著者
坂本 慎一 平尾 浩志 飯星 雅朗 国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1315, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】近年、呼吸器疾患患者の運動療法において体幹機能や姿勢制御機構を基にした報告がなされている。また呼吸に深く関与している横隔膜や腹横筋が体幹の安定化と呼吸の維持を図る二重作用についても言及されている。今回、熊本大学形態構築学分野のご遺体にて、腸骨筋と腹横筋が広範にわたり連結しているのを確認した。また腹横筋と横隔膜の関係においても、横隔膜の後方部にて腹横筋筋膜より起始しているのを確認でき、横隔膜肋骨部は肋骨弓より起始しており、また腹横筋も肋骨弓より起始している。上記より、横隔膜の張力を効果的に発揮させるためには、腸骨筋と腹横筋における腹部の固定性が重要になると推察した。そこで、腸骨筋と腹横筋の連結に着目し、腸骨筋へのアプローチを行うことで呼吸機能への影響の有無を検討した。【解剖所見】腹直筋は起始、停止とも遊離、外腹斜筋、内腹斜筋も遊離し外方に翻してあった。腹横筋は、肋骨弓部を起始より遊離し、停止部は腹直筋鞘の正中部で左右に翻してあった。腹部内臓は摘出し、体壁筋のみが存在した状態で観察を行った。また、骨盤腔においても恥骨を除去し、ある程度骨盤壁を左右に翻せる状態であった。その状態で、腹横筋の起始部と腸骨筋の起始部を観察した。通常腸骨筋は腸骨窩とされているが、観察した遺体では、すべて腹横筋の腸骨稜内唇の起始部と同じ所より起始していた。腹横筋との連結は筋線維の連結はなく、筋膜および骨膜を介して行われていた。【対象】理学療法学科1年から3年までの健常学生17名(男性15名、女性2名、平均年齢23.1歳)を被検者とした。【方法】呼吸機能計測はMICROSPIRO HI-701(日本光電)を用い、腸骨筋へのアプローチの前後で計測した。計測項目は肺活量(VC)、呼気予備量(ERV)、吸気予備量(IRV)、努力肺活量(FVC)とした。腸骨筋へのアプローチは、端坐位を取り両上肢にて坐面を押さえることで上体を固定した姿勢にて、股関節の屈曲運動を行わせた。また、腹部内臓の影響を避けるため測定は全例、昼食より4時間空けて行った。上記の測定データをWilcoxonの符号付順位検定を用い、有意水準を5%として解析を行った。また、解析ソフトはStatViewを用いた。【結果および考察】VC値においてアプローチ前(4.69±0.16L)とアプローチ後(4.78±0.17L)で有意な増加が見られた(P<0.05)。VCの増加は17名中12名に認めた。その他の項目について有意差は認めなかった。遺体の解剖所見に基づき今回腸骨筋にアプローチを行い、呼吸機能の測定を行いVC値に変化が見られた。この結果より腸骨筋と腹横筋の関係が腹部体壁の固定性を高め、横隔膜の張力を高める可能性が示唆された。このことより、腸骨筋へのアプローチが呼吸機能へ影響すると考えられる。