著者
国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0448, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】膝関節疾患の治療において膝屈曲時の膝窩部痛はしばしばみられ、一般的にその原因を膝窩筋に絞ることが多々ある。しかし関節運動における膝窩筋の位置やその機能について詳しく説明したものを散見しない。そこで今回遺体ではあるが、膝窩筋の位置と膝関節運動時の機能から膝窩部痛の発生機序について検証したのでここに報告する。【対象】熊本大学大学院医学薬学研究部形態構築学分野の遺体で、大腿骨・脛骨の可動性が充分保証されている右膝1関節を用いた。【方法】1)脛骨に対し大腿骨を最大伸展位から最大屈曲位へと可動し、大腿骨と膝窩筋の接触の有無について後方から観察した。2)脛骨に対し大腿骨を最大伸展位から最大屈曲位に可動し、その外側顆部の回転運動について観察した。又、それに伴う膝窩筋腱の動態及び筋が伸張し始める膝関節角度を計測した。3)脛骨に対し大腿骨を内外旋し、膝窩筋腱の緊張を観察した。4)膝窩筋腱の起始部を大腿骨外側顆部にて精査した。【結 果】1)最大屈曲位においても大腿骨と膝窩筋との距離は保たれ、両者が接触することは無かった。2)大腿骨外側顆部は屈曲開始時、軸回転と共に転がりによる回転軸の後方移動が見られた。その後最大屈曲位に近づくにつれ軸回転主体の運動が見られた。0°から60°屈曲では後下方から前上方に斜走する膝窩筋腱が長軸方向に伸張された。屈曲60°から100°屈曲では膝窩筋腱は伸張されず、大腿骨外側顆部の転がりにて起始部が後方移動し、腱の長軸が垂直位となった。その後弛緩状態が120°まで続いた。120°から最大屈曲では、大腿骨外側顆部の回転軸を中心に膝窩筋腱起始部が上方に移動し垂直方向に伸張された。3)膝窩筋は大腿骨の脛骨に対する内旋にて緊張し、外旋にて弛緩した。4)膝窩筋腱起始部は、大腿骨外側顆部膨隆部にある回転軸(外側側副靱帯付着部位)の下方であった。【考察】膝屈曲時の膝窩部痛は角度が増すことで発生又は増強することから、膝窩筋が大腿骨と脛骨に挟まれ圧迫を受ける可能性が考えられていたが、今回の観察では膝窩筋は大腿骨に挟まれないことが判明した。これは膝窩筋停止部である脛骨後上方が凹状であり、そこに膝窩筋が位置することで大腿骨後顆部の接触を回避しているものと考えられた。解剖書によれば膝窩筋の作用は膝屈曲及び下腿内旋とあるが、今回の観察では、下腿内旋作用は推察できたものの膝屈曲においては初期屈曲及び深屈曲において膝窩筋腱が上方に移動し、特に120°から角度を増すにつれ膝窩筋腱が強く伸張された。また、起始部の精査においても大腿骨外側顆部の回転軸下方に位置していたことからも大腿骨外側顆部を後方に回転させることは不可能であった。つまり膝窩筋の作用は屈曲でないことも示唆された。従って膝の屈曲による膝窩部痛は膝窩筋が伸張され発生することが考えられた。
著者
壇 順司 国中 優治 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0431, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】足関節の関節安定化は,内外側靱帯の自動締結作用や腓骨筋及び後方深部屈筋の内外側からの締め付け作用により行われていることは周知の通りであるが,その相互作用についてはあまり知られていない.隣り合う靱帯と腱の間では,関節運動に伴いそれぞれが干渉し合いながら何らかの相互作用があると考えられる.そこで遺体を用いて足関節内外側靱帯と腱の足関節底背屈運動における相互作用について検証したのでここに報告する.【対象】熊本大学大学院医学薬学研究部形態構築学分野の遺体で,可動性(底屈60°から背屈20°)がある右4足関節,左2足関節にて標本1から3を作製し使用した.標本1:右3足関節,左2足関節を用いて,長短腓骨筋,後脛骨筋,長母趾屈筋,長趾屈筋,内外側の靱帯,関節包を残したものを使用した.標本2:右1足関節を用いて外内果の中央付近の前額面で切断したものを使用した.【方法】1)標本1を用いて内外側の矢状面より,静的な腱と靱帯の位置関係を調べた.2)標本1を用いて底屈60°から背屈20°まで他動的に動かし,腱と靱帯の関係を調べ,距骨外側面と腓骨外果内側面が接する角度を調べた.3)標本2を用いて前額面より,静的な腱と靱帯の関係を調べた.