梨県の有料道路上に道路標識を兼ねたヤマネブリッジの建設を提案し,実現させた.建設後,ヤマネを初め,リス,ヒメネズミ,シジュウカラの利用が確認された.建設費用は約 2000万円であった.<br>&nbsp;しかし,2000万円という高額なものでは,この技術を「一般化」し,普及していくことが難しい.そこでより安く,簡易な設計にし,建設できる樹上動物が利用しやすい「アニマルパスウェイ」(以下,パスウェイ)の開発研究を 2004年から行った.2004年の材料研究,2005年には構造研究を実施し,森林を分断している私道上に実験基を建設し,モニタリングを実施したところ,2006年,リスとヤマネの利用を確認した.<br>&nbsp;2007年に北杜市の市道にパスウェイの建設をし,そのモニタリングの結果は 2008年のポスターにて発表した.その後,2010年には,北杜市に.号機が,2011年には栃木県,2013年 4月には愛知県でパスウェイの建設がされた.栃木県では,モモンガの利用が確認され,これで樹上性の小型哺乳類はほぼ利用するということが証左された.山梨県の.号機と.号機では継続的にモニタリングを実施しており,ヤマネの利用は,.号機と.号機では 2割程であり,ヒメネズミは,両機とも 8割程であり,ヒメネズミの利用頻度が高かった.また,パスウェイの利用部位に関しては,ヤマネでは床面とパイプ面を,ヒメネズミとテンでは床面を,多く利用することが確認された.今後,これらのデータを元に,より効果的なパスウェイの普及を行っていく.
著者
湊 秋作 饗場 葉留果 岩渕 真奈美 湊 ちせ 小山 泰弘 若林 千賀子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.118, 2013 (Released:2014-02-14)

ヤマネ科は,ヨーロッパ・ロシア・アフリカ,中央アジア,サウジアラビア,イラン・中国・日本等に分布する.ニホンヤマネ(Glirulus japonicus)は,本州・四国・隠岐の島(島後)・九州に生息し,樹上性で冬眠する天然記念物の哺乳類である.私たちは,1988年から巣箱を用いてニホンヤマネの自然史を調べてきたが,巣箱を用いない自然巣の調査結果を得たので報告する.ヤマネの自然巣調査は,目視観察と一部,発信器調査を用いて,1993年から 2012年まで行った.ニホンヤマネの調査地は主に山梨県北杜市で,ヨーロッパ産ヤマネの調査地は,ハンガリー(バーツ市)等である. ニホンヤマネの樹上の自然巣を営巣する樹はヤマツツジであった.営巣する部位はヤマツツジの枝がてんぐす病となり小枝が束状になっている所であった.巣のサイズは,11.0cm × 9.5cm ×9.5cm 程であった.巣材は,樹皮と蘚苔類から構成されていた.樹皮は,サワフタギ,ズミ,ヤマブドウなどの繊維性の材料を使用していた. 巣の構造は,多くの巣において,外側は蘚苔類で覆われ,内部の材料は樹皮で何層にも頑丈に編み込んでいた.巣はてんぐす病の小枝の間の狭い空間にすっぽり入れ込むように造られていた.樹皮をてんぐす病の小枝に巻き付けることもあった.ヤマツツジの枝に接する自然巣の土台には,幅の広い樹皮を用い枝の隙間を埋めるように配置することもあった.てんぐす病の緑の葉と自然巣を覆う蘚苔類の緑色は,カモフラージュの効果を呈していたが,巣の上にヤマネの糞が置かれていることもあった.巣の地上高は,0.65m~2.2mであり,繁殖場所として使用していた. たまに,地中に営巣することもあった.ヨーロッパ産のオオヤマネの巣材は青葉や枯葉であり,ヨーロッパヤマネは,草・葉・樹皮で,ニホンヤマネの巣材とは異なっていた.