著者
国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0448, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】膝関節疾患の治療において膝屈曲時の膝窩部痛はしばしばみられ、一般的にその原因を膝窩筋に絞ることが多々ある。しかし関節運動における膝窩筋の位置やその機能について詳しく説明したものを散見しない。そこで今回遺体ではあるが、膝窩筋の位置と膝関節運動時の機能から膝窩部痛の発生機序について検証したのでここに報告する。【対象】熊本大学大学院医学薬学研究部形態構築学分野の遺体で、大腿骨・脛骨の可動性が充分保証されている右膝1関節を用いた。【方法】1)脛骨に対し大腿骨を最大伸展位から最大屈曲位へと可動し、大腿骨と膝窩筋の接触の有無について後方から観察した。2)脛骨に対し大腿骨を最大伸展位から最大屈曲位に可動し、その外側顆部の回転運動について観察した。又、それに伴う膝窩筋腱の動態及び筋が伸張し始める膝関節角度を計測した。3)脛骨に対し大腿骨を内外旋し、膝窩筋腱の緊張を観察した。4)膝窩筋腱の起始部を大腿骨外側顆部にて精査した。【結 果】1)最大屈曲位においても大腿骨と膝窩筋との距離は保たれ、両者が接触することは無かった。2)大腿骨外側顆部は屈曲開始時、軸回転と共に転がりによる回転軸の後方移動が見られた。その後最大屈曲位に近づくにつれ軸回転主体の運動が見られた。0°から60°屈曲では後下方から前上方に斜走する膝窩筋腱が長軸方向に伸張された。屈曲60°から100°屈曲では膝窩筋腱は伸張されず、大腿骨外側顆部の転がりにて起始部が後方移動し、腱の長軸が垂直位となった。その後弛緩状態が120°まで続いた。120°から最大屈曲では、大腿骨外側顆部の回転軸を中心に膝窩筋腱起始部が上方に移動し垂直方向に伸張された。3)膝窩筋は大腿骨の脛骨に対する内旋にて緊張し、外旋にて弛緩した。4)膝窩筋腱起始部は、大腿骨外側顆部膨隆部にある回転軸(外側側副靱帯付着部位)の下方であった。【考察】膝屈曲時の膝窩部痛は角度が増すことで発生又は増強することから、膝窩筋が大腿骨と脛骨に挟まれ圧迫を受ける可能性が考えられていたが、今回の観察では膝窩筋は大腿骨に挟まれないことが判明した。これは膝窩筋停止部である脛骨後上方が凹状であり、そこに膝窩筋が位置することで大腿骨後顆部の接触を回避しているものと考えられた。解剖書によれば膝窩筋の作用は膝屈曲及び下腿内旋とあるが、今回の観察では、下腿内旋作用は推察できたものの膝屈曲においては初期屈曲及び深屈曲において膝窩筋腱が上方に移動し、特に120°から角度を増すにつれ膝窩筋腱が強く伸張された。また、起始部の精査においても大腿骨外側顆部の回転軸下方に位置していたことからも大腿骨外側顆部を後方に回転させることは不可能であった。つまり膝窩筋の作用は屈曲でないことも示唆された。従って膝の屈曲による膝窩部痛は膝窩筋が伸張され発生することが考えられた。
著者
壇 順司 国中 優治 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0431, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】足関節の関節安定化は,内外側靱帯の自動締結作用や腓骨筋及び後方深部屈筋の内外側からの締め付け作用により行われていることは周知の通りであるが,その相互作用についてはあまり知られていない.隣り合う靱帯と腱の間では,関節運動に伴いそれぞれが干渉し合いながら何らかの相互作用があると考えられる.そこで遺体を用いて足関節内外側靱帯と腱の足関節底背屈運動における相互作用について検証したのでここに報告する.【対象】熊本大学大学院医学薬学研究部形態構築学分野の遺体で,可動性(底屈60°から背屈20°)がある右4足関節,左2足関節にて標本1から3を作製し使用した.標本1:右3足関節,左2足関節を用いて,長短腓骨筋,後脛骨筋,長母趾屈筋,長趾屈筋,内外側の靱帯,関節包を残したものを使用した.