著者
岡崎 大資 甲田 宗嗣 川村 博文 辻下 守弘 鶴見 隆正
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.E0723-E0723, 2004

【はじめに】<BR> 本研究は高齢者に対する継続的転倒予防教室(以下教室)において、行動分析学的介入による自主運動の継続的実施の可能性と参加者間のソーシャルネットワークの確立の可能性について検討したので報告する。<BR>【対象と方法】<BR> 対象は地域在住の高齢者25名(男性7名、女性18名)、平均年齢72.9±5.9歳であった。<BR> 方法は全6回の教室において指導した7種類の自主運動(柔軟性に関する運動3種類・筋力に関する運動3種類・ウォーキング)を教室開催時以外の自宅での実施頻度を向上させるための介入を行った。教室終了後の半自主的に継続されている教室の8回をフォローアップ期とした。介入は行動分析学的介入方法を用い、ベースライン期とフォローアップ期は用意したカレンダーに自宅での運動実施毎にシールを貼りその頻度を研究者が確認するのみとし、介入期Bは自主運動実施頻度が多い者に対する注目・賞賛(社会的強化子)、介入期Cは自主運動実施の報酬として実施頻度に応じて簡単なパズル(付加的強化子)を渡すこととした(A・B・C・Aデザイン)。また、フォローアップ期の後半で7名の対象者に、各期を通じての自主運動に対する意識の変化や参加者同士の関係についてインタビューした。<BR>【結果】<BR> 全員の自主運動実施頻度の平均はベースライン期:171.7±82.5回、介入期B:256.9±38.9回、介入期C:588.9±104.9回、フォローアップ期:413.2±33.2回であった。また、インタビューではベースライン期には「健康に良いと言われたので運動した」、「カレンダーへシールが貼れように運動を頑張った」との内容が含まれていた。介入期Bでは「他人が読み上げられて誉められることが羨ましい」、「自分が読み上げられて誉められたことが嬉しかった」やその反面「読み上げられるのは恥かしい」などの内容も含まれていた。介入期Cでは「パズルは痴呆防止にいい」、「パズルが面白かった」や、パズルをもらえることを理由に運動したのではなく「友人同士で一緒に運動するから楽しい」、「自主運動が自分の生活の一部に定着した」、「運動すると体が楽になる、気持ち良い」などの内容が含まれていた。<BR>【考察】<BR> 自主運動実施頻度が向上した理由として、介入期B・Cにおいて注目・賞賛やパズルをもらえるという強化子が影響したと考えられる。しかし、参加者はフォローアップ期に強化子を提示しなかったにもかかわらず介入期Bより高い頻度で自主運動を実施していた。これは賞賛やパズルを強化子とするのではなく、自主運動の実施に内在した強化子(楽になる、気持ち良い)や参加者同士で自主運動を実施するといったソーシャルネットワークを確立し維持することで保たれていると考えられる。このように教室の役割は転倒予防のための機能的かかわりを持つのみならず、参加者間のソーシャルネットワークの確立と共に生きがいやQOLの維持にも繋がることと考えられる。
著者
小林 和彦 辻下 守弘 岡崎 大資 甲田 宗嗣
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.825-830, 2010 (Released:2010-11-25)
参考文献数
16
被引用文献数
5 3

〔目的〕介護老人保健施設に勤務する介護職員が,日頃のどのような移乗介助を行っているかを調査し,その介助方法が対象者の課題遂行行動に与える影響について行動法則に照らして検討した。〔対象〕3箇所の施設の介護職員29名と入所者3名とした。〔方法〕入所者がベッドから車椅子へ移乗する機会を利用して,「介護職員が行った介助」および「入所者の移乗課題遂行後における介護職員の対応」の種類とその回数,「介護職員がそれら介助施行前に入所者の行動生起を“待機”したか否か」を約3週間にわたり調査した。〔結果〕総回数260回の介助の87%で直接“全介助”が行われ,“全介助”が行われる前に“部分的身体介助”もしくは“声がけ”が行われたのは各々8%と5%,“待機”が行われたのは総介助回数の4%であった。また,介助により入所者が移乗課題を遂行した後の介護職員の対応は82%が入所者に対し“無反応”で,“賞賛”や“承認”が与えられたのは3%であり,15%の“中途介助”が行われていた。〔結語〕入所者の依存行動を増加させ,自立行動を減少させる介助が行われている可能性が高いことが示唆された。
著者
鶴見 隆正 畠中 泰司 川村 博文 菅原 憲一 藤田 峰子 米津 亮 甲田 宗嗣 辻下 守弘 岡崎 大資 常川 幸生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.E1048, 2007

