著者
荻原 直道
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.193-199, 2014 (Released:2016-04-16)
参考文献数
35

生得的に四足性である霊長類の二足歩行運動を分析し,そこからヒトの二足歩行運動の力学的特徴を対比的に明らかにすることは,ヒトの直立二足歩行の起源と進化を考える上で多くの重要な示唆を提供する.本稿では,我々が進めてきたニホンザル二足歩行の比較運動学・動力学的分析から明らかになってきた,ニホンザルとヒトの二足歩行メカニズムの違いについて概説する.また,どのような筋骨格系の構造改変がヒトの直立二足歩行の進化に重要であったのかを構成論的に検証するために,ニホンザル筋骨格モデルに基づく二足歩行シミュレーション研究も進めている.本稿ではこれらニホンザル二足歩行研究から,ヒトの直立二足歩行の進化に迫る試みについて紹介する.
著者
荻原 直道 工内 毅郎 中務 真人
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.35-44, 2006 (Released:2017-02-15)
参考文献数
30

ヒトの精密把握能力の形態的基盤の進化を明らかにするためには, ヒトと最も近縁なチンパンジー手部構造の形態と機能の関係を理解することが不可欠である. このためCT および屍体解剖により取得した形態学的情報を元に, チンパンジーの手部筋骨格系の数理モデルを構築した. 本モデルを用いてチンパンジーの形態に規定される精密把握能力を生体力学的に推定し, ヒトの手と比較した結果, 特に第1背側骨間筋の付着位置の違いが, ヒトに特徴的な優れた把握能力に大きく寄与していることが示唆された.
著者
荻原 直道 工内 毅郎 中務 真人
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム
巻号頁・発行日
no.18, pp.35-44, 2006-09-15
被引用文献数
1

ヒトの精密把握能力の形態的基盤の進化を明らかにするためには,ヒトと最も近縁なチンパンジー手部構造の形態と機能の関係を理解することが不可欠である.このためCTおよび屍体解剖により取得した形態学的情報を元に,チンパンジーの手部筋骨格系の数理モデルを構築した.本モデルを用いてチンパンジーの形態に規定される精密把握能力を生体力学的に推定し,ヒトの手と比較した結果,特に第1背側骨間筋の付着位置の違いが,ヒトに特徴的な優れた把握能力に大きく寄与していることが示唆された.
著者
荻原 直道
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.99-113, 2008 (Released:2008-12-27)
参考文献数
97

アウストラロピテクス・アファレンシスの化石骨格(Lucy)とラエトリで発見されたその足跡化石は,初期人類が二足歩行をしていたことを示す最も直接的な証拠である。これら形態情報を生体力学的に分析し,その二足歩行を復元する試みが近年進んでいる。本稿では,こうした生体力学的方法論,特にA・アファレンシスの力学的相似則に基づく歩行速度推定と,筋骨格モデルを用いた歩行復元シミュレーションについて,その現状と課題を解説する。
著者
伊藤 幸太 藤原 育海 細田 耕 名倉 武雄 荻原 直道
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.31-41, 2016

<p>二足歩行中のヒト足部変形を3次元的かつ包括的に計測することは, 靴など製品の人間工学設計や, 整形外科における外反母趾の診断等において重要である. 本研究では, 計測物表面の変位・ひずみ分布やその方向を非接触で計測する手法として近年注目されているデジタル画像相関法を用いて, 二足歩行中の詳細なヒト足部の3次元変形動態の計測を行った. 成人男性5名に自由選択速度で歩行を行わせた際の右足部内外側面を計4台のハイスピードカメラを用いて撮影した. 足部表面には水性黒スプレーを用いてランダムな斑模様を塗付し, 模様の時空間的変化から立脚期中の足部の3次元形状変化と皮膚表面のひずみ変化を算出した. その結果, 立脚期前期および後期に立方骨付近の皮膚で特徴的な内外側方向の伸長がみられた. また, 踵離地後に後足部外側が伸長, 内側が収縮することが明らかとなった. 本手法の計測誤差をアルミ平板の形状計測により評価したところ, 約0.1mm以下であり, 歩行中に起きる足部変形量と比較しても十分小さいことを確認した. 本手法により得られる二足歩行中の足部の定量的な変形情報は, 人間工学や整形外科学分野において重要な知見になりうると考えられる.</p>
著者
中務 真人 平崎 鋭矢 荻原 直道 濱田 穣
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

