著者
岩澤 誠一郎 内山 朋規
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.75-80, 2011 (Released:2012-03-29)
参考文献数
12

日本の株式市場において「ボラティリティ・アノマリー」─事前に観察されたボラティリティが小さい銘柄ほど,事後のリターンが高い―が見られることは広く知られている.我々はこの現象に,海外投資家及び信用取引を行う個人投資家が関与していることを実証する.第一に,「ボラティリティ・アノマリー」は海外投資家及び信用取引を行う個人投資家から日本株への資金流入が大きい局面では消滅/減衰し,資金流出が大きい局面で強まる傾向がある.第二に,海外投資家が日本株市場に資金を投下する際には,ボラティリティのより大きい株により多くの資金を投じる傾向がある一方,資金を引き揚げる際には,ボラティリティの大きい株からより多くの資金を引き揚げる傾向が見られる.また信用取引を行う個人投資家が資金を引き揚げる際にも,ボラティリティの大きい株からより多くの資金を引き揚げる傾向が見られる.
著者
内山 朋規 岩澤 誠一郎
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.61-86, 2012-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
41

人々には,右裾が厚く左裾が薄いリターン分布を持つ,宝くじのような証券を好む傾向があるとされる.このような証券は割高で期待リターンが低くなるという累積プロスペクト理論による示唆に基づき,分布の歪みを表す二つの尺度を用いて,株価リターンと投資家行動に関する実証を行う.まず,分布の歪みによって翌月の平均リターンはクロスセクションで異なり,宝くじのような証券ほど,平均的に将来のリターンが低いことを示す.この差は,期待効用理論による示唆とは整合せず,リスクプレミアムとして解釈することも難しい.次に,洗練されていない投資家は,宝くじのような証券を多く保有する傾向があり,さらには,このような証券を割高な水準にまで買い上げるという見方に整合的な結果も示す.本稿の実証結果は,累積プロスペクト理論の示唆する投資家行動がわが国株式市場で実際に存在し,株価形成に影響を及ぼしていることの証拠を提示するものである.
著者
岩澤 誠一郎
出版者
経済社会学会
雑誌
経済社会学会年報 (ISSN:09183116)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.72-90, 2016 (Released:2021-04-01)

幸福の経済学に影響を与えてきた心理学は、近年、「幸福」の代わりに、「エンゲイジメント」や「意味・意義」を要素とする構成概念である「良き人生(well-being)」をそのテーマとするべきであるとの議論を行っている(Seligman 2011)。一日の多くを仕事に費やす人にとってみると、仕事の際にポジティブで充実した心理状態でいることは「良き人生」を送るための重要な条件である。Schaufeliらにより開発された活力、熱意、没頭を要素とする「ワーク・エンゲイジメント」は、この点を測るための構成概念であり、「ワーク・エンゲイジメント」が高いことは、1)心身の健康、2)仕事や組織に対する態度、3)仕事のパフォーマンスの面でポジティブな成果をもたらすとの実証結果が得られている。 Schaufeliらの研究によれば、日本企業における従業員の「ワーク・エンゲイジメント」は、国際比較において相対的に劣後している。この結果の一部は、日本人がポジティブな含意を持つ質問に対し「No」と答える文化的なバイアスを持つことに起因している可能性がある。だが現在までの研究では、このバイアスが日本における「ワーク・エンゲイジメント」が相対的に低いことの全てを説明していると言い切ることもできない。 我々は日本企業における「ワーク・エンゲイジメント」が低水準であることの一因が、管理職の、管理職としてのマネジメント・スキルが十分でない点にあるとの仮説を検討する。日本企業における長期雇用は、管理職の選抜の基準を、管理職としての能力や適性に基づくものにすることをしにくくする(八代2011)。実際我々は、日本のビジネススクールの社会人受講生を対象とした実証を通じ、「ワーク・エンゲイジメント」に強い影響を及ぼす、部下の仕事のモチベーションに関する理解力や、業績に関するフィードバックなどの面において、日本企業の管理職のスキルの水準が低く評価されていることを示す。更に、タイにおける米国系企業と日本系企業との比較実証研究(Colignon et al. 2007)は、従業員の内発的動機を通じ「ワーク・エンゲイジメント」に影響を及ぼすとみられる、上司の部下とのコミュニケーション能力や相互の信頼感、部下が自律的に仕事を行うための側面支援などの面で日系企業が劣後することを示している。こうした実証結果は、先の仮説を支持するものである。
著者
岩澤 誠一郎
出版者
経済社会学会
雑誌
経済社会学会年報 (ISSN:09183116)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.62-75, 2015 (Released:2016-03-25)

Traditional neoclassical economics analyzes economic outcomes assuming that agents rationally maximize their self-interests. On the other hand, economic sociology emphasizes that superstructure such as religious beliefs, or social structure such as weak ties, could well affect economic outcomes via agents’ preferences and choice sets, and warns against the negligence of social factors in traditional economics. This paper proposes a new line of economic sociology research that incorporates recent developments of cognitive psychology and neuroscience. Following Kahneman (2003, 2011), the paper distinguishes two modes of thinking and deciding: “System 1” and “System 2,” which roughly correspond to “emotion and intuition” and “reasoning.” While traditional neoclassical economics theorizes economic transactions assuming only System 2 and ignoring System 1, behavioral economics emphasizes that actual economic decisions are substantially influenced by System 1. Current mainstream behavioral economic research, however, rarely goes beyond this, and suggests that only System 2, as opposed to System 1, should be fully utilized in a rational economic decision making. This is at odds with the recent findings of neuroscience that social cognition, which mainly consists of System 1, is the basis of many socially desirable empirical facts including the one that quantity of public goods’ supply is much greater than what is predicted by traditional economic theory. The paper proposes a new sub-field of economic sociology, which can be called “behavioral economic sociology” that analyzes social factors influencing economic outcomes by way of System 1. The paper develops this idea by examining recent organizational psychology researches called “positive organizational scholarship.”
著者
岩澤 誠一郎 内山 朋規
出版者
Association of Behavioral Economics and Finance
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.75-80, 2011

日本の株式市場において「ボラティリティ・アノマリー」─事前に観察されたボラティリティが小さい銘柄ほど,事後のリターンが高い?が見られることは広く知られている.我々はこの現象に,海外投資家及び信用取引を行う個人投資家が関与していることを実証する.第一に,「ボラティリティ・アノマリー」は海外投資家及び信用取引を行う個人投資家から日本株への資金流入が大きい局面では消滅/減衰し,資金流出が大きい局面で強まる傾向がある.第二に,海外投資家が日本株市場に資金を投下する際には,ボラティリティのより大きい株により多くの資金を投じる傾向がある一方,資金を引き揚げる際には,ボラティリティの大きい株からより多くの資金を引き揚げる傾向が見られる.また信用取引を行う個人投資家が資金を引き揚げる際にも,ボラティリティの大きい株からより多くの資金を引き揚げる傾向が見られる.