- 著者
-
平井 清子
- 出版者
- 学校法人 北里研究所 北里大学一般教育部
- 雑誌
- 北里大学一般教育紀要 (ISSN:13450166)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, pp.81-103, 2015
 日本の英語教育が、ディスカッション、ディベートなどを含むコミュニケーション重視の授業に転換してから久しいが、日本の文化的背景から、このような学習者主体の授業の実践は容易ではなく、いまだ授業では、従来の暗記型の要素が強いことが否めない。文科省では小中高を通しての論理的・批判的思考力の養成の奨励がなされ、英語においても、詰め込み教育、受け身の教育では果たせない、自ら考える力、論理的・批判的思考力を育み、併せて四技能に配慮した統合的なコミュニケーション能力の育成が促進されている。同時に、これらの能力を育成することで、英語での発信力の養成が可能となる。このための新しいアプローチとして、「内容重視の教授法」(Content-based Instruction:以下CBI)の授業の提案がある。CBIには「年齢相応の思考力を伴う言語発達の必要性」を説くバイリンガリズムの観点から「言語発達には思考力と言語力の両輪が必要である」という基本概念がある。<br>  「仕事で英語が使える」人材育成の出口である大学英語教育の役割はますます重要となる。とりわけ、専門課程に入る前の初年次英語教育では、CBIのように「数学」や「生物学」などの教科の教育と言語教育を統合した英語教育が、「英語」の授業や選択制の専科の授業で取り入れられることが必要となってくるであろう。<br>  本研究は、CBI発祥の地であるアメリカの高等学校CBI-ESLの授業の参与観察から、日本での応用を、特に大学での実践を考慮し提案するものである。米国の現地校の授業の参与観察により、以下の点が日本でCBIの授業を導入する際に提案される。1)各課ごとに「教科(内容)目標」と「言語目標」を定め、言語指導では教科学習に必要な語彙や表現と同時に、「学習スキル」を養成する。2)インプットとアウトプットのバランスを考慮し、四技能を統合的に取り入れる。3)「評価の基準(ル―ブリック)」の効果的使用。使われる発問は、自分の答えを証拠の裏付けをしながら論理的に述べる本質的な質問(essential questions)であること。4)これらを協働学習を通して行う。