著者
吾妻 健 ウォン Z. ブレーラー D. ロー C.T. イトイ I. ウパタム S. 杉山 広 田口 尚弘 平井 啓久 川中 正憲 波部 重久 平田 瑞城 BLAIR David LO Chin-tson ITHOI Init UPATHAM Suchart WANG Zaihua
出版者
帯広畜産大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

アジアに於ける日本住血吸虫類には、日本住血吸虫、メコン住血吸虫、マレー住血吸虫の3種が知られているが、具体的な相互の類縁関係については、未だ不明である。本研究では、これら3種の系統類縁関係を調べるため、1)ミトコンドリアDNAの塩基配列、2)染色体のC-バンドパターン、3)中間宿主貝の核型、4)中間宿主貝の感受性、5)終宿主の感受性、及び6)終宿主における肉芽腫形成反応、について分析実験を行なった。1)ミトコンドリアDNAの塩基配列:本研究ではチトクロームCオキシダーゼサブユニットI(COI)領域のPCR増幅を試みた。各サンプルはTEバッファーでホモジナイズし、フェノール/クロロフォルムで2回、クロロフォルムで1回、処理した後、エタノール沈殿により、DNAを回収した。回収したDNAはテンプレートとして、PCRを行なった。プライマーは、5'- TTT TTT GGG CAT CCT GAG GTT T -3'及び5'- TAA AGA AAG AAC ATA ATG AAA AT -3'である。PCRの条件は、95℃ 1分、50℃ 1分、72℃ 3分、30サイクルである。得られた増幅断片はTAベクターにクローニングして、ABIのオートシーケンサー(373A)を用いて塩基配列を調べた。ホモロジー検索及び系統樹作成はClustalV(近隣接合法)とPaup(最大節約法)を用いて行なった。その結果、2つの異なる方法とも同じ結論に達した。即ちマレー住血吸虫は日本住血吸虫よりは、メコン住血吸虫に近く、メコン住血吸虫とクラスターを形成することが分かった。比較のために用いたアフリカ産のマンソン住血吸虫とビルハルツ住血吸虫は一つのクラスターを形成し、アジア産の日本住血吸虫類から隔たっていることが分かった。2)染色体のC-バンドパターン:日本住血吸虫、メコン住血吸虫、マレー住血吸虫のC-バンド分析を行ったところ、日本産の日本住血吸虫では、W染色体長腕のC-バンド内だけに真性染色体質の挿入が認められたが、メコン住血吸虫及びマレー住血吸虫では、両腕のC-バンド内に真性染色体質の挿入が認められた。さらにC-バンドの量はメコン住血吸虫及びマレー住血吸虫において日本住血吸虫より増加していることが観察された。このことから、メコン住血吸虫とマレー住血吸虫がより近縁であると推定され、ミトコンドリアDNAの結果と一致した。3)中間の宿主貝の核型と感受性:これは、宿主-寄生虫関係の進化と寄生虫自身の種分化との関係を明らかにするために行われた。まず、宿主貝の染色体について核型分析を行ったところ、a)マレー住血吸虫の第一中間宿主貝Robertsiella gismaniでは2n=34で性染色体はXY型であるが、Y染色体は、点状であること、b)メコン住血吸虫の第一中間宿主貝Neotricula apertaでは2n=34であるが、Y染色体は存在せずXO型であること、c)日本住血吸虫の第一中間宿主貝Oncomelania nosophora(ミヤイリガイ)では、2n=34で、性染色体はまだ未分化であること、等が明らかになった。4)中間宿主貝への感受性:日本産の日本住血吸虫とマレー住血吸虫をOncomelania nosophora(ミヤイリガイ)、O.minima(ナタネミズツボ)、Bythinella nipponica(ミジンニナ)の3種の貝に感染させたところ、両住血吸虫ともOncomelania nosophora(ミヤイリガイ)に感染し、セルカリアまで発育することが明らかとなった。4)終宿主の感受性:メコン住血吸虫及びマレー住血吸虫のセルカリアをマウス(ddY)、ハムスター(シリアン)、スナネズミ(MGS)の3種の終宿主への感染実験を行なったところ、すべてにおいて感染が成立することが分かった。15EA07:終宿主における肉芽腫形成反応:日本住血吸虫、メコン住血吸虫、マレー住血吸虫のセルカリアをマウスとラットに感染させ、肉芽腫形成反応の程度を比較した。まず、マウスでは3種住血吸虫とも著明な細胞反応を示したが、3種に差は認められなかった。しかし、ラットでは各々異なる程度の反応を認めた。即ち、肉芽腫形成反応はメコン住血吸虫で最も弱く、マレー住血吸虫で、最も強い反応を示した。一方、肝内虫体に対する細胞反応は虫卵に対する反応と逆にメコン住血吸虫で最も強く、マレー住血吸虫で、最も弱い反応を示した。このことから、宿主細胞の認識は虫体と虫卵で大きく異なることが分かった。
著者
菅原 亨 郷 康広 鵜殿 俊史 森村 成樹 友永 雅己 今井 啓雄 平井 啓久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第25回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.14, 2009 (Released:2010-06-17)

