著者
宮越 順二 OHTSU SHUJI TATSUMI-MIYAJIMA JUNKO TAKEBE HIRAKU
出版者
日本放射線影響学会
雑誌
Journal of Radiation Research (ISSN:04493060)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.26-34, 1994-03
被引用文献数
20 24

To examine the biological effects of extremely low frequency magnetic field (ELFMF), we have designed and manufactured a new equipment for long-term and high-density exposure of cells to ELFMF. The ELFMF exposure system consists of a generator of magnets with a bult-in CO_2 incubator, an alternating current (AC) power supply, a gas compressor and a thermocontroller for the incubator, and a cooling unit for the magnets. The CO_2 incubator made of acrylic resin is inserted into the inner-space of the silicon steel strip-cores. In this system, the temperature of the incubator is maintained at 37±0.5°C. The maximum magnetic flux density on the exposure area of the incubator is 500 mT (T; tesla) at a current of 556 Arms (rms; root mean square) at 50 Hz. The long-term (up to 120 hr) exposure of 400 mT ELFMF did not affect the growth of both HL6ORG and CCRF-CEM cells originated from human leukemia.
著者
武部 啓 五十棲 泰人 巽 純子 宮越 順二 八木 孝司
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

高圧送電線から放出される電磁場が白血病、脳腫瘍などを誘発するおそれがある、との疫学研究(アメリカ、スウェーデン)を実験的に支持することができるか、を明らかにするのが本研究の目的である。最大出力400ミリテスラ(4000ガウス)、50ミリテスラ(500ガウス)、5ミリテスラ(50ガウス)の3装置を作成し、哺乳動物(ヒト、ハムスター)細胞を用いて、(1)突然変異の誘発、(2)遺伝子発現の促進について調べた。すでに前年度までに、両者とも400ミリテスラでは確実に上昇がみられることを確認しているが、本年度は低出力、長時間ばく露の影響を明らかにすることに重点をおいた。もっとも感度が高いチャイニーズハムスター細胞を5ミリテスラ照射で最大13週間連続ばく露したが、突然変異の上昇はみられなかった。遺伝子発現の上昇はこれまで電磁場単独ではみとめられていなかったが、チャイニーズハムスター細胞では400ミリテスラでNOR-1遺伝子の発現が促進された。その発現は処理時間が5時間のところで高くなり、その後処理を続けると低下した。突然変異の型については、自然に生じる突然変異のDNA塩基配列の変化と電磁場(400ミリテスラ)誘発による突然変異とでは著しく異なっており、電磁場特有の変化がみられた。遺伝子損傷は、DNAへの直接の作用ではなく、DNA複製のエラーを高める間接的な効果であることが、DNA合成阻害実験からわかった。本研究によって、きわめて高密度の電磁場は、遺伝子に損傷を与えることが示されたが、低密度・長時間(マイクロテスラ)では人体に有害であるという証拠はない、とのこれまでの定説を支持する結果である。
著者
平岡 真寛 宮越 順二
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

各種磁場(0.2T均一定常磁場、0.45Tの不均一定常磁場、0.2Tの変動磁場)の細胞への影響を細胞増殖、細胞致死、熱ショック蛋白質および癌遺伝子発現を指標に明らかにした。0.2Tの均一定常磁場を培養器内で1ー8日間HeLaS3細胞(ヒト子宮癌)に負荷しても細胞増殖に影響を与えなかった。放射線(6Gy)あるいは温熱(45C,15min)の併用処置についても変化を認めなかった。0.2Tの変動磁場、0.45Tの不均一定常磁場を室内で1、2時間SCCVII細胞(マウス扁平上皮癌)、HeLaS3細胞に負荷しても細胞増殖、細胞致死いずれも影響を認めなかった。放射線あるいは温熱の併用についても変化を認めなかった。0.2Tの均一定常磁場のHeLaS3細胞での癌遺伝子(Nーras,mycおよびfosを検討)への影響をNorthern blotting法で評価した。無処置対照においては、fosmRNAの産生はほとんど認められなかった。2、8時間の磁場負荷では認められなかった。fosmRNAの産性が、4時間の磁場負荷で軽度認められた。既に報告されているようにfosはTPA、温熱処置にて発現したが、それらの発現に磁場は影響を与えなかった。NーrasおよびmycのmRNA発現に磁場は関与しなかった。ヒト大腸癌由来COLO細胞を対象に0.2T均一定常磁場の熱ショック蛋白質発現への影響をSDSーPAGEで検討したが、6、24時間磁場を負荷しても熱ショック蛋白質の発現を認めなかった。以上、0.2Tの均一定常磁場にてfosmRNAの産性が軽度認められることが本研究で明らかにされた。磁場と癌遺伝子発現の関係についての報告は皆無に等しく今後の研究が望まれる。
著者
宮越 順二 塚田 俊彦
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