標本2:右1足関節を用いて外内果の中央付近の前額面で切断したものを使用した.【方法】1)標本1を用いて内外側の矢状面より,静的な腱と靱帯の位置関係を調べた.2)標本1を用いて底屈60°から背屈20°まで他動的に動かし,腱と靱帯の関係を調べ,距骨外側面と腓骨外果内側面が接する角度を調べた.3)標本2を用いて前額面より,静的な腱と靱帯の関係を調べた.【結果】1)外側では,前距腓靭帯,踵腓靭帯(以下,CFL),後距腓靭帯があり,後距腓靭帯とCFLの表層を長短腓骨筋腱が走行していた.内側では,三角靭帯(前脛距部,脛舟部,脛踵部,後脛距部)があり,脛踵部・後脛距部(以下,DL)の表層を後脛骨筋腱が走行していた.2)底屈32.1±2.3°で,長短腓骨筋腱がCFLを,後脛骨筋がDLを圧迫し始めた.CFLとDLはこの角度から背屈で緊張し続けた.また距骨滑車の外側面にわずかな突出部があり,底屈27.1±2.3°でその突出部と外果内側面が接し,外果が外に押し出され,下脛腓関節が広がった.3)切断面で見ると,CFLと長短腓骨筋,DLと後脛骨筋が接しており,腱を起始部の方へ牽引すると靱帯が内上方へ圧迫された.【考察】まず,CFLや三角靭帯(脛踵部)は踵骨に付着しており,この靱帯が緊張すれば,踵骨は距骨に,距骨は関節窩に押しつけられ固定されることになる.つまり背屈に伴い靱帯の緊張が高くなることと長短腓骨筋腱や後脛骨筋腱がこれらの靱帯を内上方へ圧迫することで,関節の安定性が得られると考えられる.特に靱帯損傷が多い外側で,底屈約30°では骨性の安定が乏しいため,長短腓骨腱によるCFLへの圧迫作用がなければ,関節の不安定性は増大することが推察される.次に外内果の下部でCFLや三角靭帯(脛踵部)が滑車の役目を担い,底屈運動時に腱と関節中心部の距離を保ち,関節モーメントを維持することで,長短腓骨筋や後脛骨筋が効率的に活動するようにしていると推察される.つまりCFLと長短腓骨筋,DLと後脛骨筋が相互に作用し,関節の安定化や筋の活動効率に関与しているといえる.
著者
国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0884, 2007

【はじめに】膝屈曲時における膝窩部痛は膝関節疾患に多く見られ、その原因の探索は臨床上重要である。我々は膝関節運動に伴う組織の位置変化や筋の形状変化を機能解剖学的にとらえ、その原因を腓腹筋内側頭起始部の折りたたみによる圧迫、もしくは膝窩筋の伸張によるものであると報告した。しかし臨床上膝窩外側部の疼痛を訴えるケースもまれにみられるため再度膝屈曲時における膝窩部の観察を遺体にて行った。<BR>【対象】熊本大学形態構築学分野の遺体で、大腿骨・脛骨の可動性が充分保証されている4体の膝4関節及び観察用に22体膝44関節を用いた。<BR>【方法】可動性の充分保証された膝4関節において伸展位から最大屈曲位まで可動し膝窩部の様子を観察した。また、22体膝44関節においては膝窩関節包の一部に存在するファベラの有無の確認を行った。なお観察したモデルは組織の動態が確認できるように表皮及び結合組織、脈管系を除去し、筋、関節包を剖出した。<BR>【結果】可動した4関節においてはこれまで報告した通り膝屈曲角度が進むにつれ腓腹筋内側頭が起始部にて折りたたまれ圧迫され、膝窩筋は伸張された。外側においては屈曲角度が進むにつれて足底筋が折りたたまれると同時に深部の関節包は蛇腹状になり撓みが見られたが大腿骨と脛骨による圧迫は軽微であった。腓腹筋外側頭においては起始部が足底筋より末梢であるため、折りたたまれることはなかった。次に4関節の内2関節においてはファベラが存在した。ファベラの存在した関節は屈曲にて関節包が後方に緩み腓骨頭上方に位置する膝窩筋にファベラが接触した。それは角度が進むにつれて圧迫強度が増加した。ファベラの存在する関節は44関節中7関節(15.9%)に確認された。<BR>【考察】外側課部関節包の一部であり、腓腹筋外側頭の起始腱の内部に存在するファベラは大豆状の種子骨である。