- 著者
-
宮田 彬
- 出版者
- Japanese Society of Tropical Medicine
- 雑誌
- Japanese Journal of Tropical Medicine and Hygiene (ISSN:03042146)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.2, pp.161-200, 1975-09-15 (Released:2011-05-20)
- 参考文献数
- 199
- 被引用文献数
-
3
7
最近30年間に発表された原虫の凍結保存に関する論文は, 200篇を越えている。そこでこの論文では, それらのうち主な論文を紹介するとともに凍結保存が可能な原虫類の保存方法や保存期間などを総括し, さらに今後の問題点を論じた。また今までに十分な検討を加えずに用いられていた凍害保護剤について, 特にグリセリンとDMSOの用い方, 平衡時間などについて, 著者の研究を中心に紹介した。原虫類の最適保存法及びこの論文の論旨は次の通りである。1) 原虫は, 適当な保護剤を含む溶液あるいは培地中に攪伴し, 試験管またはアンプルに分注する。2) 保護剤の濃度は, グリセリンは10%前後, DMSOは, 7.5%前後が適当である。グリセリンの場合は, 比較的高い温度 (例えば37C) で30-60分平衡させる。高温に耐えない原虫は, 25C前後で60-90分平衡させる。DMSOは, 低い温度 (例えばOC) で加え, 平衡時間をおかず直ちに凍結する。3) 凍結は2段階を用いる。すなわち, -30C前後のフリーザー中で約90分予備凍結し (この時冷却率は約1C, 1分), ついで保存温度へ移す。4) 保存温度としては, 液体窒素のような超低温が好ましいが, -75Cでも数カ月程度は保存可能である。5) 凍結材料は, 37~40Cの恒温槽中で急速融解し, 融解後は, すみやかに動物あるいは培地へ接種する。6) 原虫の種類によっては, もっと簡単に保存できる。原虫ごとに予備試験を行い, 目的の保存温度に数日保存して高い生存率の得られる方法を採用するとよい。7) 今後の問題点としては, 保存原虫の性質 (薬剤耐性, 抗原性, 感染性など) の長期保存における安定性を検討することと純低温生物学的な立場から超低温下における細胞の生死のメカニズムを解明することである。前者については, 多くの研究者が凍結保存による実験株の性質の変化は認められないと指摘している。8) 終りに数多くの実験株を保存し, 研究者に提供する低温保存センターの設置の必要性を提案した。