著者
巽 保夫
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.269-288, 1983
被引用文献数
30

経済的な時間差分スキームを開発し,プリミティブモデルに使用した。本スキームでは重力波項以外の低周波項はリープフロッグ法で積分し,その時間積分間隔(&Delta;ta)はモデルの最大風速から決まる。振動数の高い重力波に対しては安定な数値解を得るため&Delta;taをM個の短いステップに分割(&Delta;ta/M=&Delta;tb)して時間積分を行う。分割数Mは重力波速の最大値と最大風速の比から決まる。すなわち時間積分は&Delta;tb間隔で計算する重力波項と&Delta;ta間隔で計算する低周波項(リープフロッグ法の時間外挿に当る2&Delta;ta内は一定とみなす)を加えたものを用いて&Delta;tbで積分し,2Mステップで時間積分1サイクルが完了する。本スキームはMarchuk(1965)が提案したsplittingとは全く異なるスキームであり,低周波項に対しては3-levelスキームである特徴を持つ。<br>本スキームの利点は,エクスプリシット法であるためにセミ&bull;インプリシット法と比較してプログラミングが大幅に簡略化される点と,低周波項の時間積分にリープフロッグ法を採用したことにより,2次の差分精度が得られる点である。<br>本スキームを気象庁の1981年のルーチンモデル(4L-NHM)に適用して比較実験を行ない,通常のエクスプリシット積分結果と本質的に差がないことを確認した。本スキームによる計算時間短縮率は Kudoh (1978)が開発したセミ&bull;インプリシットスキームによるものと同等(2.6~3.8)である。本スキームは気象庁の1982年現在のルーチンモデル(8L-NHM及び10L-FLM)に採用され,計算時間の短縮に大いに貢献した。
著者
二宮 洸三 古賀 晴成 山岸 米二郎 巽 保夫
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.273-295, 1984
被引用文献数
24

1982年7月23日九州西北部(長崎市近傍)で豪雨(~400mm/1日)が発生した。この豪雨の予報実験を13層42km格子プリミティブ&bull;モデルによって行なった。<br>九州北西部に集中した降水,その近傍における小低気圧と循環系の形成は24時間予報でかなり正確にシミュレートされた。しかし実況に比較すると予報雨量(~70mm/6時間)も低気圧の深まりも不充分である。特に22日12時(GMT)を初期値とする予報実験ではspin upに時間がかかり,はじめの12時間の降雨,低気圧発達が不充分であった。これらの問題は残るが,微格子モデルによる豪雨予報の可能性が示されたものと考える。非断熱過程の効果を確かめるためdry modelによる実験を行なうと,小低気圧の発達はなく上昇流も非常に弱い。降雨にともなう非断熱効果がさらに降雨を強めるという作用が推論される。<br>モデルの分解能増加の効果を見るため,11層63km格子,10層127km格子および8層381km格子モデルの予報と比較した。分解能増加によって降雨の集中性が強まるだけでなく,総(面積積算)雨量も増加する。分解能を増すと豪雨域周辺から豪雨域へ流入する水蒸気流束が増大するからである。<br>実験データにもとづき,豪雨域の水蒸気収支,対流不安定の生成,発散方程式および渦度方程式のバランスを解析した。<br>さらに1983年7月22~23日の山陰豪雨の予報実験を行った。東西にのびる豪雨域は予報されたが,予報された豪雨のピーク時と観測されたピークとの間には数時間の差があり,前線上の弱い小低気圧近傍の降雨は実際よりはやく予報され,一方小低気圧通過後の降雨は予報されなかった。小低気圧にともなわない降水が予報されなかった理由は現在不明である。