著者
藤本 潔 酒井 寿夫 森貞 和仁 古澤 仁美 中嶋 敏祐 布施 修 小林 繁男
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.83-90, 1998-12-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
20

1984年の長野県西部地震に伴い発生した御岳岩屑流は,森林域にも多大な被害をもたらした。この岩屑流発生から10年目の植生発達状況と立地環境との関係を明らかにするため,岩屑流堆積物が薄く堆積する標高約2000mの小三笠山北側の緩傾斜地(田の原)と,厚さ数10mの岩屑流堆積物で埋積された標高約950mの王滝川谷底部(氷ヶ瀬)にトランセクトを設け,地形断面測量,堆積物の粒径分析および植生調査を行った。波長数10〜100m程度,振幅10m程度の波状起伏がみられる田の原では,流水の影響を受けやすい谷部で粒径2mm以下の細土含有率や細土中のシルト・粘土含有率に顕著なばらつきがみられ,細土がほとんど存在しない箇所で出現種数・被度とも低い値を示すものの,細土含有率が5%程度以上ある地点では,微地形条件に関わらず,これらは同様の値を示した。氷ヶ瀬では岩屑流堆積面が現河床を含め3段に段丘化しており,岩屑流堆積後,河川による侵食作用を被ることなく安定した地形環境下にあった上位面が出現種数・樹高・被度のいずれも最も高い値を示した。これらの結果は,流水による侵食プロセスが初期植生発達過程に大きな影響を及ぼしていることを示す。岩屑流発生後,同じ期間を経ていると考えられる田の原と氷ヶ瀬上位面を比較すると,樹高およびそれぞれの種の被度百分率の合計値のいずれも標高の低い氷ヶ瀬上位面の方が高い値を示した。