【目的】多発性脳梗塞、頚髄症による不全四肢麻痺、大腿骨頚部骨折などによって不安定な立位、歩行レベルを余儀なくされている高齢者、術後患者は多い。しかしながら彼らに対する立位・歩行練習の運動療法では、転倒や突然の膝折れなどの危険性があるため難渋することも事実である。このような立位・歩行の不安定な患者に対するアプローチは、傾斜台での段階的な立位感覚と支持性を高める方法のほかに、PTが患者の腰部を徒手で支えた状態での平行棒内立位、簡易式膝装具などを用いた平行棒内立位・歩行練習など行われているが、いずれの方法においても共通するのは安全面への配慮である。安全優先と物理的な介助負担量の増大から、ややもすれば間欠的な休憩を取り過ぎて、結果的に立位・歩行練習の総時間不足に陥っていることも少なくない。そこで立位・歩行不安定者に対する立位・歩行練習が、実際どのような方針で実施されているかを調査し、同時に歩行車の活用法についても検討したので報告する。<BR><BR>【方法】調査対象の施設は特定機能病院2施設、一般病院1施設、介護老人保健施設2施設である。調査方法は郵送アンケートと直接訪問による実態調査を実施し、その内容は立位・歩行不安定者に対する運動療法なかで、基本的アプローチ方法が平行棒内でのPT介助なのか、装具装着、傾斜台、歩行車など活用実態の把握を行った。アンケートは施設の主任PT5名に郵送し、且つ直接訪問による実態調査は、1日の運動療法室を観察法にて実施した。<BR><BR>【結果】立位・歩行不安定者の基本的アプローチではPT介助(装具装着含め)73%、歩行車25%、傾斜台2%であった。PT介助の平行棒内立位時間は1回つき1~3分間、平行棒内連続歩行も1~5往復と短時間であった。PT介助は徒手で患者の腰部を把持しながら患者の前面、側面からの支持が大半であった。歩行車はシート付のタイプであるため突然の膝折れに対応できるほか、下肢への部分荷重調整した介助立位・歩行が連続的に可能となっていた。<BR><BR>【考察】下肢の支持性や立位感覚の弱化に転倒の危険性も大きい立位・歩行不安定者ほど、目標指向性のある集中的な運動療法を実施する必要性がある。PT介助の立位・歩行練習では、運動機能誘発や歩行パターンの改善には効果的であるが、その反面、PT介助の方法にもよるが患者、PTの両者にとって身体的負担も大きく、頻回な休憩を入れる間欠的な立位・歩行練習に陥りやすい。このため立位・歩行の総時間が少なくなり、車椅子坐位時間の増大は「座らせきり状態」になる危険性も否定できない。一方、立位・歩行練習をより量的にも効率的に実施できる歩行支援機器を活用したアプローチでは、自主練習の実効性、転倒への心理的不安の軽減、業務上の安全管理などのプラス面も多く、今後はPT介助と歩行車などの歩行支援機器を上手く織り交ぜたアプローチ法を確立する必要性があることを強調したい。<BR><BR>
著者
小林 和彦 辻下 守弘 岡崎 大資 甲田 宗嗣
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.303-308, 2011 (Released:2011-06-07)
参考文献数
16
被引用文献数
1

〔目的〕担当入所者への過剰介助から廃用性の機能低下を促進させる可能性の高い看護職員1名に応用行動分析学の技法を用いたベッドから車椅子への移乗介助の方法を指導し,その効果を分析することで行動論的な介助指導の意義と課題について検討した.〔方法〕対象は介護老人保健施設に勤務する介助経験豊富な正看護師で,彼女が日頃実際に介助や介助指導を行っている高齢障害者に対するベッドから車椅子への移乗介助に際し,応用行動分析学の技法を適切に用いた介助が行えるようになることを指導目標として講義形式による指導と実践指導を4ヶ月間にわたり施行し,指導効果を単一事例実験計画法により分析した.〔結果〕実践指導後において適切な介助が増加した.また,介助対象者自身もベースライン測定時には大幅な過剰介助での課題遂行であったのが必要最小限に近い介助での課題遂行に移行し,これらはフォローアップにおいても維持された.〔結語〕より少ない介助で入所者の行動を引き出せるようになり臨床的に意義ある指導効果が得られたと考えられるが,指導内容の理解度の判定や指導効果の長期的維持等,今後における課題も残された.