常的な二足性はヒトのみに見られる行動様式であり他に二足性の霊長類はいない。そのため、二足適応の進化に関する比較資料が不足している。これを補うため、飛び抜けた二足運動能力を示す猿まわしの調教ニホンザルについて、形態学、生理学、運動学的調査を行った。二足、及び四足歩行のエネルギー代謝は10才と4才の二頭のニホンザルを対象に行った。体重・時間あたりの二酸化炭素発生量をエネルギー消費の換算値として計測した。歩行速度は1.5から4.5km毎時の範囲で0.5km刻みで計測した。二足でも四足でも、エネルギー消費量はほぼ歩行速度に比例して単調増加した。二足歩行のエネルギー消費は四足歩行時に比べ、10才の個体では、約30%の増加、4才の個体では20-25%高い値を示した。歩行速度にかかわらず、この比は小さい変化しか示さなかった。これまでチンパンジー、オマキザルでの実験に基づいて、二足と四足の歩行エネルギー消費は変わらないとされてきたが、この結果は、それに再考を求めるものである。通常、エネルギー消費の目安として酸素消費が用いられるが、平均的な呼吸商を用いて四足歩行時の酸素消費量を推定するとこれまで報告されている数字に近い値が得られ、われわれの研究方法の妥当性が証明された。歩行ビデオ解析では、調教を受けたニホンザルは通常の実験用サルに比べ、長いストライドと少ない歩行周期を示すことが明らかにされた。このことは関節の最大伸展角が大きなことと関連しており、とりわけ膝関節においてはヒト歩行におけるダブル・ニー・アクションに似た現象が観察された。そのため、通常のサルでは両脚支持期にしか起こらない体幹の上方移動が単脚支持期において認められた。また、頭部、体幹の動揺は通常のニホンザルに比べ有意に小さい。これらの結果は、調教ニホンザルの二足歩行の効率が優れていることを示唆する。
著者
荻原 直道
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.83-88, 2019 (Released:2020-05-01)
参考文献数
40

歩行運動は,脚が地面から受ける反力を適切に作用させることによって,身体をある位置から別の位置に移動させる力学現象である.したがって,地面と直接的に接触し,環境と力のやりとりを行う足部筋骨格構造は,ヒトに特有の移動様式である直立二足歩行と密接に関係し,その生成に適応的に形づくられている.本稿では,直立二足歩行の生成に適応的と考えられているヒトの足部筋骨格構造の特徴について,生物学的に最も近縁なチンパンジーの足部との比較を通して概説する.また,近年の化石証拠から明らかになってきた,ヒトの足部構造の形態進化のプロセスについて紹介する.
著者
細田 耕 荻原 直道 今西 宣晶 名倉 武雄 清水 正宏 池本 周平 菅本 一臣 成岡 健一 MACEDO ROSENDO Andre Luis 伊藤 幸太
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究課題では,脳やせき髄からの投射がない場合の,歩行状態における人間の足部の機械的特性を計測するために,歩行状態を再現するための歩行シミュレータを作成し,これに屍体の足部を取り付け,二方向エックス線透視撮影装置の中で歩行させることによって,足部内部の骨の動きを観察するためのプラットフォームを開発した.これに関連して,歩行状態を再現するための歩行シミュレータの制御や,透過画像から各骨の三次元運動を精密に再構成するための画像処理技術などを開発した.足部に存在する機械的特性のうち,中足骨関節に着目し,同等の機能の足部をもつ二足歩行ロボットを開発,実験によって中足骨関節の歩行安定性への寄与を調べた.
著者
石田 英實 伊丹 君和 荻原 直道 中務 真人 栗田 祐 久留島 美紀子 山崎 信寿 堤 定美 国松 豊
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

