著者
三上 史哲 宮崎 仁
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.115-128, 2017

近年,国際生活機能分類(ICF)の意義や活用の重要さは認識されてきたが,構造の複雑さや項目 数の多さ(全1,457項目),用語の難しさ,全体像の理解の難しさなどから,実践的活用までに至って いないといえる.本研究では ICF の実践的な活用を目指し,その第一歩として適切なコード化を促 す支援システムを作成し,その活用例を示した.支援システムは ICF をインターネットを介して閲 覧,検索可能とする Web システムとした.ICF 検索機能としては Google 検索エンジンのサイト内検 索を利用し,多くのユーザが見慣れた検索結果を得ることが可能となった.さらに,Yahoo 形態素解 析(WebAPI)を利用し,文章による検索を可能とした.類義語に関しては,形態素解析で分割され たキーワードに対する類語辞典へのリンクを表示し,容易に再検索できるようにした.このシステム の活用例として,①日本広範小児リハ評価セット,②居宅サービス評価票,③要介護認定調査票,④ 重症児チェックリスト,⑤障害程度区分,⑥認知症アセスメント,⑦機能的自立度評価表の各評価項 目を ICF コード化した.全生活機能評価票の分析対象項目は,合計で291件あった.コーディングし たデータを評価票ごとに集計し,頻度分布図を作成したところ,評価内容が心身機能「b」を中心に したものと活動・参加「d」を中心にしたものに分かれることが示唆された.そこで,評価票間のコー ド(質問項目)の類似度をクラスタ分析を用いて確認したところ,日常生活動作を中心に調査を行っ ている評価票と高齢者を対象とした調査の分類があることが示唆された.新しい評価票を作成した際 に,同様の分析を行えば類似度の高い評価票を確認することができる.この活用例では,既存の評価 票を ICF コード化し,類似の評価票を分類することで,新しい評価票を作成する際により完成度を 高めるための一つの方法を示すことができたと考える.
著者
森戸 雅子 小田桐 早苗 宮崎 仁 岩藤 百香 渡邊 朱美 三上 史哲 難波 知子 武井 祐子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.285-296, 2021

本研究の目的は,自閉スペクトラム症(ASD)児と家族と支援者の情報共有を容易にする感覚特性サポートアプリケーションの開発である.2014年より多職種連携チームクレマチスにおいて,アプリ開発を手掛け,ASDに多いとされる感覚特性について,各感覚特性について分類・保存・検索の機能を保持できる iPad用のアプリケーション「YOUSAY」を開発した.しかし,iPad用に開発したYOUSAYは,ASD児の家族が専門職と短時間に情報共有するには課題があった.そこで,ASD児のライフステージに応じた感覚特性の変化を視覚的に提示でき,感覚のバランスの悪さを視覚的に捉えやすくした「YOU チャート」を新たに考案し,スマートフォン用アプリとしてYOUSAYを開発した.結果,ASD児が日常生活で経験する感覚特性にともなう困難や苦痛を日常的に家族が保存,分類,整理を容易にすることと,緊急時や災害時に医師,臨床心理士,学校教員,保健師などの専門家や支援者との情報共有の際に優先項目の検索を可能にした.開発アプリを活用することで,地域で暮らすASD児と家族にとって,多くの関係専門職や支援者と継続的な連携を容易にすることが示唆される.
著者
植田 嘉好子 三上 史哲 松本 優作 杉本 明生 末光 茂 笹川 拓也
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.47-59, 2020

人工呼吸器や経管栄養等の医療的ケアを日常的に必要とする子どもは「医療的ケア児」と呼ばれ, この10年でおよそ2倍に増加し,全国に約2万人いると推計される.医療的ケア児の保育ニーズの高まりから,国や地方自治体は保育所への看護師配置等の支援体制を整えつつあるが,実際の保育所受入れは全国で329か所,366人に留まる(2017年度).そこで本研究では,保育所での受入れの条件やそれを支えるシステムの検討を目的に,医療的ケア児と家族へのインクルーシブな支援の実際と課題を明らかにした.2件のケーススタディの結果,医療的ケア児の保育所受入れには,看護師の配置等の制度的課題だけでなく,健常児も含めた多様なニーズにいかに対応するかという保育実践上の課題が見出された.一方で,クラスでは園児らが自然と医療的ケア児に関わり,医療的ケア児自身も集団生活の中で自立心や所属感,社会性が芽生えており,互いの違いを認め合いながら成長・発達していくインクルーシブ保育の成果も確認された.同時に,保育所の利用によって,保護者への子育て支援と就労を通した社会参加とが実現されており,このようなインクルーシブな支援には,医療的ケア児に関わる諸機関(病児保育室や相談支援事業所等)との形式的でない有機的な連携が重要であった.しかし現実には,医療機関でない保育所という施設で医療的ケアを安心・安全に提供することの負担やリスクは少なくなく,医療事故に対する補償制度等を国が整備していくことも今後必要と考えられる.