著者
浅川 和秀 半田 宏 川上 浩一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.158, no.1, pp.16-20, 2023 (Released:2023-01-01)
参考文献数
11

TAR DNA-binding protein 43(TDP-43)は,進化的に保存されたRNA/DNA結合タンパク質である.TDP-43は,健康な細胞では細胞核に豊富に含まれるが,筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患においては,変性した神経細胞の細胞質に凝集体として蓄積することが知られている.我々は,青い光を吸収すると自己会合する活性をもったCRY2タンパク質をタグとして用い,光照射によって多量体化(オリゴマー化)するTDP-43のバリアント(opTDP-43h)を構築した.組織の光透過性が高い熱帯魚ゼブラフィッシュの仔魚の運動ニューロンにopTDP-43hを発現させて青色光を照射すると,細胞核に局在していたopTDP-43hは,徐々に細胞全体に拡がり,やがては細胞質に凝集体を形成した.興味深いことに,短時間の光刺激によって一過的にopTDP-43hを細胞質に移行させると,opTDP-43hの凝集体が蓄積していない状態でも,運動ニューロンの軸索成長が阻害されることが明らかになった.これらの結果は,オリゴマー化したTDP-43が,凝集体として細胞質に蓄積する前の段階で細胞毒性を発揮していることを示唆している.本総説では,この光遺伝学型TDP-43を用いたゼブラフィッシュALSモデルを概説し,ALSにおける運動ニューロン変性においてTDP-43が発揮する細胞毒性のメカニズムについて議論したい.
著者
近藤 滋 川上 浩一 渡邉 正勝 宮澤 清太
出版者
大阪大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2004

ゼブラフィッシュの皮膚模様形成機構に関して、以下の結果を得た。1)色素細胞間の相互作用のネットワークを明らかにした。2)上のネットワークを組み込んだ計算機シミュレーションが、模様形成の過程を正確に再現した。3)模様変異突然変異2種の遺伝子クローニングした。4)クローニングされた遺伝子は、Kチャンネルとギャップジャンクションであった。5)クローニングされた遺伝子、または改変した遺伝子を導入することで、模様がさまざまに変化することを発見した。6)5の事実から、模様形成のためのシグナル伝達には、イオンや低分子が重要な役割を果たしていることが明らかになった。以上により、ゼブラフィッシュの皮膚模様形成に関して、多くの事実が発見され、模様形成原理の解明に大きく近づくことができた。
著者
川上 浩一 近藤 滋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

川上は、ゼブラフィッシュにおいては成魚のストライプパターン形成異常変異Hagoromoの原因遺伝子であり、マウスにおいては指形成異常変異Dactylaplasiaの原因遺伝子であるhagoromo遺伝子(Dactylin遺伝子)の産物の機能解析を.行った。すなわち、マウスDactylin遺伝子産物の生化学的解析を行い、特異的なターゲット蛋白質をユビキチン化し、蛋白質分解経路へ導く働きをするSCFユビキチンリガーゼの構成成分であることを明らかにした。近藤は、ゼブラフィッシュストライプパターン形成を制御する普遍原理の研究をさらに発展させた。縦じまと横じまをもつ近縁な熱帯魚種間でのパターン変化を説明する新しい理論を考案し、簡単なパラメーターの変化でパターンが変化しうることを証明した。これは、熱帯魚の体表面のストライプパターンが、「反応拡散システム」で作られるという近藤の従来からの仮説を強く裏付けるものである。