著者
市山 祐司 相馬 伸介 華房 康憲 田村 芳彦 川畑 博 布川 章子
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, pp.106, 2010

海洋研究開発機構(以下JAMSTEC)では、平成19年にデータ・サンプルの取り扱い方針を定めて、JAMSTECの船舶で採取されたデータ・サンプルを一元的に保管・管理し、一定の公開猶予期限を経たのち公開を行っている。岩石サンプルについては、深海底岩石サンプルデータベース「GANSEKI」<SUP>*</SUP>において岩石サンプル情報の公開を行っている。本大会では、岡別府ほか(2006)によってGANSEKIの構築の前段階における概要が紹介されていたが、その後2006年10月の外部公開より本格運用が開始され、幾度かの機能改修を経てデータベースとして軌道に乗りつつある。本発表では、GANSEKIの現状と今後の展望についての紹介を行う。<BR> JAMSTECは四半世紀にわたり、島弧周辺域(伊豆・小笠原など)、中央海嶺(太平洋、大西洋、インド洋)、海洋島(ハワイ諸島など)といった様々なテクトニックセッティングから火成岩や堆積岩、チムニー、マンガン酸化物などを船舶・潜水船を用いて採取してきた。現在GANSEKIでは、これらのサンプルのメタデータ18700件、分析データ11200件、アーカイブサンプル7300試料を公開している。<B>アーカイブサンプルについては、研究・教育・展示目的であれば随時無償提供を行っている<SUP>§</SUP></B>。<BR> GANSEKIでは、サンプルを採取した航海名、船舶(潜水船)、緯度・経度・水深、海域、岩石名などのメタデータによる検索や地図上にプロットした潜航またはドレッジ地点からの検索が可能である。検索結果にはサンプルのメタデータが表記され、分析データとアーカイブサンプルの有無が確認できる。アーカイブサンプルがあるものは、サンプル写真やサイズ・重量を閲覧することができる。分析データは、「JAMSTEC深海研究」や一般学術誌の掲載データや研究者の未公表データなどから収集した全岩組成と鉱物組成が登録されており、CSVファイルでダウンロードが可能である。<BR> 昨年度からは、国際的岩石化学ポータルサイト「EarthChem」<SUP>**</SUP>との連携を開始した。これにより、GANSEKIに登録されている分析データを持つサンプルをEarthChem上で検索することが可能となった。今後は海外の研究者からのアクセスやサンプルリクエストの増加が期待される。また、今後は薄片写真や記載情報の公開、分析データの収集、堆積物コアサンプルデータや地球物理データとの統合などを視野に入れ、データベースのさらなる質の向上を目指していく。<BR><SUP>*</SUP> http://www.godac.jamstec.go.jp/ganseki/index_jp.html<BR><SUP>**</SUP> http://www.earthchem.org/<BR><SUP>§</SUP>問い合わせ先:dmo@jamstec.go.jp<BR>
著者
石渡 明 市山 祐司
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集 日本鉱物科学会 2007年度年会
巻号頁・発行日
pp.58, 2007 (Released:2008-09-02)

かんらん石スピニフェックス組織は,長さ1メートルに達する薄板状のかんらん石の平行連晶組織であり,超苦鉄質のコマチアイト溶岩に特徴的とされる.露頭では一般にコマチアイト溶岩の上半部にスピニフェックスが発達するが,下半部は斑状組織のかんらん石沈積岩であり,岩床の場合も同様である.一方,かんらん石スピニフェックス組織は,北極海の海嶺玄武岩(顕微鏡サイズ)やコラ半島原生界の鉄ピクライト溶岩上部の玄武岩質部分などにも見られ,変成蛇紋岩や中世の製鉄遺跡の鉱滓などからも報告されている.最近,Ichiyama et al.は福井県小浜市南部の丹波帯緑色岩体から,長さ10 cm以上,間隔1~2 mmのかんらん石平行連晶(仮像)よりなるスピニフェックス組織を呈する玄武岩の転石を発見した.この転石は多数の鉄ピクライトの転石を伴うので,下部が鉄ピクライト,上部が玄武岩質岩石からなる分化した溶岩または岩床に由来すると考えられ,鏡下でも化学組成でも,コラ半島Pechenga地域原生界の同様の溶岩と酷似する.両者とも「石基」のチタン普通輝石が顕著な逆累帯構造を示す.Faure et al.(2006)によるスピニフェックス組織の再現実験は,結晶核密度が低く(事前にリキダス以上の温度に保ち除去),過冷却度が高く(リキダスより40~60℃下で結晶化開始),適度な温度勾配と冷却速度で結晶作用を行えば,スピニフェックスが成長することを示す.かんらん石スピニフェックス組織を示す丹波帯の玄武岩はノルムかんらん石をもち,かんらん石がリキダス相だったと考えられる.コマチアイト中だけでなく,玄武岩中にもスピニフェックス組織が形成されることは,化学組成を重視するIUGSの超苦鉄質火山岩分類案の妥当性を支持する.