損傷、変形を受けた形態の復元は、人類学や考古学などで非常に重要である。しかし、その作業の主体はマニュアルであり、精度の高い修復には多くの時間と長い作業経験が不可欠であった。そのため本研究では計算機内に3次元構築した変形化石を,形態情報に基づいて客観的に修復.復元するシステムを開発した。特に本研究では、頭蓋骨など左右対称の骨について変形形態の復元手法を開発した。左右対称な骨では,正中矢状面内の特徴点は空間の同一平面上に、その他の左右で対になる特徴点は2点を結ぶ線分が正中矢状面と中点で垂直に交わる位置に、必ず存在する。しかし、土圧などにより化石が変形するとそのような幾何学的関係が失われる。このことに着目して客観的な変形復元を行う方法を考案した。具体的には、化石の3次元表面形状データと解剖学的特徴点の座標を取り込み、特徴点の位置を上述の幾何学的制約を満たすように移動させた。そして元座標から修正座標への非線形写像を薄板スプライン関数によって記述し、それを用いて化石の表面形状全体を変換することにより変形の除去を行った。本手法を応用して、中新世化石類人猿プロコンスルの変形頭蓋骨化石の復元を試み,光造形装置により立体モデルとして実空間に取り出した。化石化の過程で形態が受ける変形は,直方体が平行六面体になるような一種な変換ではなく、部位により歪みの大きさや方向が異なる非線形変換である。しかし、本手法によれば、そのような変形を受けている化石でも、その歪みを除去することができ、本手法の有効性を確認した。このように、CT等から得られるデジタル形状情報から仮想空間内で化石や骨の3次元構築を行い、それを計算機により数理的に復元して立体形状を作成するシステムは、生物の形態分析に必要不可欠な技術であり、当該分野の今後の発展に貢献するものとなる。
著者
巻島 美幸 荻原 直道
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.11-21, 2009 (Released:2009-06-20)
参考文献数
31
被引用文献数
2 3

津雲,吉胡貝塚出土の縄文時代人計19個体と現代日本人計22個体の頭蓋骨の形態変異を,3次元幾何学的形態測定学に基づいて分析し,従来の頭蓋計測値に基づく多変量解析の結果を再現するか,また今まで報告されていない新たな形態変異を検出するか検証を試みた。まず,CTスキャナを用いて頭蓋骨の精密3次元立体形状モデルを構築し,計35点の解剖学的標識点の3次元座標を取得した。そして縄文時代人と現代日本人の頭蓋形状の変異傾向を,幾何学的測定形態学に基づいて分析した。分析は,35標識点すべてを用いるが縄文時代人の個体数が少ない分析Iと,個体数は多いが遺存の悪い部位を除いた計23標識点のみを用いる分析IIに分けて行った。その結果,現代日本人は,津雲貝塚人と比較して相対的に上顔高と鼻高が高く,脳頭蓋幅と頬骨弓幅が狭く,口蓋と頭蓋底が下方に位置し,顔面が立体的で歯槽性突顎の傾向があることが示され,幾何学的形態測定学に基づく分析結果は,従来手法に基づく先行研究の結果と基本的には一致することが明らかとなった。また,現代日本人の頭蓋骨では,津雲貝塚人と比較してラムダが相対的に前方にイニオンが後方に位置し,後頭鱗が相対的により垂直になる傾向があることが新たに検出された。幾何学的形態測定学に基づく古人骨の分析は,破損・欠損のため解析に含められる標本が必然的に限られてしまう問題があるが,形態の変異傾向を統計学的に抽出し,また視覚的に表示する上で有効であることが確認された。