著者
川添 豊 紺野 邦夫 鈴木 日出夫 高橋 和彦
出版者
名古屋市立大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

「目的」リグニン類のエイズ治療薬としての可能性を確立する事を目的として、quasi-in-vivoとでも言うべきassay法を採用し検討した。即ち、動物モデルの確立していないエイズ薬選別には、一般に、細胞レベルの効力判定にたよっているのが現状である。多くの候補リグニン類の中から、今回は、p-coumaric acidの脱水素重合体(DHP-pCA)を選び検討を行った。「結果と考察」合成リグニンをマウスに静脈内投与し、経時的に血清を採取してその抗HIV活性を測定したところ、投与直後から5時間にわたって、血中に有効な抗HIV活性が持続し、その活性は時間依存的に減衰し24時間後には消失することが明かとなった。これによりリグニンが抗HIV薬として非常に有望であることが示された。また、その活性本体は血清の熱処理によって消失しないことも明かとなった。おそらく、投与されたリグニンは生体成分によって不活性化されることなく10時間程度は有効濃度が維持されるものと考えられる。経口投与では、静脈内投与に比べ有効性は低いが、効果を発現していることも示された。これらの検討の過程で、合成リグニンの静脈内投与後15分から30分の間、血清中に細胞毒性因子が誘導されることが明かとなった。しかし、この因子は抗HIV活性本体とは異なるものである。この毒性は一過性のものであり、治療上支障があるとは考えられない。事実、マウスに対して、100mg/kg以上の連続投与によっても何等の毒性も検出されない。合成リグニンとしてp-クマ-ル酸、フェルラ酸、カフェー酸の重合体を用いて検討を行ったところ、毒性に関しては、フェルラ酸を前駆体をする合成リグニンが最も優れていることが判明した。今後、本格的な毒性試験を行う予定である。
著者
佐々木 琢磨 米田 文郎 宮本 謙一 前田 満和 川添 豊 兼松 顕
出版者
金沢大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1990

前年度に引続き2'ーdeoxycytidineの2'ーarabino位への置換基の導入を検討し、2'ーazido体(Cytarazid)の簡便、大量合成法を確立すると共に2'ーシアノ体(CNDAC)をラジカル反応を用いて新たに合成した。種々のヒト固型腫瘍由来細胞に対しCytarazid及びCNDACはともに強い増殖抑制効果を示した。また、podophyllotoxin型リグナン類の合成をDielsーAlder反応を用いて合成し、強い抗腫瘍活性を有する化合物を得ることができた。ブレオマイシンの細胞毒性は、ポリアクリル酸と撹拌すると増大するが、この時の細胞死は未知の致死機構によるものと考えられ、休止期細胞や耐性細胞にも同等に作用することを見出した。白金錯体を酸性多糖に結合させた高分子マトリックス型錯体を合成し、それらがB16ーF10メラノ-マの肺転移を抑制することを見出した。酸化還元代謝調節能を有するフラビンや5ーデアザフラビンの誘導体を合成した。これらの中でもNO_2基やCOOC_2H_5基を有するものが強い抗癌活性を示した。次に生元素の一つであるセレンを骨格内に導入した5ーデアザー10ーセレナフラビンを合成し、この化合物もかなり強い抗癌活性を有することを見出した。一方、ヒト腫瘍に対する簡便で能率の良い転移治療モデルとして、鶏卵胎児の転移多発臓器のおけるヒト腫瘍の微小転移巣に含まれるヒト腫瘍細胞の特定遺伝子をPolymerase Chain Reaction法により定量的に検出する我々独自の方法を用いて、転移抑制及び治療に有効な物質をスクリ-ニングした。その結果、本研究班で合成したDMDC(2'ーdeoxyー2'ーmethylidenecytidine)とCNDACがヒト線維肉腫HT1080の肝・肺の転移巣を顕著に抑制することがわかった。選択性の高いプロテインキナ-ゼ作用薬を得るために新しくデザインされたイソキノリン誘導体の細胞周期及び制癌剤多剤耐性に及ぼす影響を検討した結果、in vitroではあるが、P388/ADRの耐性解除作用の強い物質を見出した。