その出現率はGillesらが8~10% 、J.Langらが10%と報告しているが今回の遺体解剖においても15.9%のファベラ出現例が確認できた。屈曲することにより後課部関節包は蛇腹状に折りたたまれることでコンパクトに収納される。しかしファベラが存在する例においては関節包の一部とはいえ種子骨であるためにその部位が後方に突出し腓骨頭上方に位置する膝窩筋(膝窩筋も含む)を圧迫していた。第38回の学術大会にて膝屈曲時には腓腹筋内側頭が圧迫を受けやすくそれが原因で疼痛を発する可能性があり、外側に関しては機械的な圧迫は起きないということを報告した。しかしファベラの存在する例においてはそれによる膝窩筋および周囲の軟部組織に圧迫を加えることが確認できた。ゆえにその部位においても疼痛を発する可能性が示唆された。またファベラの確認はレントゲン撮影にて容易に確認出来るため、評価において早期に疼痛部位を推察することも可能ではなかろうか。<BR>
著者
壇 順司 高濱 照 中島 喜代彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.128, 2003 (Released:2004-03-19)

【目的】肩内旋動作は肩甲骨と上腕骨の位置関係を3次元的にイメージすることが難しく、制限因子も明確でない。そこで、結帯動作(以下、結帯)と第2肢位内旋動作(以下、第2内旋)を健常者及び晒し骨を使い、各骨の位置関係を計測した。遺体では両動作の制限因子を調べた。肩甲骨面から見た肩甲上腕関節の最終位での運動の違いと制限因子について、若干の考察を加えここに報告する。【対象】健常男性(年齢21_から_31歳)右肩26関節と熊本大学医学部解剖学第一講座の遺体右肩6関節を対象とした。【方法】1)被験者を椅座させ、頭部・腹部・骨盤を固定した。結帯と第2内旋を行わせ、各動作の最終位において、肩甲骨及び上腕骨の位置関係を3基本面から計測した。2)1)の測定値をもとに、晒し骨で両動作の最終位を再現した。その晒し骨の肩甲骨面を基準にして、上腕骨の内旋角、伸展角、外転角を実測した。3)2)の実測値をもとに、各々の動作の可動性に制限を引き起こした組織を遺体で調べた。【結果】肩甲骨面からみた上腕骨の位置は、結帯では内旋45°伸展12°外転5°、第2内旋では内旋41°伸展45°外転30°であった。結帯では小結節と臼蓋下方辺縁とが衝突したが、第2内旋ではそれは認められなかった。遺体での制限因子としては、結帯では後方及び上方関節包の緊張であり、第2内旋では後方及び下方関節包の緊張であった。制限因子となった筋は、両動作とも棘下筋、小円筋、烏口腕筋であったが、それぞれ制限する度合いが異なった。【考察】結帯動作最終位では、上腕骨小結節が肩甲骨臼蓋下方辺縁と衝突することから、骨頭は最大内旋していることが判る。一方、第2内旋動作最終位では、小結節と臼蓋下方辺縁が衝突するまで内旋していなかったが、これは上腕骨の外転による、下方関節包の伸張と上腕骨の内旋による後下方関節包伸張によるためと推察される。 棘下筋、小円筋は外旋筋であり、両動作の内旋動作を制限するが、結帯動作では上腕骨長軸と棘下筋の走行がほぼ直交するため、骨頭の内旋方向への動きに関し、棘下筋が主たる制限因子となる。第2内旋では、小円筋の停止部の関係で、上腕骨頭の外転の中心軸より遠位にあることと上腕骨が外転及び伸展することで伸張されるため、小円筋が主な制限因子と考えられる。烏口腕筋は内旋、伸展方向で起始と付着が離れることから、その緊張は、両動作の制限因子となり得るが、上腕骨内旋、伸展の差から、第2内旋動作により強い影響を与えるものと考えられる。このことより、結帯では棘下筋・後方及び上方関節包の緊張、第2内旋では烏口腕筋と小円筋・後方及び下方関節包の緊張が制限因子と推察されるので、これらの組織が治療のポイントになると考えられる。
著者
壇 順司 池田 真人 神吉 智樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100248, 2013