本研究では、人体に曝される可能性の最も高い極低周波変動磁場(ELFMFと略す)の細胞に与える影響として、遺伝子発現の誘導に関して研究を発展させ、その作用機構を明らかにすることを目的とした。三相交流トランスを一部改造し、周波数50Hz、最大出力500mTの実験用ELFMF曝露装置を使用した。磁石の磁場空間には細胞培養可能なアクリル製CO_2培養器を内蔵した。培養器内環境は5%CO_2と95%空気で、さらに、温度を37±0.5℃に保つためサーモコントローラーからの温水を還流している。これらの条件で、最大400mTの磁場曝露が一定温度のもとで可能なことを確認した。遺伝子発現については、まず、ベータガラクトシダーゼ遺伝子の発現プラスミド(pVIPGAL1)をラット褐色細胞腫由来のPC12細胞に導入して、ネオマイシン(G418)で選択した後、ベータガラクトシダーゼの発現系を持つ形質転換細胞(PCVG細胞)を得た。PCVG細胞を非刺激またはforskolin(2μM)で刺激し、4時間磁場曝露またはインキュベータにて培養した。PCVG細胞は非刺激状態ではほとんどベータガラクトシダーゼの活性を示さない。forskolinで4時間刺激した場合、ベータカラクトシダーゼの活性は著しく上昇した。この刺激をELFMF(200mTおよび400mT)曝露下で行うとベータガラクトシダーゼ活性は磁場密度依存的にさらに上昇した。forskolinにTPA(25ng/ml)を加えて磁場曝露の影響を検討した。forskolinにTPAを加えた場合、ベータガラクトシダーゼ活性は非曝磁下でforskolin単独に比べ約2.5倍の上昇が見られた。この刺激を400mT ELFMF曝露下で行った場合、ベータガラクトシダーゼ活性はさらに上昇した。以上の結果、高磁場密度の極低周波変動磁場はサイクリックAMPやプロテインカイネースC(PKC)を介した細胞のシグナル伝達系に影響を及ぼし、ベータガラクトシダーゼの遺伝子発現を誘導している可能性が示唆された。
著者
武部 啓 巽 純子 宮越 順二 八木 孝司
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

目的:DNA修復系には紫外線損傷などに働く修復系に加えて、大腸菌のmut遺伝子と相同のミスマッチ修復遺伝子による修復系のヒトにおける存在が確認されている。ヒトで、それが大腸菌同様に自然突然変異に限って働くのか、誘発突然変異にも関与しているのかを調べる、これらの結果を腫瘍の発達(大きさ、悪性度、時間経過など)およびこれまでにわかっているp53遺伝子の突然変異と対比させて、発がんにおけるDNA修復の役割と、それが多段階発がんのどの段階に主に働くかを明らかにしたい。研究成果:1.p53遺伝子の突然変異が皮膚における多段階発がんにおいて、他のがん関連遺伝子に比べより高頻度に関与していることが示された。それらはDNA修復が正常であるか、低下しているか(色素性乾皮症患者)、太陽光にさらされている部位か、そうではないか、などによる違いはみられず、DNA修復の影響を受けない本質的な変異と考えられる。DNA修復のうち、ミスマッチ修復は一般に自然突然変異に関与していると考えられる。ヒトのがんの中で、もっとも自然発がんの可能性の高い非露光部の悪性黒色腫について、ミスマッチ修復の欠損を反映するとみられるDNAエラー(RER)を調べた。原発がん部位では18.2%のRERがみつかったのに対し、転移部位では検出できなかった。これまでの報告にくらべ特に高くはないので、非露光部の悪性黒色腫が自然突然変異によることを確認することはできなかった。