著者
嶋本 伸雄 十川 久美子 永井 宏樹 HAYWARD Rich CHATTERJI Di
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究の最大の発見は、バクテリアにおいて初めてプリオン様の調節機構を発見したことである。この意外な発見のため、主要な努力をこのテーマに注ぎ込んだ。転写の大部分に関与する主要転写会誌因子の動態は、病原菌を含むバクテリアを制御するために重要である。大腸菌の主要転写会誌因子σ^<70>因子の細胞内の動態を観察するために、大腸菌のクロモゾーム上のσ^<70>の遺伝子(rpoD)を破壊した菌株を昨年度作製した。この株を利用して、プラスミド上の遺伝子の発現を制御することによって、野生型変異型のσ^<70>の細胞内量を調節した。この結果、σ^<70>は、高い増殖温度や増殖後期に、αヘリックスからβ構造の転移を伴うアミロイド繊維を形成して、転写の活性を低下させ、マイナーσによる転写パターンに切り替えることが明らかになった。アミロイド繊維を形成しやすい変異株、しにくい変異株に置き換えると増殖温度が変化したので、σ^<70>が大腸菌の分子温度となっている傍証を得た。また、σ^<70>の細胞内濃度を変化させながら観察すると、熱ショック遺伝子の定常的発現量と誘導的発現量はともにσ^<70>の存在量に反比例したので、熱ショックσとのスイッチングとアミロイド生成との関係を証明した。また、20年来謎であった、RNAポリメラーゼのωサブユニットの機能を明らかにした。ω欠損株は、野生株と同じ表現型を示すが、コア酵素には、シャペロニンGroELが結合していた。GroELを除いたコア酵素σ^<70>は結合することができず、活性が無かった。つまり、ωサブユニットはコア酵素の成熟因子であり、これを欠く細胞においてはGroELがその役割を代行することが明らかになった。σ^<70>のアミロイド繊維を含む封入体を可溶化する必要から、高濃度のグリセロールを用いた可溶化法を開発した。この手法を、各種生物の蛋白質を大腸菌で量産したときにできる封入体に応用し、8-200倍の改善を観察し、その一般性を証明した。
著者
中村 義一 志村 令郎 横山 茂之 箱嶋 敏雄 嶋本 伸雄 饗場 弘二
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本総合研究(B)は、「RNAの動的機能発現」に関する重点領域研究の設定をその主要な目的として企画されたものである。しかしながら、平成4年度から新重点領域研究「RNA機能発現の新視点」が発足することに決定し、その研究内容がほとんど重複するため、当初の趣旨での本総合研究(B)班からの重点領域申請はやむなくとりやめた。その上で、本研究班の活用を計るため他の関連研究組織との連携を検討することとし、平成4年1月17ー18日に研究集会「RNA合成における分子間コミュニケ-ション」を東京において開催した。本総合研究(B)班からの5名を含めた12名が参加し、多角的に当該分野の研究を協議した結果、石浜明国立遺伝学研究所教授を代表者として、「転写装置における分子間コミュニケ-ション」を重点領域研究として申請することで合意し、申請を行なった。本総合研究課題に関する国内研究の活性化を計るために、平成3年12月に行なわれた日本分子生物学会において、シンポジウム「RNAシグナルによる翻訳制御」を開催した。国内から4人の演者に加えて、ミュンヘン大学からセレノシステイン研究で有名なA.Bo^^¨ck教授を招聘して活発なシンポジウムを行なうことができた。
著者
嶋本 伸雄 富澤 純一
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.635-646, 2006-02-20

生物学で用いられる定量的方法は、一般的にはほぼ熱力学と反応速度諭に限られ、平衡した反応には、共に適用されている。しかし、これらの物理的基礎はもともと異なっており、従って対象とする巨視的状態の定義にも差がある。二つの巨視的状態の間のポテンシャル障壁がkT程度以下の場合、二状態は反応速度論では分離して取り扱えるが、熱力学では特殊な場合を除いて分離できない。そのような低いポテンシャル障壁は、タンパク質のDNA上の1次元的拡散で実際に観測されており、DNA上の高親和性部位の親和性は、局所構造だけでなくDNA長にも依存するという効果が生じ得る。この効果は数種のタンパク質で観測されており、反応速度論でしか解析できず、熱力学は無力である。