著者
岩藤 百香 松本 正富
出版者
日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.64, 2017

小児医療においては,子どもに対する分かりやすい説明と自発的な賛意を求めるインフォームド・アセント(Informed assent)が必要とされている.本稿は,サンパウロのカマルゴがんセンターが映画配給会社ワーナー・ブラザースとの協力により行っている,小児がん患者の治療に対するやる気を引き出すプロジェクト『Super Formula Project(スーパーヒーローによる処方)』について取り上げる.現地調査,プロジェクト担当医師へのインタビュー調査に基づいて,インフォームド・アセントにおける視覚的要素の重要性に着目しつつ,プロジェクト導入のプロセスについて報告する.<br>インタビュー調査では,①プロジェクト実現までのプロセス,②プロジェクト運営チームについて,③実施後の効果,④プロジェクトの現状の4カテゴリについて,18項目の質問を行った.その結果,ヒーローキャラクターが子どものやる気を引き出すだけでなく,自らのアイデンティティ理解の向上につながること,医療者および家族といった大人とのコミュニケーション円滑化にも役立つといった意見が得られた.
著者
岩藤 百香 松本 正富 青木 陸祐
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.3_57-3_64, 2021-01-31 (Released:2021-02-20)
参考文献数
17

本研究は,治験のインフォームド・コンセント用説明文書が患者に与える印象に着目し,文書の改善に有用なビジュアルデザインの要件を抽出することを目的とした.先に,比較対象として一般的に用いられる様式の文書(一般モデル)と,同じ内容で言語による情報の質や量を保持しつつ,効率よい情報伝達の指針「ミニマム・エッセンシャルズ(可視性・注視性・記憶性・的確性・造形性・時代性)」に即したデザイン操作を行った文書(デザインモデル)を作成した.両モデルに対する印象評価の比較では,デザインモデルの満足度は高く,明るさ・暖かさ・にぎやかさなど精神を高揚させる印象尺度の評価に効果が認められた.また,新たに文書の印象を構成する「楽観性・親近性・明朗性」などの情動的な心因因子が把握され,患者の心を慰撫するビジュアルデザイン要素による心理的支援を行うことの有効性が認められた.
著者
森戸 雅子 小田桐 早苗 宮崎 仁 岩藤 百香 渡邊 朱美 三上 史哲 難波 知子 武井 祐子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.285-296, 2021

本研究の目的は,自閉スペクトラム症(ASD)児と家族と支援者の情報共有を容易にする感覚特性サポートアプリケーションの開発である.2014年より多職種連携チームクレマチスにおいて,アプリ開発を手掛け,ASDに多いとされる感覚特性について,各感覚特性について分類・保存・検索の機能を保持できる iPad用のアプリケーション「YOUSAY」を開発した.しかし,iPad用に開発したYOUSAYは,ASD児の家族が専門職と短時間に情報共有するには課題があった.そこで,ASD児のライフステージに応じた感覚特性の変化を視覚的に提示でき,感覚のバランスの悪さを視覚的に捉えやすくした「YOU チャート」を新たに考案し,スマートフォン用アプリとしてYOUSAYを開発した.結果,ASD児が日常生活で経験する感覚特性にともなう困難や苦痛を日常的に家族が保存,分類,整理を容易にすることと,緊急時や災害時に医師,臨床心理士,学校教員,保健師などの専門家や支援者との情報共有の際に優先項目の検索を可能にした.開発アプリを活用することで,地域で暮らすASD児と家族にとって,多くの関係専門職や支援者と継続的な連携を容易にすることが示唆される.