【結果】1)外側では,前距腓靭帯,踵腓靭帯(以下,CFL),後距腓靭帯があり,後距腓靭帯とCFLの表層を長短腓骨筋腱が走行していた.内側では,三角靭帯(前脛距部,脛舟部,脛踵部,後脛距部)があり,脛踵部・後脛距部(以下,DL)の表層を後脛骨筋腱が走行していた.2)底屈32.1±2.3°で,長短腓骨筋腱がCFLを,後脛骨筋がDLを圧迫し始めた.CFLとDLはこの角度から背屈で緊張し続けた.また距骨滑車の外側面にわずかな突出部があり,底屈27.1±2.3°でその突出部と外果内側面が接し,外果が外に押し出され,下脛腓関節が広がった.3)切断面で見ると,CFLと長短腓骨筋,DLと後脛骨筋が接しており,腱を起始部の方へ牽引すると靱帯が内上方へ圧迫された.【考察】まず,CFLや三角靭帯(脛踵部)は踵骨に付着しており,この靱帯が緊張すれば,踵骨は距骨に,距骨は関節窩に押しつけられ固定されることになる.つまり背屈に伴い靱帯の緊張が高くなることと長短腓骨筋腱や後脛骨筋腱がこれらの靱帯を内上方へ圧迫することで,関節の安定性が得られると考えられる.特に靱帯損傷が多い外側で,底屈約30°では骨性の安定が乏しいため,長短腓骨腱によるCFLへの圧迫作用がなければ,関節の不安定性は増大することが推察される.次に外内果の下部でCFLや三角靭帯(脛踵部)が滑車の役目を担い,底屈運動時に腱と関節中心部の距離を保ち,関節モーメントを維持することで,長短腓骨筋や後脛骨筋が効率的に活動するようにしていると推察される.つまりCFLと長短腓骨筋,DLと後脛骨筋が相互に作用し,関節の安定化や筋の活動効率に関与しているといえる.
著者
国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0884, 2007

【はじめに】膝屈曲時における膝窩部痛は膝関節疾患に多く見られ、その原因の探索は臨床上重要である。我々は膝関節運動に伴う組織の位置変化や筋の形状変化を機能解剖学的にとらえ、その原因を腓腹筋内側頭起始部の折りたたみによる圧迫、もしくは膝窩筋の伸張によるものであると報告した。しかし臨床上膝窩外側部の疼痛を訴えるケースもまれにみられるため再度膝屈曲時における膝窩部の観察を遺体にて行った。<BR>【対象】熊本大学形態構築学分野の遺体で、大腿骨・脛骨の可動性が充分保証されている4体の膝4関節及び観察用に22体膝44関節を用いた。<BR>【方法】可動性の充分保証された膝4関節において伸展位から最大屈曲位まで可動し膝窩部の様子を観察した。また、22体膝44関節においては膝窩関節包の一部に存在するファベラの有無の確認を行った。なお観察したモデルは組織の動態が確認できるように表皮及び結合組織、脈管系を除去し、筋、関節包を剖出した。<BR>【結果】可動した4関節においてはこれまで報告した通り膝屈曲角度が進むにつれ腓腹筋内側頭が起始部にて折りたたまれ圧迫され、膝窩筋は伸張された。外側においては屈曲角度が進むにつれて足底筋が折りたたまれると同時に深部の関節包は蛇腹状になり撓みが見られたが大腿骨と脛骨による圧迫は軽微であった。腓腹筋外側頭においては起始部が足底筋より末梢であるため、折りたたまれることはなかった。次に4関節の内2関節においてはファベラが存在した。ファベラの存在した関節は屈曲にて関節包が後方に緩み腓骨頭上方に位置する膝窩筋にファベラが接触した。それは角度が進むにつれて圧迫強度が増加した。ファベラの存在する関節は44関節中7関節(15.9%)に確認された。<BR>【考察】外側課部関節包の一部であり、腓腹筋外側頭の起始腱の内部に存在するファベラは大豆状の種子骨である。その出現率はGillesらが8~10% 、J.Langらが10%と報告しているが今回の遺体解剖においても15.9%のファベラ出現例が確認できた。屈曲することにより後課部関節包は蛇腹状に折りたたまれることでコンパクトに収納される。しかしファベラが存在する例においては関節包の一部とはいえ種子骨であるためにその部位が後方に突出し腓骨頭上方に位置する膝窩筋(膝窩筋も含む)を圧迫していた。第38回の学術大会にて膝屈曲時には腓腹筋内側頭が圧迫を受けやすくそれが原因で疼痛を発する可能性があり、外側に関しては機械的な圧迫は起きないということを報告した。しかしファベラの存在する例においてはそれによる膝窩筋および周囲の軟部組織に圧迫を加えることが確認できた。ゆえにその部位においても疼痛を発する可能性が示唆された。またファベラの確認はレントゲン撮影にて容易に確認出来るため、評価において早期に疼痛部位を推察することも可能ではなかろうか。<BR>
著者
