著者
岸岡 史郎 雑賀 史浩 深澤 洋滋 木口 倫一 小林 大地
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

マクロファージのフェノタイプ制御に及ぼすニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)シグナルの影響を精査し、神経障害性疼痛を含む慢性炎症疾患の治療に繋がる研究を行った。神経障害性疼痛を担う炎症性マクロファージにはnAChRが発現しており、nAChRリガンドの処置により炎症性因子の産生が抑制されることをin vivoおよびin vitroにおける各種解析から証明した。さらにnAChRリガンドを投与することで、神経障害性疼痛病態が改善することも明らかにしている。従って、nAChRシグナルを介した炎症性マクロファージの制御は慢性炎症疾患の治療に有用な薬物療法として期待される。
著者
木口 倫一 岸岡 史郎 小林 悠佳 深澤 洋滋 阪口 晴香
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

慢性疼痛の分子基盤解明を目的とし、核タンパク質であるヒストンの役割に着目した。末梢神経傷害後にはマクロファージなどの免疫細胞が浸潤し、ケモカインに代表される種々の疼痛増悪因子を産生する。これらの発現はヒストンのアセチル化やメチル化修飾に基づいて生じることを明らかにした。またヒストン修飾を受けたマクロファージは疼痛増悪に関与する性質に変化しており、薬物処置によりそのマクロファージを沈静化させると慢性疼痛が改善することを見出した。結論として、マクロファージにおけるヒストン修飾変化が慢性疼痛病態の鍵であり、新たな治療標的として期待される。
著者
岸岡 史郎 前田 武彦 木口 倫一
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究ではニコチン、アルコールの身体的および精神的依存における内因性オピオイドシステムの役割について検討した。マウスにニコチンを1日2回5-9日間反復皮下投与し、その後オピオイド受容体拮抗薬であるナロキソンを投与すると退薬症状が発現した。ニコチンによる身体的依存形成はオピオイド受容体拮抗薬であるナルトレキソンの併用により抑制された。一方で、1%エタノールを含む飲料水をマウスに与え、ナロキソンを投与すると退薬症状が認められた。上記の結果より、ニコチンおよびアルコールにより形成される身体的依存には、内因性オピオイドシステムが重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
著者
木口 倫一 岸岡 史郎
出版者
日本疼痛学会
雑誌
PAIN RESEARCH (ISSN:09158588)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.9-16, 2014-03-10 (Released:2014-03-29)
参考文献数
21

Recently, the involvement of inflammatory mediators such as chemokines in neuropathic pain has been focused. Among inflammatory cells recruited into the injured peripheral nerves, macrophages play key roles in chronic neuroinflammation through cytokine–chemokine network. As epigenetic histone modifications induce long–lasting expression of inflammatory mediators, we highlight the contribution of histone modifications in the injured peripheral nerves to neuropathic pain.   After partial sciatic nerve ligation (PSL) in mice, F4⁄80+ macrophages were accumulated in the injured sciatic nerve (SCN). By microarray analysis, several inflammatory chemokine ligands and those receptors were upregulated in the injured SCN on day 7 after PSL. Indeed, the expression levels of CC–chemokine ligand (CCL) 3 and CCL8 showed the highest upregulation, and were confirmed by quantitative RT–PCR. Moreover, those receptors including CCR1, CCR2 and CCR5 were markedly upregulated after PSL. Chromatin precipitation assay revealed the acetylation in K9 residue (H3K9Ac) and trimethylation in K4 residue (H3K4me3) of histone H3, facilitating gene transcriptions associated with chromatin remodeling, on the promoter regions of CCLs in the injured SCN. By immunohistochemistry, upregulated CCL3 or CCL8 was located on the accumulated F4⁄80+ macrophages. Expressions of H3K9Ac and H3K4me3 were also increased in the injured SCN, and those were detected in the nuclei of macrophages expressing CCLs.   These findings indicate that facilitation of chemokine signaling through histone H3 modifications in macrophages largely contributes to peripheral neuroinflammation leading to neuropathic pain. Further research considering the critical components of peripheral neuroinflammation exploit novel therapeutic strategy of neuropathic pain.
著者
木口 倫一 岸岡 史郎 雑賀 史浩
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

前年度は坐骨神経部分結紮による神経障害性疼痛モデルマウスを用い、主に後根神経節において神経炎症依存的に発現変動する因子に着目した検討を行った。本年度は、傷害坐骨神経に集積するマクロファージが担う末梢性感作と中枢性感作の機能的連関を詳細に検討した。炎症性マクロファージ抑制薬であるニコチン性アセチルコリン受容体α4β2サブタイプ特異的リガンドを傷害末梢神経に局所投与すると、神経障害性疼痛が改善した。また神経傷害後の脊髄におけるミクログリアの形態的活性化ならびに炎症関連因子(IL-1β、CCL3、CD68、IRF5など)の遺伝子発現増加は、マクロファージ抑制薬の末梢局所投与により減少することを見出した。これらのマクロファージ抑制薬は神経傷害の3週間後から投与しても有効であり、その際に脊髄ミクログリア関連因子の減少効果も同時に認められた。すなわち、神経障害性疼痛の形成および維持機構のいずれにおいても炎症性マクロファージによる末梢性感作が重要な役割を果たすことが示唆される。さらに、糖尿病性や抗がん薬誘発性などの異なる神経障害性疼痛モデルにおいても、同様の機序の関与を示唆するデータが得られている。昨年度までの結果を踏まえると、炎症性マクロファージ由来のサイトカインやケモカインが後根神経節における中枢感作調節因子(サイトカインおよび神経ペプチドなど)の発現を亢進させ、脊髄グリア細胞の活性化を調節することを明らかにできたといえる。