- 著者
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嶋田 義皓
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2005
本研究はマルチフェロイクスやキラル磁性体などの時間反転対称性と空間反転対称性が同時に破れた系においてのみ発現する「光学的電気磁気効果(Optical Magneto-electric ; OME)効果」および「磁気カイラル効果」の微視的メカニズムを明らかにし、機能効率の向上やデバイス応用に向けた新しい物質設計の指針を提示することを目的とする。このような時間・空間反転対称性が同時に破れる系として、強誘電体に磁性を担う希土類イオンを添加する手法がOME効果の観測に有効であるという前年度の研究成果をもとに、今年度は希土類サイトを有する強誘電性結晶について同一結晶場環境下での希土類依存性や同一希土類での結晶場依存性、遷移の振動子強度依存性などに注目して研究を進めた。前年度までに研究を行った強誘電性チタン酸化物La2Ti207と同様の結晶構造を有する強誘電性Nd2Ti207に注目し、Nd3+の4f-4f遷移による吸収におけるOME効果の検証を磁場変調吸収測定によって行った。Nd3+は反転中心のない結晶場環塊におかれk⊥H⊥Pの配置でOME効果に起因する非相反的方向二色性が生じると予想された。前年度までに研究を行った発光における方向二色性と本年度行った吸収における方向二色性は本質的には同じ2次のOME効果を起源とする非相反的光学応答を観測している。しかし、吸収測定では励起準位の占有率の影響が無いため、多くの状態へのff遷移が観測可能である点で発光とは大きく異なっており、全てのAサイトがNd3+で占められているNd2Ti207結晶を用いることで、初めて各遷移間での系統的な強度の吸収スペクトルにはNd3+のff遷移による構造が多く見られ、Judd-Ofelt理論による9つの励起状態について定量的にアサインを行った。磁場変調スペクトルには吸収スペクトルの構造に対応して、多くの構造が見られ、発光での測定同様、電気分極の反転にともなう磁場変調スペクトルの符号反転によってファラデー効果と区別でき、得られた磁場変調スペクトルがOME効果によるものであることを確認した。磁場変調スペクトルの積分強度から見積もったOME効果による振動子強度の移送量と、電気双極子(E1)・磁気双極子(M1)遷移の振動子強度の半経験的な計算値を比較することで、OME効果の微視的起源がE1遷移とM1遷移の干渉にあることを半定量的に裏付けた。実験によって得られた振動子強度移送量と計算によって得られた量では、結晶場分裂した励起状態に関する和のとりかたが、前者と後者では異なっていることに起因して、20倍もの違いが生じており、両者の相関はあきらかであるにせよ、定量的な比較は困難であった。