谷口 忍 国中 優治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P2578-G3P2578, 2009

【はじめに】PTとしての将来に不安を感じる最近の医療情勢は、若い世代にとって深刻な問題である.しかしながら、PTの知識や技術の可能性はまだまだ可能性があることは誰しもが承知であろう.そこで今回、PTの職域拡大への取り組みとして美容業界への参入を目指し、エステティシャンへの医学的知識の提供や美容系イベントの参加を経験して感じた将来的展望を報告する.<BR>【方法】1,美容メニューであるフェイシャルアプローチの施術に必要と考えられる医学的根拠(解剖学や生理学を中心に)を機器メーカー、美容外科に所属するエステティシャンに提供した.2,700人参加規模の一般女性向けイベントにて、美容系の各業種が集まる中、PT及びエステティシャンの混成チームとしてブースを設け、施術を行った.施術には通電装置であるElectrical Muscle Stimulation:EMS(商品名プロテクノPNF アルファトリニティ社製)を用いた.その効果は、a.表情筋への通電刺激による目尻、口角の位置を高位にする.b.下顎部のむくみを除去することで、フェイスラインに変化をもたらす.C.機器の特徴である中周波以上の周波数が、真皮層の血管拡張を促すことで肌に透明感を与え、美白効果をもたらす.また、表皮層のきめ細かさの現れによる化粧のりの良さなどが挙げられる.<BR>【結果及び考察】エステティシャンへの医学的知識の提供は、論理的な思考における施術への導きとなった.近年、美容業界においても、医学的根拠が求められる時代となり、その習得はサービスの質の高さを保証することとなっている.しかし、「メディカル~」などといったキャッチコピー的な扱いにより、実際のサービスとの差異が大きいのもトラブルの原因となっているようである.医学的知識の習得はエステティシャンにとって、サービスの質の向上として強く必要とされていることは確かであり、医学的知識を教授されているのも事実ではあるが、教授内容やその習得度が施術とは程遠く、実際にはマニュアル的な知識としてしか持ちえていないようである.その上、話題性にスピードが必要とされるあまり、不十分な状態でクライアントに提供してしまうなどの問題点がある.よって、我々が専門知識を提供する役割は非常に高いと感じている.<BR>【おわりに】PTがエステティシャンになり変われるかというと、簡単ではないようである.エステティシャンの接客対応(格好、言葉遣いなど)や経営理論、及びファッション性に関しての資質は高く、保険診療下におけるPTにとって、大きな課題であると思われる.また、エステ業界に参入しようと、エステティシャンの資格を取得する女性PTが増えつつあるが、PTとしての落とし込みがうまくいかないのも現状としてみられる.よって課題は多いが、参入に関するシステムの組み方及び人材次第で可能性は十分にあると思われる.
著者
米ヶ田 宜久 中島 喜代彦 国中 優治
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】<BR>診療報酬管理の効率化と他部門とのデータ共有の必要性に伴うIT導入化が進み、全国的な普及と便利なソフト発売にまで至っている。そのような状況においても、コスト面や施設毎による書類管理の相違によりエクセル(以下Excelとする)を用いるのが主流のようである。理学療法士個人レベルのITに対する知識や技術の向上は認められるが、最終的には台帳への転記などの手作業(アナログ的)を要する場面も多く見受けられ、処理時間の増大や誤算などの問題が生じることも多い。そこで、Excelを用いて1度の入力により出力まで終結するプログラムを作成したので、その一例を提示する。<BR>【方法】<BR>ソフトはMicrosoft社のExcel2003の標準機能と独自のプログラムをVBA(Visual Basic for Applications)にて作成し、疾患別リハビリテーション料、疾患別リハビリテーション医学管理料を算定している施設基準IとIIを対象とした。Excelシート(以下シートとする)の縦軸に患者氏名、横軸に日付を入力し、治療施行済のチェックとして単位時間を入力し、それが別シートの日報・月報として算出できるような仕組みを組み込んだ。<BR>管理の全体像は設定シート・担当者別の疾患別患者マスタ(日次管理シート含む)・担当者別医学管理患者マスタ(日次管理シート含む)・担当者別単位および治療時間シート・日報シート(担当者別・総合計)・月報シート(担当者別・総合計)・加算(評価・指導)シート・データ保存シートとした。