著者
佐藤 克郎 川名 正博 山本 裕 佐藤 雄一郎 花澤 秀行 高橋 姿
出版者
The Japan Broncho-esophagological Society
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.465-471, 2002
被引用文献数
2

当科で音声外来開設以来13年間に経験した輪状披裂関節脱臼の2例につき,その経過を報告するとともに,輪状披裂関節脱臼の診断,音声機能の評価,経過観察と治療の方針につき検討した。当科の2症例はおのおの頸部への鈍的外傷および気管内挿管により前方型輪状披裂関節脱臼が発生し,音声機能を評価しつつ脱臼の整復を計画していたところ,おのおの発生から1および4カ月後に自然整復された。音声機能検査では,両例とも声門閉鎖不全の所見に加え基本周波数の上昇が認められ,自然整復後はいずれも改善し正常化した。文献的にも本症の自然整復例はある程度みられ,前方脱臼に多い。そこで自然整復の機序を推察すると,披裂軟骨に後方への張力として働く筋は唯一の声門開大筋で,他の筋に比べ働く頻度が高い後輪状披裂筋であるため,前方脱臼は自然整復の可能性が高いと考えられた。気管内挿管や頸部の外傷後に喉頭の症状をきたした症例においては,本疾患をも念頭におき,病歴や局所所見のみにとらわれず画像診断,音声機能検査,筋電図検査などを用いて確実に診断し病態を評価したうえで,容易に反復し施行できる音声機能の経過を参考に治療を計画することが重要と考えられた。