著者
三崎 義堅 川畑 仁人
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ (Peroxisome proliferator-activated receptor-γ : PPARγ)は、主に脂肪細胞分化と糖代謝に関わると考えられているステロイドホルモン核内受容体スーパーファミリーに属する核内転写因子である。リンパ球にもこの分子が発現しているが、その機能は明確でなかった。我々は、このPPARγ欠損マウスを作成し、そのヘテロ接合体(以下PPARγ+/-)(変異アリルのホモ接合体は致死)脾臓B細胞において、NFκBの核内移行が亢進し、増殖応答亢進、アポトーシス遅延を示すことから、B細胞機能にPPARγが深く関わっていることを見出した。また抗原特異的免疫応答はT細胞増殖試験で8-15倍、特異的抗体価で3-4倍と増強されていた。そこでPPARγ機能を修飾することにより、抗原特異的免疫応答を増強する手法が開発可能であると考えられ、免疫系細胞におけるPPARγの役割を検討することにした。PPARγ+/-由来T細胞は、in vitro抗原刺激培養すると、+/+由来T細胞と比較して、それぞれPPARγ+/+由来脾樹状細胞上においては約2倍、+/-由来上では約5倍のインターフェロンγ(以下IFNγ)を産生することが認められた。なお、IL-2、IL-4産生については明確な変化は認められない。従って、PPARγ発現量の減少は、T細胞においてINFγの誘導を増強することが明かとなった。現在、今後IFNγレセプター信号伝達系にPPARγが及ぼす影響を中心に解析を進めていく。以上の結果は、細胞障害性T細胞誘導も期待できるTh1型免疫応答で、かつ抗体産生も増強されるという、感染症に対するかなり理想に近い抗原特異的免疫応答増強法が、PPARγという一つの分子を標的にすることで、達成可能であることを示唆すると考えられる。
著者
江里 俊樹 川畑 仁人 今村 充 神崎 健仁 赤平 理紗 道下 和也 土肥 眞 徳久 剛史 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.331a, 2013 (Released:2013-10-31)

抗核抗体は,全身性エリテマトーデスを始めとする種々の全身性自己免疫疾患の主要な特徴の一つであるが,その産生メカニズムは明らかではない.過去の報告によると,胸腺を欠いたヌードマウスでは抗核抗体産生とループス様の自己免疫が見られ,ヌードマウスにCD4+CD25−細胞を移入するモデルでは様々な自己抗体産生と臓器特異的自己免疫が見られる.我々はこれらのマウスモデルを用いて,lymphopenia-induced proliferation (LIP)を介した移入T細胞のfollicular helper T細胞(TFH)への分化,および腸内細菌の関与,という観点から抗核抗体産生について検討した.BALB/c野生型マウスからCD4+CD25−(conventional T)細胞を移入したBALB/cヌードマウスでは,IgG型抗核抗体を始めとする様々な自己抗体産生が早期に高率に見られた.移入されたconventional T細胞はLIPによってIL-21産生PD-1+TFH細胞へと分化し,germinal center形成と異常なB細胞応答を引き起こすことが観察された.さらに経口広域抗生剤投与によって腸内細菌を除去すると,LIPを介したTFH細胞分化の減少と,自己抗体産生の低下が見られた.腸内細菌が抗核抗体産生に重要な役割を果たしているという今回の新たな発見は,全身性自己免疫疾患の病態解明と新たな治療へつながる可能性がある.