【はじめに】クライマーは,様々な形状のホールドを把持し自重を支えることで指にかなりの負担がかかるため,指の関節可動域(以下ROM)制限ひきおこすことが多いが,その原因についてはまだよく解明されていない.今回クライマーの指の筋力とROMを調査し,さらに前腕の筋の構造からROM制限を起こしやすい指とその原因を考察し,予防法を考案したので報告する.【方法】対象は,クライマー群(以下C群):中級レベル以上のクライマー男性74名(年齢30.2±7.4歳),一般群:クライミング経験のない一般男性40名(年齢23±2.3歳)であった.深指屈筋と浅指屈筋の形態は,2007年熊本大学医学部で解剖された解剖実習体23体左右46肢を用いた.筋力は指の保持力をみるために,2~4の各指で,デジタル握力計(竹井機器工業社製)を頭上で垂直に固定し,そのグリップ部を下方に引くようにして測定した.その後,対象者の体重で除して体重比を算出した.またROMは,2~4指までのDIP,PIP,MP関節(以下DIP,PIP,MP)の屈曲と伸展を指用ゴニオメーターにて測定した.統計解析は,対応のないt検定と多重比較検定を用いた.解剖は深指屈筋と浅指屈筋を剖出し,各指の腱に対応する筋束の数を分類した. 【説明と同意】対象者に,事前に研究目的および内容を説明し同意を得たうえで実施した.また解剖は2007年に熊本大医学部の教授に研究の目的・方法を説明し,許可を得て調査を行った.【結果】筋力は,C群(右2指0.25±0.5,3指0.34±0.9,4指0.22±0.6,左2指0.25±0.6,3指0.34±1.0,4指0.23±0.6)と一般群(右2指0.17±0.4,3指0.22±0.5,4指0.18±0.4,左2指0.16±0.3,3指0.19±0.5,4指0.17±0.4)の各指では,左右ともにC群が有意に強かった(p<0.05).C群では,左右ともに3指が他指よりも有意に強かった(p<0.01).ROMは,全ての関節・運動方向においてC群が有意に小さかった(p<0.05).またC群における左右差はなかった.C群の各関節の屈曲ROMの比較では,右DIPでは,2指72.9±8.4°,3指66.3±8.8°,4指70.5±10.6°であり,左DIPでは,2指74.7±6.8°,3指64.9±15.9°,4指70.9±11.4°で3指が有意に小さかった(p<0.05).右PIPでは,2指99.6±3.2°,3指95.3±8.2°,4指98.2±4.1°であり,左PIPでは,2指99.9±3.1°,3指92.3±8.6°,4指99.3±4.7°で3指が有意に小さかった(p<0.05).右MPでは,2指91.9±8.5°,3指95.3±7.6°,4指96.6±7.5°であり,左MPでは,2指92.4±8.3°,3指95.8±7.2°,4指96.5±7.2°で差はなかった.各関節での伸展に差はなかった.深指屈筋は,2指と3~5指の2筋束(32%)と2指,3指,45指の3筋束(68%)の2タイプであった.浅指屈筋は,全てにおいて25指,3指,4指の3筋束の1タイプであった.またその中でも3指の筋腹が最も大きかった. 【考察】クライミングは,ホールドを把持するときに指に全体重がかかることが多々ある.よって指の屈曲保持に関与する筋は常に最大筋力を発揮する環境にあるため,筋力は向上しやすいと考えられる.特に浅指屈筋の3指の筋腹が大きいことや深指屈筋3指が分離しているタイプが多いことから,3指は使いやすく最も力が入る指であり,他指よりも筋力が強いと推察される.また,3指のDIP,PIPの屈曲制限は,浅指・深指屈筋を過剰に使用することで,これらの腱が腱鞘A2pully(以下,A2)を掌側方向への正常圧を超えてストレスを与え,A2の炎症により腱鞘内で腱の滑走不全を生じさせると考えられる.また,掌側方向への腱が骨より離れる力は,PIPの位置にある腱鞘A3pully(以下,A3)へのストレスとなる.A3はPIPの掌側版に付着しており,これにも掌側方向への牽引ストレスが加わり,炎症・柔軟性の低下が生じ,PIP屈曲時に掌側版が基節骨と中節骨に挟まることで,屈曲制限が生じていると推察される.DIPも同様の理論で屈曲制限が生じていると考えられる.