著者
鶴見 隆正 畠中 泰司 川村 博文 菅原 憲一 藤田 峰子 米津 亮 甲田 宗嗣 辻下 守弘 岡崎 大資 常川 幸生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.E1048, 2007

【目的】多発性脳梗塞、頚髄症による不全四肢麻痺、大腿骨頚部骨折などによって不安定な立位、歩行レベルを余儀なくされている高齢者、術後患者は多い。しかしながら彼らに対する立位・歩行練習の運動療法では、転倒や突然の膝折れなどの危険性があるため難渋することも事実である。このような立位・歩行の不安定な患者に対するアプローチは、傾斜台での段階的な立位感覚と支持性を高める方法のほかに、PTが患者の腰部を徒手で支えた状態での平行棒内立位、簡易式膝装具などを用いた平行棒内立位・歩行練習など行われているが、いずれの方法においても共通するのは安全面への配慮である。安全優先と物理的な介助負担量の増大から、ややもすれば間欠的な休憩を取り過ぎて、結果的に立位・歩行練習の総時間不足に陥っていることも少なくない。そこで立位・歩行不安定者に対する立位・歩行練習が、実際どのような方針で実施されているかを調査し、同時に歩行車の活用法についても検討したので報告する。<BR><BR>【方法】調査対象の施設は特定機能病院2施設、一般病院1施設、介護老人保健施設2施設である。調査方法は郵送アンケートと直接訪問による実態調査を実施し、その内容は立位・歩行不安定者に対する運動療法なかで、基本的アプローチ方法が平行棒内でのPT介助なのか、装具装着、傾斜台、歩行車など活用実態の把握を行った。アンケートは施設の主任PT5名に郵送し、且つ直接訪問による実態調査は、1日の運動療法室を観察法にて実施した。<BR><BR>【結果】立位・歩行不安定者の基本的アプローチではPT介助(装具装着含め)73%、歩行車25%、傾斜台2%であった。PT介助の平行棒内立位時間は1回つき1~3分間、平行棒内連続歩行も1~5往復と短時間であった。PT介助は徒手で患者の腰部を把持しながら患者の前面、側面からの支持が大半であった。歩行車はシート付のタイプであるため突然の膝折れに対応できるほか、下肢への部分荷重調整した介助立位・歩行が連続的に可能となっていた。<BR><BR>【考察】下肢の支持性や立位感覚の弱化に転倒の危険性も大きい立位・歩行不安定者ほど、目標指向性のある集中的な運動療法を実施する必要性がある。PT介助の立位・歩行練習では、運動機能誘発や歩行パターンの改善には効果的であるが、その反面、PT介助の方法にもよるが患者、PTの両者にとって身体的負担も大きく、頻回な休憩を入れる間欠的な立位・歩行練習に陥りやすい。このため立位・歩行の総時間が少なくなり、車椅子坐位時間の増大は「座らせきり状態」になる危険性も否定できない。一方、立位・歩行練習をより量的にも効率的に実施できる歩行支援機器を活用したアプローチでは、自主練習の実効性、転倒への心理的不安の軽減、業務上の安全管理などのプラス面も多く、今後はPT介助と歩行車などの歩行支援機器を上手く織り交ぜたアプローチ法を確立する必要性があることを強調したい。<BR><BR>