<BR>最大の特徴は、マスタシートに患者名・算定開始日・算定種目・点数を入力することで、すべての集計・算定結果が出力可能になるようにした点である。また、日付の管理・逓減管理等も全てモニター上に表示し誤入力の防止を容易にした。入力は治療単位を該当患者名の欄に入力し、担当者別単位および治療時間シートに患者名・治療時間をリストから選択式に入力し、業務終了時にデータシートにデータをコピーするだけで日次処理は終了する。月次処理は月報を印刷するだけとした。<BR>【結果および考察】<BR>当院では70%(月単位)の労務時間を短縮でき、集計結果の間違い等は皆無となった。また院内のファイルサーバーを活用することで、各部署からリハビリテーションの進捗状況の確認・診療報酬の確認がリアルタイムに可能となった。また、ユーザビリティが非常に高いExcelという既存ソフトの機能を最大限に活用することで、新たなコストが発生しなかったことはもちろんのこと、これといったスキルを要せず、データの整理及び活用の活性化につながった。<BR>これらのことにより、Excelの標準機能を用いても処理の流れを適切に一元化することにより、正確で効率的な管理と、データ共有を容易に実現することが可能であるといえる。また、来年度(平成20年)に予定されている診療報酬の改正にも柔軟に対応していく予定である。
著者
国中 優治 野尻 圭吾 谷口 忍
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P2579-G3P2579, 2009

【はじめに】近年、理学療法士養成校の乱立や医療情勢の厳しさによって、理学療法士の将来的保障に不安のよぎる時代となりつつある.そこで、職域拡大による新たなフィールドの確保が急務と感じている.よって今回、美容・健康業界に着目し、理学療法士の自由市場参入の可能性について施設のマネジメントを通して得られた見解を述べる.<BR>【方法】整形外科と美容外科を標榜する施設(同施設内に美容形成及びエステ、スパを併設)において、保険診療として在籍する理学療法士(4名)の空き時間を利用し、以下の自由市場サービスを携わらせた.1,施設に在籍するエステティシャンに対し、施術時に必要な顔面の解剖学指導、また、その効果に対する医学的根拠の説明を行った.内容はフェイシャルアプローチ(通電によるリフトアップ効果)である.2,会員制のスパ施設におけるアクアエクササイズメニューの内、週4回スポット的に携わらせた.3,快眠へのアプローチとして、機能的枕(頚椎形状にあわせたオリジナル枕)をクライアントに紹介し、その販売に携わらせた.医療法人における業務規制に関しては、株式会社、および42条施設取得によりクリアした上で起用した.<BR>【結果及び考察】1,エステティシャンのクライアントに対する説明能力が向上し、売り上げやリピーターの増加に貢献できた.2,専従で在籍するインストラクターのクライアントリスク及び情報管理に対する意識が高まった.また、エクササイズにおける物理・運動療法的な効果理論が共有でき、理学療法を併用する対象者の理想的な運動効果が得られた.さらに、診断日より150日経過した患者の会員への移行によって、医学、経済的においてフォローができた.3,導入当初、販売個数が得られなかったが、意識改革と、提供の仕組み作りによって、販売個数が伸びた.今回の取り組みにおいて、アプローチの方法が我々に比較的類似するスパへの関わりにおいては予想した結果が得られたが、物販や美容といった異業種においては満足のいく結果は得られなかった.特にエステティシャンなど、自由市場をフィールドに持つ職種との差異が大きく感じられ、PTの対価意識の甘さが垣間見えた.保険診療環境下におけるその甘さが責任と質の向上(特に満足度獲得に関して)に影響していることを認識させられた.<BR>【最後に】職域拡大には、まだまだフィールドの確保が困難(環境側面、人的側面、経済的側面)であるという課題も残るが、自由市場におけるニーズ(正しいもの、本物に医学的判断が必須となる時代)は間違いなく大きいと確信する.そのためには理学療法の自由市場における落とし込み方法(仕組み、接客、センス、販促、デザインなど)のマネジメントがこれからの課題となるのではないか.美容業界や健康業界も医学的知識を習得する努力がすでに始まっている.職域拡大を目指す我々に時間があるわけではない.
