著者
平原 秀一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

本研究テーマに関して、次の2つの重要な成果を得た。(1) 本研究のテーマであるランダム文字列を使った乱択多項式時間アルゴリズムの特徴づけに関するAllenderの予想を本質的に否定する成果を得た。(2) 「ブラックボックス帰着の限界」と呼ばれる証明手法の限界を世界で初めて突破することに成功し、計算量理論の中心的な未解決問題を解決するための新しいアプローチを見出した。(1) 具体的には、コルモゴロフ記述量の意味でランダム文字列(=圧縮できない文字列)かどうかを判定するオラクルに非適応的に質問することによって解ける問題は、乱択多項式時間アルゴリズムで計算できるもののみに限る、と予想されていた。我々は以前知られていた帰着を大きく改善し、特に乱択多項式時間アルゴリズムで計算できないと予想されている問題さえも解けることを示すことに成功した。特に、これはAllenderの予想が他の(より一般的な)予想に反することを意味する。(2) 上述の成果に関連して、(時間制限付き)コルモゴロフ記述量を計算する問題について、最悪時・平均時計算量が同値になることを証明した。普通、アルゴリズムの計算時間は最も時間のかかる入力において測る(=最悪時計算量)が、それに対し、平均時計算量では、ランダムに生成された入力において、期待値の意味で計算時間を計測する。NP完全の問題について最悪時・平均時計算量の同値性を示すことは計算量理論における中心的な未解決問題であり、特に「ブラックボックス帰着」と呼ばれる証明手法では解決することができない。本研究では新しい証明手法を開発することにより、ブラックボックス帰着の限界で初めて突破することに成功した。具体的には前述の通り、コルモゴロフ記述量の計算問題について最悪時・平均時計算量の同値性を示した。