哺乳類の味覚は,基本的に甘み・酸味・苦味・塩味・うま味の5つを認識することができる。その中で苦味は,有毒な物質の摂食に対しての警告であり,ほぼすべての動物が苦味物質に対して拒否反応を示す。一般に苦味は,有害物質の摂取に対する防御として進化してきたと考えられている。一方,チンパンジーにおいて寄生虫感染の際に自己治療として植物の苦味物質を利用することが知られている。苦味は薬理効果のある植物の認識としての役割も併せ持つことを示唆している。我々は,霊長類における苦味認識機構の進化・多様化に興味を持って研究をおこなっている。 苦味は,七回膜貫通型構造を持つ典型的なG蛋白質共役型受容体の1種であるT2Rを介した経路で伝わる。T2Rは,舌上皮の味蕾に存在する味細胞の膜上で機能しており,全長およそ900bpでイントロンがない遺伝子である。近年の研究で,T2Rは霊長類ゲノム中に20~40コピー存在していることがわかっている。特徴的なことは,その遺伝子数がそれぞれの生物種で異なることである。これらの種特異性は,採食行動の違いと関連があると考えられる。また,ヒトやチンパンジーでは,味覚に個体差があることが知られているが,その要因はT2R遺伝子群の1つであるT2R38の一塩基多型(SNP)であることが明らかにされている。T2Rの機能変化は,個体の味覚機能に直接影響を与えると考えられる。 本研究では,46個体の西チンパンジーでT2R遺伝子群の種内多型を解析した。T2R遺伝子群の進化や個々のT2R遺伝子のSNPを解析し,チンパンジーにおける味覚機能の進化や採食行動との関連性を考察した。
著者
古賀章彦 平井 百合子 平井 啓久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第27回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.45, 2011 (Released:2011-10-08)

<目的> StSat 反復配列が形成するブロック1か所あたりの平均の大きさは、 過小に推定して、3 × 109 bp(ゲノムサイズ)× 0.001(割合の推定値)/ 24(染色体数)/ 2(両末端)= 60 kb である。異なる染色体の端部に塩基配列が均質で、かつ長大な領域が、テロメアに加えて存在していることになる。このため「StSat 反復配列の領域で非相同染色体間の組換えが頻繁に起こる」との推測が成り立つ。これを直接検出することを我々は目指している。ただし、特定の反復単位を見分ける手段はないため、マーカーのDNA断片を染色体に組み込んだうえでその挙動を追うことになり、時間を要する。そこで、短時間で可能な間接的な検証のための実験を考案し、これを行った。<方法> StSat 反復配列を含む約 30 kb のプラスミドクローン(A)と、含まない同じ大きさのクローン(B)を作り、それぞれをチンパンジーの培養細胞にリポフェクション法で導入した。クローンはサークル状であるため、染色体との間で組換えが1回起こるとクローンの全域が染色体に組み込まれる。これが起こることを可能にする時間として4世代ほど培養した後、AとBに共通する部分をプローブとして、染色体へのハイブリダイゼーションを行った。<結果> Aを導入した方でのみ、主に染色体端部にシグナルが観察された。StSat 反復配列の部分で組換えが起こってクローンが染色体に取り込まれたとの解釈が順当であり、頻繁な組換えの間接的な検証であるといえる。<考察> 一般に染色体のある場所で組換えが起こるとその近辺での組換えが抑制されることが、知られている。これを考慮すると、「チンパンジーでは StSat 反復配列があるために、隣接する領域での非相同染色体間組換え頻度は、ヒトより低い」ことが可能性として考えられる。
著者
平井 啓久 古賀 章彦 岡本 宗裕 安波 道朗 早川 敏之 宮部 貴子 MACINTOSH Andrew カレトン リチャード 松井 淳 中村 昇太
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

病原体が通常宿主特異性を持つために、宿主と病原体は頑健な宿主寄生体関係を示す。これを病態生理的発現型と見なすことができる。その特性を基盤にして、アジアの霊長類(特に多様性の高いテナガザル類ならびにマカク類)に焦点をあて、これらに感染する病原体(ウイルス(サルレトロウイルス)、細菌(ヘリコバクター)、寄生虫(マラリア原虫))との共進化を以下の項目からひもとく。(1)双方の遺伝子の分化機構を明確にする。(2)霊長類の生物地理学的分化との総合的見知から、病原体と宿主霊長類の双方の進化史を描く。(3)宿主応答機構ならびにゲノム内分化機構から宿主寄生体関係史を遺伝生理学的に明らかにする。
著者
吾妻 健 嶋田 雅暁 平井 啓久
出版者
高知大学(医学部)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