著者
谷口 忍 国中 優治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.G3P2578, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】PTとしての将来に不安を感じる最近の医療情勢は、若い世代にとって深刻な問題である.しかしながら、PTの知識や技術の可能性はまだまだ可能性があることは誰しもが承知であろう.そこで今回、PTの職域拡大への取り組みとして美容業界への参入を目指し、エステティシャンへの医学的知識の提供や美容系イベントの参加を経験して感じた将来的展望を報告する.【方法】1,美容メニューであるフェイシャルアプローチの施術に必要と考えられる医学的根拠(解剖学や生理学を中心に)を機器メーカー、美容外科に所属するエステティシャンに提供した.2,700人参加規模の一般女性向けイベントにて、美容系の各業種が集まる中、PT及びエステティシャンの混成チームとしてブースを設け、施術を行った.施術には通電装置であるElectrical Muscle Stimulation:EMS(商品名プロテクノPNF アルファトリニティ社製)を用いた.その効果は、a.表情筋への通電刺激による目尻、口角の位置を高位にする.b.下顎部のむくみを除去することで、フェイスラインに変化をもたらす.C.機器の特徴である中周波以上の周波数が、真皮層の血管拡張を促すことで肌に透明感を与え、美白効果をもたらす.また、表皮層のきめ細かさの現れによる化粧のりの良さなどが挙げられる.【結果及び考察】エステティシャンへの医学的知識の提供は、論理的な思考における施術への導きとなった.近年、美容業界においても、医学的根拠が求められる時代となり、その習得はサービスの質の高さを保証することとなっている.しかし、「メディカル~」などといったキャッチコピー的な扱いにより、実際のサービスとの差異が大きいのもトラブルの原因となっているようである.医学的知識の習得はエステティシャンにとって、サービスの質の向上として強く必要とされていることは確かであり、医学的知識を教授されているのも事実ではあるが、教授内容やその習得度が施術とは程遠く、実際にはマニュアル的な知識としてしか持ちえていないようである.その上、話題性にスピードが必要とされるあまり、不十分な状態でクライアントに提供してしまうなどの問題点がある.よって、我々が専門知識を提供する役割は非常に高いと感じている.【おわりに】PTがエステティシャンになり変われるかというと、簡単ではないようである.エステティシャンの接客対応(格好、言葉遣いなど)や経営理論、及びファッション性に関しての資質は高く、保険診療下におけるPTにとって、大きな課題であると思われる.また、エステ業界に参入しようと、エステティシャンの資格を取得する女性PTが増えつつあるが、PTとしての落とし込みがうまくいかないのも現状としてみられる.よって課題は多いが、参入に関するシステムの組み方及び人材次第で可能性は十分にあると思われる.
著者
壇 順司 高濱 照 国中 優治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0972, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】足底が床面に接地した足関節の背屈動作では,下腿を内外側方向へ傾斜することができる.これは一方向にしか可動できない距腿関節だけでは困難であるが,距骨下関節(以下,ST)の回内外が連動することで可能にしている.踵骨に対する下腿(距骨を含む)の動きは,下腿を前内側に傾斜した場合STは回内(下腿は内旋内転)し,前外側に傾斜した場合STは回外(下腿は外旋外転)する.しかしST回内外の切り替わりの境界について不明であるため,水平面上での下腿の傾斜方向の違いとSTの回内外の関係について遺体を用いて検証したので報告する.【対象】熊本大学医学部形態構築学分野の遺体で右8肢を用い,関節包と靱帯のみの下腿標本を作製した. 【方法】脛骨前縁と中足骨が一致するように,下腿を第1~第5中足骨まで順に最大背屈位になるまで傾斜させた.水平面において底背屈中間位と各傾斜方向での脛骨下関節面前縁と前額面とのなす角を測定し,背屈に伴う下腿の回旋角を調べた.さらに矢状面外側方より踵骨溝外側および踵骨後距骨関節面と距骨外側突起の位置関係について観察した.【結果】中間位は9.6±2.05°であり,各中足骨への下腿の傾斜では,第1中足骨は0°,第2中足骨は12.5±1.8°,第3中足骨は19±4.24°,第4中足骨は28.4±3.39°,第5中足骨は35±4.04°であった.多重比較検定(scheff`s F test)の結果,中間位と第2中足骨間では有意差は認められなかったが,それ以外はすべて有意差が認められた(P<0.01).矢状面外側方からの観察では,第1中足骨方向では,踵骨溝外側に距骨外側突起がはまり込んでいた.第2~5中足骨方向では距骨外側突起は踵骨後距骨関節面を後上方に移動した.第2から5中足骨方向になるに連れてその移動の距離は長くなった.【考察】距腿関節は,一方向しか動かないので前額面上での下腿の内外側への傾斜は,STで行われ足関節は2重関節で動く機構を呈している.STには踵骨と距骨を強力に連結する骨間距踵靱帯があり,踵骨中距骨関節面と後距骨関節面の間で関節のほぼ中央付近にあることから,この靱帯は動きの支点となることが推察できる.また後距骨関節面は約40°前方傾斜しているため,水平面での回旋,前額面での内外転の動きを誘導すると考えられる.よってSTより上方の質量が,第1中足骨方向では支点より内側に移動するため後距骨関節面が内旋内転を誘導し,第3~5中足骨方向では支点より外側に移動するため後距骨関節面が外旋外転を誘導したと推察できる.第2中足骨方向では下腿の運動方向と支点の位置がほぼ一致したため,回旋しなかったと考えられる.すなわち,下腿の傾斜が第1中足骨方向ではST回内(下腿内旋内転)し,第3~5中足骨方向ではST回外(下腿外旋外転)して,第2中足骨方向が回内外(内外旋)の切り替わりの境界となることが示唆された.
