- 著者
-
山本 裕子
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.1, pp.364-380, 2018-09-30 (Released:2018-12-26)
- 参考文献数
- 15
近年「材料を切っていきます」や「煮込んであげましょう」のように,手順や方法を説明するような接客場面で補助動詞が多用される.本稿はこの現象が待遇意識の変化の現れの一つとして捉えられることを,大学生への質問紙調査を通して示したものである.調査は接客場面をいくつか示し,1)提示された選択肢の中でどのような表現を好むか,2)その表現にどのような印象を抱いているか,の2段階で実施した.1)の結果,大学生は接客場面において,非敬語よりは敬語を,また短い形式よりも長い形式を好む傾向があることが示された.2)からは,敬語にはもっぱら「丁寧さ」のみを感じているが,補助動詞には「丁寧さ」に加えて「親しい」「楽しい」「優しい」等の近接化に関わる印象を抱いていることが示された.これらの近接化に関わる印象は,各補助動詞の本来の意味からもたらされるものである.同時に補助動詞がしばしば縮約形で用いられることも影響している可能性がある.また調査2)の結果を「距離」の観点から整理すると,補助動詞は水平方向に適度な距離感をもたらすものであると言える.以上のことから,補助動詞の多用は,ポジティブ・ポライトネス・ストラテジーと同じく「共感・連帯」によって配慮を表す志向性(〈寄り添い志向〉)の一つの表れであり,待遇意識の変化の方向性と合致していると結論付けられることを述べた.