著者
中務 真人 平崎 鋭矢 荻原 直道 濱田 穣
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

常的な二足性はヒトのみに見られる行動様式であり他に二足性の霊長類はいない。そのため、二足適応の進化に関する比較資料が不足している。これを補うため、飛び抜けた二足運動能力を示す猿まわしの調教ニホンザルについて、形態学、生理学、運動学的調査を行った。二足、及び四足歩行のエネルギー代謝は10才と4才の二頭のニホンザルを対象に行った。体重・時間あたりの二酸化炭素発生量をエネルギー消費の換算値として計測した。歩行速度は1.5から4.5km毎時の範囲で0.5km刻みで計測した。二足でも四足でも、エネルギー消費量はほぼ歩行速度に比例して単調増加した。二足歩行のエネルギー消費は四足歩行時に比べ、10才の個体では、約30%の増加、4才の個体では20-25%高い値を示した。歩行速度にかかわらず、この比は小さい変化しか示さなかった。これまでチンパンジー、オマキザルでの実験に基づいて、二足と四足の歩行エネルギー消費は変わらないとされてきたが、この結果は、それに再考を求めるものである。通常、エネルギー消費の目安として酸素消費が用いられるが、平均的な呼吸商を用いて四足歩行時の酸素消費量を推定するとこれまで報告されている数字に近い値が得られ、われわれの研究方法の妥当性が証明された。歩行ビデオ解析では、調教を受けたニホンザルは通常の実験用サルに比べ、長いストライドと少ない歩行周期を示すことが明らかにされた。このことは関節の最大伸展角が大きなことと関連しており、とりわけ膝関節においてはヒト歩行におけるダブル・ニー・アクションに似た現象が観察された。そのため、通常のサルでは両脚支持期にしか起こらない体幹の上方移動が単脚支持期において認められた。また、頭部、体幹の動揺は通常のニホンザルに比べ有意に小さい。これらの結果は、調教ニホンザルの二足歩行の効率が優れていることを示唆する。