著者
国中 優治 高濱 照 壇 順司 中島 喜代彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.210, 2003

【目的】膝屈曲時に膝窩痛を訴える患者は腓腹筋内側頭(以下、内側頭)起始部に多くを認める。そこで今回、その部位が発痛部位となる理由について遺体解剖を通して調べたので考察を加えここに報告する。【対象】 熊本大学医学部解剖学第一講座の遺体8体12肢【方法】1)内側頭と腓腹筋外側頭(以下、外側頭)のそれぞれの起始付着部(以下、付着部)について精査と、膝裂隙から付着部までの距離を各々計測した。2)遺体で膝屈曲時に大腿骨顆部後方と脛骨上関節面後縁部で圧迫される組織を調べ、その組織が圧迫され始める時の膝屈曲角度を測定した。【結果】1)内側頭付着部は大腿骨内側上顆後方及び関節包であり、関節包との間には滑液包が認められた。外側頭付着部は関節包及び足底筋外下部であり、大腿骨外側上顆には付着していなかった。大腿骨外側上顆には足底筋が付着していた。また、膝裂隙から付着部までの距離は内側頭で42.6±0.6mm 、外側頭で29.3±0.6mm であった(p<0.01)。2)圧迫された組織は内側頭と足底筋であった。内側頭は鋭角に折り畳まれ圧迫を強いられていた。足底筋は折り畳まれるものの圧迫は軽微であった。その時の膝屈曲角度は内側頭側が103.9±4.9°であり、足底筋側が122.9±9.9°であった(p<0.01)。【考察】遺体での付着部の精査にて、内側頭と足底筋は関節裂隙を跨いで骨に付着するために膝屈曲時に両筋とも折り畳まれること、および膝屈曲時に内側コンパートメントの関節面の接点が外側コンパートメントのそれよりも前方に位置するために大腿骨内側顆部後方に楔状の間隙ができ、屈曲時この間隙に関節包および内側頭が嵌入する可能性があることが判明した。次に、膝屈曲角度において内側頭側と足底筋側の差は、内側頭のボリュームが足底筋のそれに比べ厚いことに起因しており、膝屈曲時には内側頭付着部がより強い圧迫を強いられることが示唆された。このことより内側頭付着部付近は正座やしゃがみ位など膝屈曲にてより損傷されやすい状況であるものと考えられた。しかし、生体の正常な膝関節では他動的屈曲時には関節包内圧の後方での高まり、同じく自動屈曲時には関節包内圧の後方での高まりと収縮している内側頭が付着部の一部である関節包を後方に引くことで関節包および内側頭の嵌入を防いでいると考えられ、内側頭付着部下の滑液包の存在を含めその部位への圧迫を軽減していると考えられる。加えて、変形性膝関節症などに伴う膝窩痛を有する高齢患者を想定した場合、加齢あるいは疾患による筋・関節包の柔軟性低下や短縮や滑液包の柔軟性低下などを背景とした膝屈曲における内側頭付着部付近の圧迫による筋・関節包・滑液包の微細損傷の発生およびその質的変化による筋滑走性の阻害などの可能性が考えられる。以上のことより、膝屈曲時の膝窩痛の発痛部位としては内側頭付着部が想定される。
著者
米ヶ田 宜久 中島 喜代彦 松本 貴子 国中 優治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1584, 2009

【目的】<BR> 当学院において本年度より地域貢献事業の一環として、転倒予防教室を開催している.内容は転倒に関するアンケート調査・おたっしゃ21によるリスク判定・運動機能検査・1時間程度の講話を行っている.特に参加者に自らの身体状態をできるだけ把握してもらうため、各種検査結果の迅速なフィードバック(以下FBとする)を重視している.そこで、迅速なFBを可能にする為に、Microsoft社のExcel2003(以下Excelと する)を用いて運動機能検査に関する結果の入出力方法を確立したので、検査内容並びに、その手法を報告する.<BR>【方法】<BR> FBする内容は1.血圧・脈拍・BMI等の基本情報、2.握力・下肢筋力、3.ファンクショナル・リーチテスト・外乱負荷・片脚立位を用いたバランス検査、4.歩行能力検査として5m歩行・Time up and Go testである.各種検査は東京都老人総合研究所の測定方法に則して行う.これらの測定結果を講話中に入力し、参加者個人毎にプリントアウトを行う.それらを参加者1人1人に直接、理学療法士が結果の説明を行っている.<BR>ソフトは結果入力シートと結果出力シート、判定用シートで構成される.測定データを結果入力シートに順次入力を行うと、身体運動機能のランクが結果出力シートに瞬時に表示される.ランクは5段階で数値の他に「注意が必要です」「非常に良い結果です」等のメッセージも同時に出力される.