クライマーは,基本的に安静や休息をあまり取る傾向に無いため,腱鞘や掌側板にかかる負担を軽減する方法を考案した.ホワイトテープを指の幅に合わせて裂き,約40cmの長さを準備する.まず,その一部を利用し指関節を軽度屈曲位に保持した状態で,指の掌側基部から爪部にかけてテープを貼る.次に残りのテープをPIP掌側部でクロスしながら,屈曲位を保つように巻く.最後に初めに貼ったテープをDIPより遠位の部分で切る.これにより腱が腱鞘にかける負担を軽減でき,指の痛みやROM制限の予防に繋がると考えられる.【理学療法学研究としての意義】スポーツ障害を治療・予防するためには,スポーツの特性を理解し,障害部位の身体内部の構造より原因を追及し,それに基づく治療・予防法を考案する必要がある.指の詳細な解剖学的構造を踏まえた予防方法を伝えていくことは,理学療法士の役目であり,研究していく意義があると考える.
著者
壇 順司 高濱 照 国中 優治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0972, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】足底が床面に接地した足関節の背屈動作では,下腿を内外側方向へ傾斜することができる.これは一方向にしか可動できない距腿関節だけでは困難であるが,距骨下関節(以下,ST)の回内外が連動することで可能にしている.踵骨に対する下腿(距骨を含む)の動きは,下腿を前内側に傾斜した場合STは回内(下腿は内旋内転)し,前外側に傾斜した場合STは回外(下腿は外旋外転)する.しかしST回内外の切り替わりの境界について不明であるため,水平面上での下腿の傾斜方向の違いとSTの回内外の関係について遺体を用いて検証したので報告する.【対象】熊本大学医学部形態構築学分野の遺体で右8肢を用い,関節包と靱帯のみの下腿標本を作製した. 【方法】脛骨前縁と中足骨が一致するように,下腿を第1~第5中足骨まで順に最大背屈位になるまで傾斜させた.水平面において底背屈中間位と各傾斜方向での脛骨下関節面前縁と前額面とのなす角を測定し,背屈に伴う下腿の回旋角を調べた.さらに矢状面外側方より踵骨溝外側および踵骨後距骨関節面と距骨外側突起の位置関係について観察した.【結果】中間位は9.6±2.05°であり,各中足骨への下腿の傾斜では,第1中足骨は0°,第2中足骨は12.5±1.8°,第3中足骨は19±4.24°,第4中足骨は28.4±3.39°,第5中足骨は35±4.04°であった.多重比較検定(scheff`s F test)の結果,中間位と第2中足骨間では有意差は認められなかったが,それ以外はすべて有意差が認められた(P<0.01).矢状面外側方からの観察では,第1中足骨方向では,踵骨溝外側に距骨外側突起がはまり込んでいた.第2~5中足骨方向では距骨外側突起は踵骨後距骨関節面を後上方に移動した.第2から5中足骨方向になるに連れてその移動の距離は長くなった.【考察】距腿関節は,一方向しか動かないので前額面上での下腿の内外側への傾斜は,STで行われ足関節は2重関節で動く機構を呈している.STには踵骨と距骨を強力に連結する骨間距踵靱帯があり,踵骨中距骨関節面と後距骨関節面の間で関節のほぼ中央付近にあることから,この靱帯は動きの支点となることが推察できる.また後距骨関節面は約40°前方傾斜しているため,水平面での回旋,前額面での内外転の動きを誘導すると考えられる.よってSTより上方の質量が,第1中足骨方向では支点より内側に移動するため後距骨関節面が内旋内転を誘導し,第3~5中足骨方向では支点より外側に移動するため後距骨関節面が外旋外転を誘導したと推察できる.第2中足骨方向では下腿の運動方向と支点の位置がほぼ一致したため,回旋しなかったと考えられる.すなわち,下腿の傾斜が第1中足骨方向ではST回内(下腿内旋内転)し,第3~5中足骨方向ではST回外(下腿外旋外転)して,第2中足骨方向が回内外(内外旋)の切り替わりの境界となることが示唆された.
