著者
野島 尚武 片峰 大助 川島 健治郎 中島 康雄 今井 淳一 坂本 信 嶋田 雅暁 宮原 道明
出版者
日本熱帯医学会
雑誌
Japanese Journal of Tropical Medicine and Hygiene (ISSN:03042146)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.181-193, 1978
被引用文献数
1

ケニア国タベタ地区での淡水産貝類は以下の8属11種である。即ち<I>Btomphalarta pfeifferi</I> (Krauss), <I>B.sudanica</I> (Martens), <I>Bulinus globosus</I> (Morelet), <I>B.tropicus</I> (Krauss), <I>B.forskalii</I> (Ehrenberg), 以上5種は住血吸虫との関係種, <I>Lymnea natalensis</I> (Krauss), <I>Ceratophallus natalensis</I> (Krauss), <I>Segmentorbis angustus</I> (Jickeli), <I>Gyraulus costulatus</I> (Krauss), <I>Bellamya unicolor</I> (Olivier) <I>Melanoides tuberculata</I> (M&uuml;ller) である。<BR><I>B.pfeifferi</I>はLumi川と灌漑用溝に, <I>B.sudanica</I>はJipe湖畔に, それぞれの多数の棲息をみたが, マンソン住血吸虫の自然感染は<I>B.pfeifferi</I>のみに見られた。<I>B.globosus</I>は灌漑用溝のみに多数棲息し, <I>B.tropicus</I>は灌漑用溝とJipe湖畔に, <I>B.forskalii</I>は少数ながらあらゆる水系に見出された。ビルハルツ住血吸虫の自然感染は<I>B.globosus</I>のみに見出され, その貝の棲息数が多いと約10%の高い感染率が常時認められた。<BR>一方これらの実験感染では, <I>B.pfeifferi</I>には3隻のミラシジウムで, <I>B.secdanica</I>には5隻のそれで100%感染が成立し, 両種ともマンソン住血吸虫の好適な中間宿主であることがわかった。<BR><I>B.globosus</I>は1.5~8.5mmの若い貝は5隻のミラシジウムで100%感染が成立し, 11~12mmの成貝では20隻以上のミラシジウムが必要である。ビルハルツ住血吸虫の好適な中間宿主であることがわかった。<BR>以上からタベタ地区でのマンソン住血吸虫症, ビルハルツ住血吸虫症の媒介中間宿主として, 前者には<I>B.pfeifferi</I>と<I>B.sudanica</I>が, 後者には<I>B.globosus</I>が主な役割を演じていることが推測される。
著者
吾妻 健 嶋田 雅暁 平井 啓久
出版者
高知大学(医学部)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

導入:これまで、Schistosoma属の起源について、ミトコンドリアDNAのcytochrome oxidasel遺伝子(CO1)、また核リボソームRNA遺伝子の、large ribosomal subunit rRNA遺伝子(lsrDNA)及びinternal transcribed spacer gene 2(ITS2)の部分塩基配列から系統関係を推定したが、本研究では、CO1、lsrDNA及びsmall ribosomal subunit rRNA遺伝子(ssrDNA)の全塩基配列をはじめて決定し、その情報をもとにSchistosomatidae科全体の系統関係を推定した。材料:解析対象の材料としてSchistosomatidae科のSchistosomatinae亜科6属、Bilharziellinae亜科2属、Gigantobilharziinae亜科2属の計10属29種、またアウトグループとして、Sanguinicolidae科のChimaerohemecus1属を用いた。本研究で決定し解析に用いた各遺伝子の塩基数は、CO1は、1,122塩基対、ssrDNAは1,831塩基対、lsrDNAは3,765塩基対であった。結果:今回は3つの遺伝子を結合した情報をもとに解析した。その結果、(Bilharziella(Trichobilharzia,(Dendritobilharzia, Gigantobilharzia)))の系統樹が支持された。また、(Ornithobilharzia + Austrobilharzia)と(Schistosoma + Orientobilharzia)のクレードとのシスターグルーピングが支持され、哺乳類住血吸虫はparaphyleticであることが推定された。また、Orientobilharzia属は、Schistosoma属内に含まれることが明らかになり、Schistosoma属も非monophyleticであると推定された。また、この系統樹では、S.incognitumは、Orientobilharzia属とシスタークレードをつくるので、これらの2種うち、おそらくOrientobilharziaが、アフリカ産グループとS.indicumグループの祖先種であると推定された。論議:Schistosoma属住血吸虫の起源に関する説については、これまで2つある。一つは、『アジアの住血吸虫は、ゴンドワナ大陸から分離したインド大陸プレートによってアジアにもたらされた。また南米の住血吸虫は、南米がアフリカ大陸と分離する以前にすでに移動していた。』とするゴンドワナ説(アフリカ起源説)である。もう一つは『住血吸虫の祖先は、アジアから哺乳類の大移動によりアフリカに広がった。一方、アジアに残った祖先種は、S.japonicumグループとして適応放散した。また、アフリカに渡った系統は、S.mansoniグループとS.haematobiumグループに分岐したが、S.indicumグループの祖先は、ヒトや家畜とともにアフリカからインドに戻った。』とするアジア起源説である。今回の研究により、後者のアジア起源説が一層支持される結果となった。