著者
木村 昭夫 五十嵐 英夫 潮田 弘 奥住 捷子 小林 寛伊 大塚 敏文
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.223-230, 1993
被引用文献数
7 3

全国国立大学付属病院より分離収集された黄色ブドウ球菌430株を, コアグラーゼ型別に加えてエンテロトキシン (SE) 並びにToxic Shock Syndrome Toxin-1 (TSST-1) 産生性をマーカーとして疫学的に細分し, これらの疫学マーカーと10種抗菌剤に対する感受性の関連性について調査した. 全黄色ブドウ球菌はVCMに感受性であった。OFLXには, コァグラーゼII型-SEA+SEC+TSST-1産生株は高度耐性傾向を示したが, 他の株では約半数が感受性であった. FMOXに対して, コアグラーゼIV型-SEA産生株では感受性菌が78%に認められた。しかし, コアグラーゼII型-SEA+SEC+TSST-1産生株には, 感受性菌は存在しなかった. IPMに対して, コアグラーゼIV型-SEA産生株, コアグラービIII型-毒素非産生株およびコアグラーゼII型-毒素非産生株においては, 50%以上の感受性菌が認められた。しかし, コアグラービII型-SEC+TSST-1産生株およびコアグラーゼII型-SEA+SEC+TSST-1産生株では耐性化が進んでいた。MINOに対して, コアグラーゼIII型-毒素非産生株およびコアグラーゼII型-毒素非産生株は良好な感受性を示した。しかし, コアグラービII型-SEC+TSST-1産生株およびコアグラーゼIV型-SEA産生株では中間的な感受性を示し, コアグラーゼII型-SEA+SEC+TSST-1産生株では感受性が著しく低かった。STに対して, コアグラーゼIV型-SEA産生株は耐性化が進行していたが, 他の株は良好な感受性を示した。
著者
遠藤 博久 小林 寛伊 大久保 憲
出版者
東京医療保健大学
雑誌
医療関連感染
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.30-34, 2008-07

アルコール擦式消毒薬は、優れた殺菌力により確実に短時間で微生物を減少させることができること、手洗いシンク等の特別な設備は必要なく、ベットサイドへの設置や携帯用で持ち歩くことができることから予指衛生の遵守率向上が期待でき、院内の交差感染を防ぐ極めて有効な手段として臨床の現場で使用されている。しかし、Masciniらはvancomvcin-resistant Enterococcus faecium(VRE)のアウトブレークの介入において、アルコール擦式消毒薬の使用量増加がアウトブレイクコントロールの唯一の効果ではなく、流行株にターゲットを絞った感染制御、流行株保菌者の隔離、手指衛生の遵守率の増加と先制隔離によって流行株の広まりをコントロールできたとしている。また、Huangらはアルコール擦式消毒薬の導入または遵守率向上だけでは、MRSA菌血症数は減少せず、ICUの患者の鼻腔のMRSA保菌調査を行い、陽性者に接触予防策を導入することによって、MRSA菌血症数を減少させることができたとしている。これらは複数の対策によりえられた効果であり、care bundleの考え方の有意性を示している。そして、アルコール擦式消毒薬使用の遵守率と病原微生物の院内伝播率の間に相関関係はなかったとしているEckmannsらは、この原因としてアルコール擦式消毒薬使用の遵守率の平均が40%と低く、院内伝播率の相違が明確に出なかったためとしている。これらのことから、アルコール擦式消毒薬は、耐性菌などの院内伝播防止に有効であるが、臨床現場における効果として手指消毒の低い遵守率や感染対策の基本である標準予防策や接触予防策を疎かにした場合では、十分な病原体伝播の防止効果が得られないといえる。病院におけるアルコール擦式消毒薬の使用増加とC.Jifficile感染症に関してGordinらは、アルコール擦式消石鹸と流水の手洗いで落としたあと、付加的にエタノールで消毒を行うことは有用であると考えられる。今回行ったアルコール擦式消毒薬の臨床的効果に関する文献考察から、アルコール擦式消毒薬の特徴を理解し正しいタイミングや使用方法でアルコール擦式消毒を使用するとともに、感染対策の基本である標準予防策や接触感染予防策を遵守することが、より確実な交差感染予防につながると考えられる。
著者
土井 研人 木村 哲 小林 寛伊 荒記 俊一
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.113-117, 1997-09-10
被引用文献数
1

二つの独立に機能している一般外科A, Bの臨床分離菌および抗菌薬使用状況を比較した. その結果, 分離菌では創感染部位などからの分離患者数において, <I>Staphylococcus aureus</I>, <I>Enterococcus faecalis</I>が外科Bのほうが有意に多く, 抗菌薬使用においては外科Bでの第三世代セフェム系抗菌薬の使用頻度が外科Aより多いことがわかった. このことから両外科の分離患者頻度の差は, 第三世代セフェム系抗菌薬の使用によりグラム陽性球菌が選択的に増殖した結果と考えられる.
著者
矢野 久子 小林 寛伊
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.40-43, 1995-10-20
被引用文献数
8