カットオフ値は判定用データシートに入力されており、性別・年齢の違いが適宜選択されるように設定されている.また、各々の検査種別の転倒危険境界点と測定結果を比較したグラフも出力され、これらのカットオフ値・メッセージ等は自由にカスタマイズが可能な仕様となっている.<BR>また、各々のデータは1つのExcel ファイルとして保存される.このファイルに保存されたデータを自動処理で読み取り、一覧表にするためのソフトもVBA(Visual Basic for Applications)を用いて開発した.このソフトにより結果をまとめる作業が不要となり、個人データの入力後すぐに統計処理等を可能とした.<BR>【結果と考察】<BR> Excelを用いることで、現在のITスキルを用いたデータの活用が容易となる.つまり直感的な操作を可能とするデータの入出力形式にしたことで、さまざまな病院・施設で簡易に使用でき、誰でも容易にデータの入力・出力が可能であることと、統一性および統合性をもったデータの処理とその蓄積が可能となった.<BR> 今後は利便性の向上を目的に無線LANを利用し、検査をしている現場でデータを入力し、結果の出力を可能にするシステム構築を目指す予定である.
著者
坂本 慎一 平尾 浩志 飯星 雅朗 国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1315, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】近年、呼吸器疾患患者の運動療法において体幹機能や姿勢制御機構を基にした報告がなされている。また呼吸に深く関与している横隔膜や腹横筋が体幹の安定化と呼吸の維持を図る二重作用についても言及されている。今回、熊本大学形態構築学分野のご遺体にて、腸骨筋と腹横筋が広範にわたり連結しているのを確認した。また腹横筋と横隔膜の関係においても、横隔膜の後方部にて腹横筋筋膜より起始しているのを確認でき、横隔膜肋骨部は肋骨弓より起始しており、また腹横筋も肋骨弓より起始している。上記より、横隔膜の張力を効果的に発揮させるためには、腸骨筋と腹横筋における腹部の固定性が重要になると推察した。そこで、腸骨筋と腹横筋の連結に着目し、腸骨筋へのアプローチを行うことで呼吸機能への影響の有無を検討した。【解剖所見】腹直筋は起始、停止とも遊離、外腹斜筋、内腹斜筋も遊離し外方に翻してあった。腹横筋は、肋骨弓部を起始より遊離し、停止部は腹直筋鞘の正中部で左右に翻してあった。腹部内臓は摘出し、体壁筋のみが存在した状態で観察を行った。また、骨盤腔においても恥骨を除去し、ある程度骨盤壁を左右に翻せる状態であった。その状態で、腹横筋の起始部と腸骨筋の起始部を観察した。通常腸骨筋は腸骨窩とされているが、観察した遺体では、すべて腹横筋の腸骨稜内唇の起始部と同じ所より起始していた。腹横筋との連結は筋線維の連結はなく、筋膜および骨膜を介して行われていた。【対象】理学療法学科1年から3年までの健常学生17名(男性15名、女性2名、平均年齢23.1歳)を被検者とした。【方法】呼吸機能計測はMICROSPIRO HI-701(日本光電)を用い、腸骨筋へのアプローチの前後で計測した。計測項目は肺活量(VC)、呼気予備量(ERV)、吸気予備量(IRV)、努力肺活量(FVC)とした。腸骨筋へのアプローチは、端坐位を取り両上肢にて坐面を押さえることで上体を固定した姿勢にて、股関節の屈曲運動を行わせた。また、腹部内臓の影響を避けるため測定は全例、昼食より4時間空けて行った。上記の測定データをWilcoxonの符号付順位検定を用い、有意水準を5%として解析を行った。また、解析ソフトはStatViewを用いた。【結果および考察】VC値においてアプローチ前(4.69±0.16L)とアプローチ後(4.78±0.17L)で有意な増加が見られた(P<0.05)。VCの増加は17名中12名に認めた。その他の項目について有意差は認めなかった。遺体の解剖所見に基づき今回腸骨筋にアプローチを行い、呼吸機能の測定を行いVC値に変化が見られた。この結果より腸骨筋と腹横筋の関係が腹部体壁の固定性を高め、横隔膜の張力を高める可能性が示唆された。このことより、腸骨筋へのアプローチが呼吸機能へ影響すると考えられる。
著者