著者
国中 優治 高濱 照 壇 順司 中島 喜代彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.210, 2003

【目的】膝屈曲時に膝窩痛を訴える患者は腓腹筋内側頭(以下、内側頭)起始部に多くを認める。そこで今回、その部位が発痛部位となる理由について遺体解剖を通して調べたので考察を加えここに報告する。【対象】 熊本大学医学部解剖学第一講座の遺体8体12肢【方法】1)内側頭と腓腹筋外側頭(以下、外側頭)のそれぞれの起始付着部(以下、付着部)について精査と、膝裂隙から付着部までの距離を各々計測した。2)遺体で膝屈曲時に大腿骨顆部後方と脛骨上関節面後縁部で圧迫される組織を調べ、その組織が圧迫され始める時の膝屈曲角度を測定した。【結果】1)内側頭付着部は大腿骨内側上顆後方及び関節包であり、関節包との間には滑液包が認められた。外側頭付着部は関節包及び足底筋外下部であり、大腿骨外側上顆には付着していなかった。大腿骨外側上顆には足底筋が付着していた。また、膝裂隙から付着部までの距離は内側頭で42.6±0.6mm 、外側頭で29.3±0.6mm であった(p<0.01)。2)圧迫された組織は内側頭と足底筋であった。内側頭は鋭角に折り畳まれ圧迫を強いられていた。足底筋は折り畳まれるものの圧迫は軽微であった。その時の膝屈曲角度は内側頭側が103.9±4.9°であり、足底筋側が122.9±9.9°であった(p<0.01)。【考察】遺体での付着部の精査にて、内側頭と足底筋は関節裂隙を跨いで骨に付着するために膝屈曲時に両筋とも折り畳まれること、および膝屈曲時に内側コンパートメントの関節面の接点が外側コンパートメントのそれよりも前方に位置するために大腿骨内側顆部後方に楔状の間隙ができ、屈曲時この間隙に関節包および内側頭が嵌入する可能性があることが判明した。次に、膝屈曲角度において内側頭側と足底筋側の差は、内側頭のボリュームが足底筋のそれに比べ厚いことに起因しており、膝屈曲時には内側頭付着部がより強い圧迫を強いられることが示唆された。このことより内側頭付着部付近は正座やしゃがみ位など膝屈曲にてより損傷されやすい状況であるものと考えられた。しかし、生体の正常な膝関節では他動的屈曲時には関節包内圧の後方での高まり、同じく自動屈曲時には関節包内圧の後方での高まりと収縮している内側頭が付着部の一部である関節包を後方に引くことで関節包および内側頭の嵌入を防いでいると考えられ、内側頭付着部下の滑液包の存在を含めその部位への圧迫を軽減していると考えられる。加えて、変形性膝関節症などに伴う膝窩痛を有する高齢患者を想定した場合、加齢あるいは疾患による筋・関節包の柔軟性低下や短縮や滑液包の柔軟性低下などを背景とした膝屈曲における内側頭付着部付近の圧迫による筋・関節包・滑液包の微細損傷の発生およびその質的変化による筋滑走性の阻害などの可能性が考えられる。以上のことより、膝屈曲時の膝窩痛の発痛部位としては内側頭付着部が想定される。
著者
坂本 慎一 平尾 浩志 飯星 雅朗 国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1315, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】近年、呼吸器疾患患者の運動療法において体幹機能や姿勢制御機構を基にした報告がなされている。また呼吸に深く関与している横隔膜や腹横筋が体幹の安定化と呼吸の維持を図る二重作用についても言及されている。今回、熊本大学形態構築学分野のご遺体にて、腸骨筋と腹横筋が広範にわたり連結しているのを確認した。