著者
竹内 咲恵 ラン トラン ソニア ボーランド 市原 学 サンドラ ブラニッチ 渡邊 英里 長田 百合果 平野 明穂 櫻井 敏博 佐藤 聡 市原 佐保子 ウ ウェンティン
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.P-70, 2018

<p>【背景・目的】</p><p>ナノテクノロジーが発展途上にある現在、その基盤となっているナノマテリアルの特性と生体影響との関係を明らかにすることは、安全なナノマテリアルを開発するため、あるいは安全に使用するために必要である。ナノマテリアルの中でも多く用いられているシリカナノ粒子(SiO<sub>2</sub>NPs)にカルボキシル基、アミノ基、水酸基を付加してマウスの肺に曝露し、肺胞洗浄液中のマクロファージ、好中球の数をカウントしたところ、水酸基を付加したSiO<sub>2</sub>NPs(OH-SiO<sub>2</sub>NPs)を曝露したときのみマクロファージや好中球が他の2種類の粒子よりも少なかったことが先行研究より明らかになっている。また、OH-SiO<sub>2</sub>NPsはマウスマクロファージ細胞株RAW264.7細胞への曝露において、細胞生存率を著しく低下させたことも明らかになっている。そこで本研究では、それがアポトーシスによるものであると仮説を立て、経時的にLDHとCaspase-3,Caspase-7の活性を測定することにより検討を行った。</p><p>【方法】</p><p>マウスマクロファージ細胞株RAW264.7を96wellプレートに15,800 cells/cm<sup>2</sup>で播種した。37℃、5%CO<sub>2</sub>で24時間培養後、メディウム中に分散させたOH-SiO<sub>2</sub>NPsを19.5 µg/mLの濃度で曝露し、曝露から1,6,12,18,24時間後にLDH活性を、0,6,12,18時間後にCaspase-3,Caspase-7の活性を測定した。</p><p>【結果】</p><p>LDH活性、Caspase-3,Caspase-7の活性は共にOH-SiO<sub>2</sub>NPs曝露後6~18時間で著しく増加し、相関していた。</p><p>【考察・結論】</p><p>LDH活性の測定結果から、OH-SiO<sub>2</sub>NPs曝露後6~18時間の間に細胞障害、あるいは細胞死が起こっていると考えられる。また、同じタイミングでCaspase-3,Caspase-7の活性が上昇していることから、OH-SiO<sub>2</sub>NPsがアポトーシスを誘導すると考えられる。</p>
著者
市原 学 小林 隆弘 藤谷 雄二 尾村 誠一 市原 佐保子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

ナノテクノロジーは,並行して発展してきた分子生物学との融合を通じ新しい学術分野と革新的な技術を生み出すことが期待されている。ナノテクノロジー全体の中で,工業ナノマテリアルはその第一段階を形成するものである。一方,工業ナノマテリアルの健康,環境への影響,安全性についての研究は十分とは言えない。なかでもヒト健康へのリスク評価は優先順位の高い課題である。暴露評価はハザード評価と統合され,リスクを評価するために用いられる。工業ナノマテリアルに暴露された労働者を対象とした疫学コホート研究を立ち上げる構想が国際的にも議論されているが,その基盤としても暴露評価は重要な課題となっている。暴露評価におけるナノマテリアルに特異的な問題の一つは用量計測基準として何を選ぶかということである。この問題に関して国際的なコンセンサスはまだ得られていない。ナノマテリアルの個数,表面積が生体分子との反応性に貢献していると考えられていることから,従来の重量濃度に基づく計測基準が,ナノマテリアルの暴露を定義する上で十分かどうか疑問がある。走査式モビリティーパーティクルサイザー(SMPS)によりナノ領域を含む粒子を分級し連続的にモニターすることが可能であるが,高価で可動性に問題があり,労働現場でより簡易にナノ粒子を測定する機器の開発の必要性が唱えられてきた。米国国立労働安全衛生研究所は凝集粒子カウンター(CPC)と光散乱粒子計測装置(OPC)の併用を提案している。また,比較的安価で小型化されたSMPS,あるいは新しい小型計測機器も開発されている。長期の累積的な暴露の評価には多くの困難が伴う場合があることも指摘しなければならない。生体試料を用いた内部暴露評価のためにバイオロジカルモニタリング法の開発も求められ,そのためには様々な分野の研究者の共同が必要である。