米ヶ田 宜久 高濱 照 壇 順司 国中 優治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI2248, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】前腕の回内の可動域測定は、近位橈尺関節と遠位橈尺関節に加え手関節の可動性を含めた角度にて測定している。また、高齢者に多発する橈骨遠位端骨折後に問題となる前腕の可動域制限を考える上で、日常生活上、最もよく使用される回内の可動域を正確に測定することが重要であり、可動域を改善するためには、橈骨と尺骨での純粋な回内運動とその制限因子を把握する必要がある。今回、前腕の軸回旋のみの可動性を”真の回内”と位置づけ、通常の可動域と区別し可動域測定の指標となる角度を算出した。さらに回内の動きを制動する要因について、遺体解剖の所見により検討した。【方法】対象は健常人55名(男性30名、女性25名、年齢21.13±2.84歳)、110肢とした。回内の可動域測定方法は、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会の測定方法に基づき、上肢下垂位から肘関節を90°屈曲し、基本軸を上腕骨、移動軸を手指伸展した手掌面にて測定した。また、可動域の制動となる要因を、熊本大学医学部形態構築学分野の遺体、左右14肢を用い測定・観察を行った。まず健常人での回内可動域を測定し、次に回内を制動する可能性の高い回外筋に着目し、切断前後の可動域の差を測定した。測定方法は健常人と同じ方法を用いた。尚、手関節の可動性はほとんどなかった。また関節包・靭帯のみを残した標本を作成し制動要素を観察した。さらに橈骨粗面が尺骨に衝突し制動要因となるかを観察した。その後、健常人の真の回内を測定した。方法は、上肢下垂位から肘関節を90°屈曲し、基本軸を上腕骨、移動軸を尺骨頭背側面の最も高い部位とリスター結節背側面の最も高い部を結ぶ線にて測定した。検定には全てt検定を用いた。【説明と同意】対象者には本研究の参加に際し、事前に研究の内容を説明し、同意を得た上で実施した。また、生前に白菊会にて同意を得ている遺体を用いた。【結果】回内の可動域は108.72±16.17°、男性106.53±17.44、女性111.36±14.22°であり性別間に有意差はなかった。次に遺体解剖の所見から、回外筋を残した状態での回内角度は45.57±8.84°であり、切断後は56.42±9.35°となり、回外筋切断後の可動域に有意な差を認めた(P<0.01)。また、靭帯・関節包の制動要因については、外側側副靭帯・輪状靭帯の緊張が高くなることが観察された。骨は14肢とも橈骨粗面は尺骨と衝突しなかった。これは解剖用のメスを橈骨粗面と尺骨の間に挟み、最大回内させても容易にメスを抜き出すことができた事から骨の衝突はないといえる。その後、健常人の真の回内を測定した。可動域は86.09±16.52°であり、回内との可動域に有意な差が認められた(P<0.01)。また、性別比較では男性87.33±15.52°、女性84.60±17.69°であり、回内と比較し有意な差が認められた(P<0.01)。性別間に有意な差はなかった。【考察】回内角度は健常人108°、遺体45°であること、遺体による回外筋の切断前後の可動域の差を約11°認めたことから制動の大きさを示している。しかし、健常可動域にはまだ不十分である。そこで、他の要因として、近位橈尺関節周囲の軟部組織と橈骨と尺骨の衝突、手関節の可動性が考えられる。靭帯・関節包の観察により外側側副靭帯、並びに輪状靭帯の緊張により回内制動されることが確認された。また、橈骨と尺骨の衝突は、回内位で生じないことが確認できた。これは橈骨の生理的湾曲と橈骨頭が楕円形であることで衝突を回避し、より大きな可動域を確保しているものと考えられる。しかし、そのまま回内への可動を許すと近位橈尺関節は脱臼するため、これらを制動する要因として橈骨頭の軸回旋を安定化させる、外側側副靭帯と輪状靭帯が緊張することが、回内制動に最も適していると考えることができる。また外側側副靭帯は橈骨頭の上端より上の部分から、内下方に走行していることも制動に適しているのではないかと考えられる。また、健常人の真の回内は約86°であり、回内と比較すると22°の角度を手関節が担っている。遺体で回外筋切断後も約56°であったこと、健常人での回内と真の回内の角度に約22°の差を認めることから手関節部も大きな制動要因になる可能性が高いと考えられる。これらのことから回外筋・外側側副靭帯と輪状靭帯の変性、手関節の柔軟性が真の回内の可動性を制限する要因になると考えられる。【理学療法学研究としての意義】回内の可動性の測定において、真の回内と回内に分類して考えることで、可動性の異常に対する原因を切り分け、治療対象を明確化でき、回内の測定はこれら2種類の可動域に着目する必要があると言える。また、回外筋・側副靭帯・輪状靭帯・手関節の変性は回内制動の原因となることが示唆された。