また腹横筋と横隔膜の関係においても、横隔膜の後方部にて腹横筋筋膜より起始しているのを確認でき、横隔膜肋骨部は肋骨弓より起始しており、また腹横筋も肋骨弓より起始している。上記より、横隔膜の張力を効果的に発揮させるためには、腸骨筋と腹横筋における腹部の固定性が重要になると推察した。そこで、腸骨筋と腹横筋の連結に着目し、腸骨筋へのアプローチを行うことで呼吸機能への影響の有無を検討した。【解剖所見】腹直筋は起始、停止とも遊離、外腹斜筋、内腹斜筋も遊離し外方に翻してあった。腹横筋は、肋骨弓部を起始より遊離し、停止部は腹直筋鞘の正中部で左右に翻してあった。腹部内臓は摘出し、体壁筋のみが存在した状態で観察を行った。また、骨盤腔においても恥骨を除去し、ある程度骨盤壁を左右に翻せる状態であった。その状態で、腹横筋の起始部と腸骨筋の起始部を観察した。通常腸骨筋は腸骨窩とされているが、観察した遺体では、すべて腹横筋の腸骨稜内唇の起始部と同じ所より起始していた。腹横筋との連結は筋線維の連結はなく、筋膜および骨膜を介して行われていた。【対象】理学療法学科1年から3年までの健常学生17名(男性15名、女性2名、平均年齢23.1歳)を被検者とした。【方法】呼吸機能計測はMICROSPIRO HI-701(日本光電)を用い、腸骨筋へのアプローチの前後で計測した。計測項目は肺活量(VC)、呼気予備量(ERV)、吸気予備量(IRV)、努力肺活量(FVC)とした。腸骨筋へのアプローチは、端坐位を取り両上肢にて坐面を押さえることで上体を固定した姿勢にて、股関節の屈曲運動を行わせた。また、腹部内臓の影響を避けるため測定は全例、昼食より4時間空けて行った。上記の測定データをWilcoxonの符号付順位検定を用い、有意水準を5%として解析を行った。また、解析ソフトはStatViewを用いた。【結果および考察】VC値においてアプローチ前(4.69±0.16L)とアプローチ後(4.78±0.17L)で有意な増加が見られた(P<0.05)。VCの増加は17名中12名に認めた。その他の項目について有意差は認めなかった。遺体の解剖所見に基づき今回腸骨筋にアプローチを行い、呼吸機能の測定を行いVC値に変化が見られた。この結果より腸骨筋と腹横筋の関係が腹部体壁の固定性を高め、横隔膜の張力を高める可能性が示唆された。このことより、腸骨筋へのアプローチが呼吸機能へ影響すると考えられる。
著者
米ヶ田 宜久 高濱 照 壇 順司 国中 優治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI2248, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】前腕の回内の可動域測定は、近位橈尺関節と遠位橈尺関節に加え手関節の可動性を含めた角度にて測定している。また、高齢者に多発する橈骨遠位端骨折後に問題となる前腕の可動域制限を考える上で、日常生活上、最もよく使用される回内の可動域を正確に測定することが重要であり、可動域を改善するためには、橈骨と尺骨での純粋な回内運動とその制限因子を把握する必要がある。今回、前腕の軸回旋のみの可動性を”真の回内”と位置づけ、通常の可動域と区別し可動域測定の指標となる角度を算出した。さらに回内の動きを制動する要因について、遺体解剖の所見により検討した。【方法】対象は健常人55名(男性30名、女性25名、年齢21.13±2.84歳)、110肢とした。回内の可動域測定方法は、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会の測定方法に基づき、上肢下垂位から肘関節を90°屈曲し、基本軸を上腕骨、移動軸を手指伸展した手掌面にて測定した。