導入:これまで、Schistosoma属の起源について、ミトコンドリアDNAのcytochrome oxidasel遺伝子(CO1)、また核リボソームRNA遺伝子の、large ribosomal subunit rRNA遺伝子(lsrDNA)及びinternal transcribed spacer gene 2(ITS2)の部分塩基配列から系統関係を推定したが、本研究では、CO1、lsrDNA及びsmall ribosomal subunit rRNA遺伝子(ssrDNA)の全塩基配列をはじめて決定し、その情報をもとにSchistosomatidae科全体の系統関係を推定した。材料:解析対象の材料としてSchistosomatidae科のSchistosomatinae亜科6属、Bilharziellinae亜科2属、Gigantobilharziinae亜科2属の計10属29種、またアウトグループとして、Sanguinicolidae科のChimaerohemecus1属を用いた。本研究で決定し解析に用いた各遺伝子の塩基数は、CO1は、1,122塩基対、ssrDNAは1,831塩基対、lsrDNAは3,765塩基対であった。結果:今回は3つの遺伝子を結合した情報をもとに解析した。その結果、(Bilharziella(Trichobilharzia,(Dendritobilharzia, Gigantobilharzia)))の系統樹が支持された。また、(Ornithobilharzia + Austrobilharzia)と(Schistosoma + Orientobilharzia)のクレードとのシスターグルーピングが支持され、哺乳類住血吸虫はparaphyleticであることが推定された。また、Orientobilharzia属は、Schistosoma属内に含まれることが明らかになり、Schistosoma属も非monophyleticであると推定された。また、この系統樹では、S.incognitumは、Orientobilharzia属とシスタークレードをつくるので、これらの2種うち、おそらくOrientobilharziaが、アフリカ産グループとS.indicumグループの祖先種であると推定された。論議:Schistosoma属住血吸虫の起源に関する説については、これまで2つある。一つは、『アジアの住血吸虫は、ゴンドワナ大陸から分離したインド大陸プレートによってアジアにもたらされた。また南米の住血吸虫は、南米がアフリカ大陸と分離する以前にすでに移動していた。』とするゴンドワナ説(アフリカ起源説)である。もう一つは『住血吸虫の祖先は、アジアから哺乳類の大移動によりアフリカに広がった。一方、アジアに残った祖先種は、S.japonicumグループとして適応放散した。また、アフリカに渡った系統は、S.mansoniグループとS.haematobiumグループに分岐したが、S.indicumグループの祖先は、ヒトや家畜とともにアフリカからインドに戻った。』とするアジア起源説である。今回の研究により、後者のアジア起源説が一層支持される結果となった。
著者
平井 啓久
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

(1)ヒト第2染色体形成メカニズムを再検討する目的で、ヒト第2染色体ペイントDNAおよびα-サテライトDNAをプローブとして、ヒト、チンパンジー、およびゴリラの染色体に蛍光in situsハイブリダイゼーション(FISH)を行った。その結果、ペイントDNAは、従来の見解(ヒト第2染色体はチンパンジー第12・13染色体の末端融合によって形成された)を、確認した。α-サテライトDNAは、厳しい条件下で、ヒト第2染色体、チンパンジー第12染色体および小型メタセントリック(未同定)、およびゴリラ第11染色体のセントロメアに対してポジティブな反応を示した。今回のデータからでは、ヒト第2染色体の形成メカニズムに新しい知見を加える事はできなかったが、チンパンジーに、共通セントロメアを有する2対の染色体が存在する事は、その2対の染色体が共通の染色体から派生した可能性を示唆している。そこで、現在、染色体顕微切断法を用いて、チンパンジー第13染色体のセントロメアのDNA採取およびそれを用いてのFISHを行っている。また、チンパンジーの染色体分化の解明のための新戦略を検討中である。(2)シロテテナガザル、アジルテナガザル、ミューラーテナガザル、クロッステナガザル、およびワウワウテナガザルの染色体をC-バンド染色で観察したところ、従来発表されているパターンと異なるデータが得られた。腕内介在バンド、末端バンド、短腕全ヘテロクロマティン等を有する染色体が多く観察された。また、G-バンド染色で従来観察されていた第8染色体の逆位多型も、以前とは異なる状況で観察された。現在、染色体44本型テナガザル類の染色体分化のメカニズムを、今回観察した事実を基に、従来とは異なる方向から検討している。さらに、そのデータを基に、染色体変異ネットワークおよび核グラフ法を用いて数量的に解析中である。
著者
平井 啓久 香田 啓貴 宮部 貴子 遠藤 秀紀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

調査地はインドネシア、タイ、マレーシア、バングラデシュの4カ国を対象におこなった。解析した種は8種である。西シロマユテナガザルの染色体ならびにDNAの解析を世界で初めておこない、第8染色体に逆位を発見した。テナガザル全4属のミトコンドリアゲノムの全塩基配列を用いて系統関係を解析し、新たな分岐系統樹をしめした。転移性DNA解析がヘテロクロマチンの研究に新たな洞察を与えた。音声や形態を新規の方法で解析し、新たな視点を示した。