著者
松本 一郎 川名 林治
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.319-326, 1992-03-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

小児急性呼吸器感染症の病原ウイルス学的サーベイランスにおいて, 5株のヒト呼吸器コロナウイルス (HRCV) が, L132細胞で, 分離された. これらの5株中3株は, 1979年3月29日に久慈市で採取されたインフルエンザ様疾患患者の鼻咽頭ぬぐい液から分離され, HRCVがインフルエンザ様疾患の一因となっている可能性を示した.他の2株は同年3月16日と4月27日に盛岡市で採取した無熱性上気道炎患者の鼻咽頭ぬぐい液から分離された.これらの5株は, 形態, BUDR耐性, chloroform感受性, またL132細胞での電顕的増殖像など, 典型的なHRCVの性状を示した. また抗HRCV (229E) 血清を用いた蛍光抗体法により, これらを229E関連HRCVと同定した. これらは, 本邦初の, HRCV分離例と思われる.各株に対する抗血清の中和抗体価を50%plaquereductiontestで比較した. 分離株に対する抗HRCV (229E) 血清の中和抗体価は, HRCV (229E) に対する値よりも40~100倍低値であった. 分離株間には著しい抗原性の差は見られなかった. またplaque形成能においても, 5株の分離株はHRCV (229E) と異なっており, HRCV (229E) 関連ウイルスは, 抗原性においても, plaque形成能においても, 多様な株が侵襲していることを示した.