また、可動域の制動となる要因を、熊本大学医学部形態構築学分野の遺体、左右14肢を用い測定・観察を行った。まず健常人での回内可動域を測定し、次に回内を制動する可能性の高い回外筋に着目し、切断前後の可動域の差を測定した。測定方法は健常人と同じ方法を用いた。尚、手関節の可動性はほとんどなかった。また関節包・靭帯のみを残した標本を作成し制動要素を観察した。さらに橈骨粗面が尺骨に衝突し制動要因となるかを観察した。その後、健常人の真の回内を測定した。方法は、上肢下垂位から肘関節を90°屈曲し、基本軸を上腕骨、移動軸を尺骨頭背側面の最も高い部位とリスター結節背側面の最も高い部を結ぶ線にて測定した。検定には全てt検定を用いた。【説明と同意】対象者には本研究の参加に際し、事前に研究の内容を説明し、同意を得た上で実施した。また、生前に白菊会にて同意を得ている遺体を用いた。【結果】回内の可動域は108.72±16.17°、男性106.53±17.44、女性111.36±14.22°であり性別間に有意差はなかった。次に遺体解剖の所見から、回外筋を残した状態での回内角度は45.57±8.84°であり、切断後は56.42±9.35°となり、回外筋切断後の可動域に有意な差を認めた(P<0.01)。また、靭帯・関節包の制動要因については、外側側副靭帯・輪状靭帯の緊張が高くなることが観察された。骨は14肢とも橈骨粗面は尺骨と衝突しなかった。これは解剖用のメスを橈骨粗面と尺骨の間に挟み、最大回内させても容易にメスを抜き出すことができた事から骨の衝突はないといえる。その後、健常人の真の回内を測定した。可動域は86.09±16.52°であり、回内との可動域に有意な差が認められた(P<0.01)。また、性別比較では男性87.33±15.52°、女性84.60±17.69°であり、回内と比較し有意な差が認められた(P<0.01)。性別間に有意な差はなかった。【考察】回内角度は健常人108°、遺体45°であること、遺体による回外筋の切断前後の可動域の差を約11°認めたことから制動の大きさを示している。しかし、健常可動域にはまだ不十分である。そこで、他の要因として、近位橈尺関節周囲の軟部組織と橈骨と尺骨の衝突、手関節の可動性が考えられる。靭帯・関節包の観察により外側側副靭帯、並びに輪状靭帯の緊張により回内制動されることが確認された。また、橈骨と尺骨の衝突は、回内位で生じないことが確認できた。これは橈骨の生理的湾曲と橈骨頭が楕円形であることで衝突を回避し、より大きな可動域を確保しているものと考えられる。しかし、そのまま回内への可動を許すと近位橈尺関節は脱臼するため、これらを制動する要因として橈骨頭の軸回旋を安定化させる、外側側副靭帯と輪状靭帯が緊張することが、回内制動に最も適していると考えることができる。また外側側副靭帯は橈骨頭の上端より上の部分から、内下方に走行していることも制動に適しているのではないかと考えられる。また、健常人の真の回内は約86°であり、回内と比較すると22°の角度を手関節が担っている。遺体で回外筋切断後も約56°であったこと、健常人での回内と真の回内の角度に約22°の差を認めることから手関節部も大きな制動要因になる可能性が高いと考えられる。これらのことから回外筋・外側側副靭帯と輪状靭帯の変性、手関節の柔軟性が真の回内の可動性を制限する要因になると考えられる。【理学療法学研究としての意義】回内の可動性の測定において、真の回内と回内に分類して考えることで、可動性の異常に対する原因を切り分け、治療対象を明確化でき、回内の測定はこれら2種類の可動域に着目する必要があると言える。また、回外筋・側副靭帯・輪状靭帯・手関節の変性は回内制動の原因となることが示唆された。