病院感染防止対策のうえで, 手洗いの重要性が強調されているにもかかわらず十分な衛生学的手洗いが行われていないという指摘がある. 今回, 気管内吸引前後の看護婦の手洗い行動の観察と手指の細菌学的状態を調べた.<BR>126回の気管内吸引前後における手洗い行動の観察結果では, 吸引前後に手洗いを行ったのは1回 (0.8%) であった. 吸引前後に手洗いをしないで素手で吸引, または吸引に際して手袋の着脱をしなかったのは25回 (19.8%) であった. 観察した全手洗い時間の平均は5.6秒 (標準偏差3.1) であり, 手洗い行動の不十分な現状が明らかになった.<BR>吸引前, 直後の看護婦の手指からはmethicillin resistant <I>Staphylococcus aureus</I> (MRSA), <I>Serratia marcescens, Klebsiella pgumoniae</I>が検出された. 気管内吸引後, 8-12秒の4w/v%手洗い用クロルヘキシジンによる手洗いを行った後では, ほとんど細菌は検出されなかった.<BR>手洗いの不十分な現状とともに手洗いをまず行うことの重要性が明らかになった.
著者
小林 寛伊
出版者
日本医療機器学会
雑誌
医科器械学 (ISSN:0385440X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.288-299, 2005-05-01
被引用文献数
2

2001年12月14日に厚生労働省は, 医薬局長通知で薬事法一部改正を行い医家向け医療用具に対して添付文書を義務化した. 添付文書の中には"承認番号を記載するほか, 単回使用の医療用具については, 「再使用禁止」と記載すること. "が規定された. この改正は, 2002年1月14日に施行され, 翌年の2003年1月13日までは既承認医療用具添付文書改訂猶予期間とされ, 2003年1月14日より完全施行された. その後, 半年を経過した2003年7月に"感染防止と医療器材を考える会"では2000年7月に行った第1回の調査に続き, 2回目の「シングルユース器材の再滅菌使用に関する調査」を行い, 結果を日本医科器械学会刊行の"病院サプライ"および"医器学"に報告した. 現状では, かなりのシングルユース器材が再滅菌再使用されており, 中には開封したのみとはいえ, 人工弁, ペースメーカー, 人工骨頭などが含まれていた. この報告書を受けて2003年12月22日にはNHKのニュース番組で『医療器具, 使い捨てなのに再利用』と題して取り上げられ, シングルユース器材の再滅菌使用の実態が広く国民に向けて報道された.
著者
森兼 啓太 小西 敏郎 阿部 哲夫 阿川 千一郎 西岡 みどり 谷村 久美 野口 浩恵 小林 寛伊
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.139-144, 2000-05-18
被引用文献数
7

消化器手術後の手術部位感染 (SSI) サーベイランスを米国のNNISシステムに従って施行した.対象は当科で9ヵ月間に施行された消化器外科開腹手術症例364例とした.感染制御チームを結成し, 巡回により基礎データを収集しSSIを拾い上げ, 外科医が創を観察しCDCの基準に従ってSSIか否かを判定した. 一方でCDCのSSI防止ガイドラインのうち現状を改善することが可能と思われる対策を講じ, 介入を行いつつサーベイランスを継続した.まず, 初めの4ヵ月間の創分類III, IV (汚染, 感染創) の症例ではそれぞれ9例中5例 (56%), 10例中9例 (90%) と高率にSSI発生を認め, 全体のSSI発生率に対する大きな撹乱因子となると考え, 以下の検討から除外した.創分類I, II (清潔, 準清潔創) の症例におけるSSI発生率は全体で35/323 (10.8%) であり, 術式別に分類しても, またrisk index score別にみてもNNISのデータより約3-5倍の高率であった.しかし, 米国では後期SSI発生症例を遺漏している可能性がある. 全例に術後30日のサーベイランスを遂行できた我々のデータとCDCのデータとの単純な比較はできないと思われた.サーベイランスの施行に並行して介入を行い, 主として抗生物質の術前投与が徹底された.しかし本研究期間内にSSI発生率の低下はみられなかった. 今後も継続的にサーベイランスを施行していく必要があると考えられた.
著者
青木 幸昌 佐々木 康人 平岡 真寛 名川 弘一 斎藤 英昭 花岡 一雄 中川 恵一 青木 幸昌 澤田 俊夫 小林 寛伊
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

術中照射専用可動型電子線照射装置が完成した。電子線エネルギーは4,6,9,12MeVのいずれかを選択可能で、出力は最大10Gy/分、照射野は直径3-10cmが可能である。既存の手術場内に設置して、一人による装置の移動が可能である。米国、カルフォルニア大学において、臨床治験を開始した。同施設において、漏洩線量を測定した結果、1週間に12例、2400Gyを照射して、手術室周囲の最大検出線量は、室外のドア表面で72μシ-ベルトであった。従って、室内を放射線管理区域に設定することによって、追加遮蔽を要さないことが確認された。電子線エネルギーが大きくなるに従って、漏洩線量も増加することが示された。実際の運用は以下のようなものとなる。先ず、装置の保管室から手術場へ移送する。装置を規定の場所に設置し、ケーブル類をとりつけた後、QAに関するチェックを行う。この段階で放射線治療スタッフは一旦退出し、外科スタッフが装置にプラスティックキャップとドレープで装置を覆う。外科操作が完了すると、放射線治療スタッフとともに、使用アプリケータを選択する。手術台を照射装置まで移動させる。放射線スタッフがアプリケータを照射装置にドッキングさせ、照射線量と電子線エネルギーを決定する。スタッフは保管室に入り、モニタをテレビで観察しながら、約2分の照射を行う。この後、必要に応じて、手術操作を継続する。本装置を規制する法規として、科学技術庁関係の放射線障害防止法と厚生省関係の医療法について検討を行った結果、放射線障害防止法では装置の移動に関する問題はなく、放射線管理区域設定上の運用が問題となるのみと考えられるのに対して、医療法では、診断用高エネルギー放射線発生装置は決められた使用室で使用するとされており、今後の重大な検討項目となった。