著者
平松 一彦
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.407-408, 2022-09-15 (Released:2022-09-29)
参考文献数
6
被引用文献数
1

加入変動を考慮した資源動態シミュレーションにおいて,バイアス補正項を考慮した対数正規分布が使われることが多い。しかし,加入尾数の変動が過程誤差であれば,バイアス補正により本来の加入尾数の変動と同じ分布は再現できない。一方,観測誤差による見かけ上の変動であれば変動させる必要がない。最大持続生産量(MSY)の推定において,バイアス補正は行わず実際の変動のみでシミュレーションを実施し,バイアス補正ありの結果と比較した。バイアス補正を行う現在の推定方法では,MSY等を過小または過大評価する可能性がある。
著者
黒田 啓行 庄野 宏 伊藤 智幸 高橋 紀夫 平松 一彦 辻 祥子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.209, 2005

実は多くの漁業は漁獲量の制限などにより管理されている。漁獲許容量(TAC)は、現在の資源量(魚の量)などから算出されるのが通例である。しかし現実には、データや知見の不足により、資源量などの推定は難しく、さらに将来の環境変動などを予測することも容易でない。このような「不確実性」は、科学の問題だけでなく、合意形成をはかる上でも大きな障害となる。<br> ミナミマグロは南半球高緯度に広く分布する回遊魚で、商品価値は非常に高い。日本、オーストラリアなどの漁業国が加盟するミナミマグロ保存委員会(CCSBT)により管理されている。しかし、近年の資源状態については、各国が主張する仮説によって見解が異なり、TACに正式合意できない状況が続いていた。<br> この状況を打開するために、CCSBTは2002年より「管理方策」の開発に着手した。管理方策とは、「利用可能なデータからTACを決めるための"事前に定められた"ルール」のことで、環境変動や資源に関する仮説が複数あっても、それら全てに対し、うまく管理できるものが理想的である。そのため、様々な仮説のもとでのテストが事前に必要であるが、実際に海に出て実験することは不可能に近い。そこで、コンピューター上に資源動態を再現し、その「仮想現実モデル」のもとで、複数の管理方策を試し、より頑健なものを選び出すという作業が行われた。このような管理方策の開発は、国際捕鯨委員会(IWC)を除けば、国際漁業管理機関としては世界初の画期的な試みである。実際にCCSBTで管理方策の開発に当たっている者として、開発手順を概説し、問題点及びその解決方法について紹介したい。不確実性を考慮した管理方策の開発は、持続可能な資源の利用を可能にし、魚と漁業に明るい未来をもたらすものと考えている。
著者
平松 一彦 寺内 一美
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.288-294, 2020-07-15 (Released:2020-08-05)
参考文献数
23
被引用文献数
2

マサバ対馬暖流系群のVPAによる資源評価では,毎年資源量推定値が下方修正されるレトロスペクティブパターンが存在した。このVPAでは年齢別漁獲尾数と資源量指標値がデータとして用いられ,自然死亡係数一定,漁具能率一定等が仮定されている。パターンが生じる原因を探るため,VPAで使用されるデータや仮定を変更してレトロスペクティブ解析を行いパターンの変化を見た。結果は,資源量指標値を用いない場合及び漁具能率の年変化を仮定した場合パターンがほぼ無くなり,漁具能率一定の仮定が原因となっている可能性が示された。