著者
武部 啓 五十棲 泰人 巽 純子 宮越 順二 八木 孝司
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

高圧送電線から放出される電磁場が白血病、脳腫瘍などを誘発するおそれがある、との疫学研究(アメリカ、スウェーデン)を実験的に支持することができるか、を明らかにするのが本研究の目的である。最大出力400ミリテスラ(4000ガウス)、50ミリテスラ(500ガウス)、5ミリテスラ(50ガウス)の3装置を作成し、哺乳動物(ヒト、ハムスター)細胞を用いて、(1)突然変異の誘発、(2)遺伝子発現の促進について調べた。すでに前年度までに、両者とも400ミリテスラでは確実に上昇がみられることを確認しているが、本年度は低出力、長時間ばく露の影響を明らかにすることに重点をおいた。もっとも感度が高いチャイニーズハムスター細胞を5ミリテスラ照射で最大13週間連続ばく露したが、突然変異の上昇はみられなかった。遺伝子発現の上昇はこれまで電磁場単独ではみとめられていなかったが、チャイニーズハムスター細胞では400ミリテスラでNOR-1遺伝子の発現が促進された。その発現は処理時間が5時間のところで高くなり、その後処理を続けると低下した。突然変異の型については、自然に生じる突然変異のDNA塩基配列の変化と電磁場(400ミリテスラ)誘発による突然変異とでは著しく異なっており、電磁場特有の変化がみられた。遺伝子損傷は、DNAへの直接の作用ではなく、DNA複製のエラーを高める間接的な効果であることが、DNA合成阻害実験からわかった。本研究によって、きわめて高密度の電磁場は、遺伝子に損傷を与えることが示されたが、低密度・長時間(マイクロテスラ)では人体に有害であるという証拠はない、とのこれまでの定説を支持する結果である。
著者
巽 純子
出版者
近畿大学原子力研究所
雑誌
近畿大学原子力研究所年報 = Annual Report of Kindai University Atomic Energy Research Institute (ISSN:03748715)
巻号頁・発行日
no.56, pp.7-17, 2020-03-22

[要旨]電気機器類の増加および通信技術の進展に伴い、電磁界(EMF)源の数と多様性が増加している。そこで本研究では現在、EMFのリスクがどのように認識されているか、他の環境要因のリスク評価も含め、健康影響の認識など13の設問を質問紙法によって調査した。対象は796名の学生(文系395名、理系379名)、一般市民170名、専門家(放射線、電力に携わる人)108名の合計1074名であった。これらの各集団において46項目の環境要因について7を最大として7段階で恐怖度合いを評価してもらった。また、EMFに対するリスク認識は、性別、健康問題の経験の有無、専門性などの要因で変わるかどうかについて解析検討を行った。その結果、各集団においてEMFに限らず、女性の方が多くの環境項目のリスク評価を高く見積もる傾向があり、動力線のEMFのリスク評価は一般市民女性の4.0が最も高く、専門家の1.9が最も低く2倍の違いがあった。また、ENFへの恐怖は家電や携帯電話の使用にあたって身体に異常を感じた経験に基づいている可能性があることもわかった。EMFは我々の生活の場の身近な存在であり、情報が氾濫する現代でEMFを過大評価または過小評価することなく、健康影響が生じない周波数、時間で使用するための指導啓発が必要なのではないかと考える。[Abstract]With the widespread use of domestic appliances and rapidly developing in wi-fi technology, the variety and the number of electromagnetic sources are increasing. This study aim is to provide risk perception data related to electromagnetic fields (EMF) arising from power lines, domestic appliances, and mobile phones, and to compare the risk perception related to EMF with other environmental objects. We administered a questionnaire concerning risk-perception and knowledge about EMF and health problems associated with the domestic appliance or mobile phone use to 796 undergraduate students (395 in literary arts and 379 in science), 170 public citizens and 108 professionals who work at the electric power company or the research institute of radiation. Participants in each group were instructed to rate each item on a seven-point fear scale with 7 as maximum value about 46 various environmental items. An analysis was conducted to determine whether risk perception for EMF changes depending on factors such as gender, experience with health problems, and expertise. As a result, women in each group tended to overestimate the risk assessment of many environmental items, not only EMF. The risk of the power line of EMF was evaluated at 4.0 of the highest score for civilian women, with professionals at 1.9 being the lowest, with a two-fold difference. We also found that fear of ENF could be based on experience with physical abnormalities when using home appliances and mobile phones. These results suggest that students’ vague fear of EMF may not be based on accurate knowledge of the risk, but based on their own experience of health problems associated with the household appliance or mobile phone use.
著者
武部 啓 巽 純子 宮越 順二 八木 孝司
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

目的:DNA修復系には紫外線損傷などに働く修復系に加えて、大腸菌のmut遺伝子と相同のミスマッチ修復遺伝子による修復系のヒトにおける存在が確認されている。ヒトで、それが大腸菌同様に自然突然変異に限って働くのか、誘発突然変異にも関与しているのかを調べる、これらの結果を腫瘍の発達(大きさ、悪性度、時間経過など)およびこれまでにわかっているp53遺伝子の突然変異と対比させて、発がんにおけるDNA修復の役割と、それが多段階発がんのどの段階に主に働くかを明らかにしたい。研究成果:1.p53遺伝子の突然変異が皮膚における多段階発がんにおいて、他のがん関連遺伝子に比べより高頻度に関与していることが示された。それらはDNA修復が正常であるか、低下しているか(色素性乾皮症患者)、太陽光にさらされている部位か、そうではないか、などによる違いはみられず、DNA修復の影響を受けない本質的な変異と考えられる。DNA修復のうち、ミスマッチ修復は一般に自然突然変異に関与していると考えられる。ヒトのがんの中で、もっとも自然発がんの可能性の高い非露光部の悪性黒色腫について、ミスマッチ修復の欠損を反映するとみられるDNAエラー(RER)を調べた。原発がん部位では18.2%のRERがみつかったのに対し、転移部位では検出できなかった。これまでの報告にくらべ特に高くはないので、非露光部の悪性黒色腫が自然突然変異によることを確認することはできなかった。