著者
広田 亨
出版者
(財)癌研究会
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

動原体は、細胞分裂期に染色体に形成される構造物で、正確な染色体分配監視機構の、いわば最終検問である「紡錘体形成チェックポイント」の起点として中心的な役割を担っている。本研究では、がん細胞の特徴の一つである「染色体不安定性」の病態を明らかにするために、生細胞の顕微鏡的解析によって本チェックポイントの定量化を目的とし、がん細胞におけるチェックポイントの脆弱性と染色体不安定性との関連性を検討することに繋げることを目標としている。動原体が紡錘体により牽引されたことをどのようにして感知するのか、古くよりそのセンサーの存在が目されているものの、その本体は全く分かっていない。われわれは、この命題にアプローチすべく、動原体にかかる力によって動原体の形の変化をモニターすることから開始した。即ち、動原体の内側よりに存在するCENP-Aとそれより外側に局在するMis12を、それぞれ緑色、赤色蛍光で標識した、"張力センサー細胞"なる細胞を作成した。この細胞を観察した結果、動原体中のCENP-AとMis12の蛍光は極めてダイナミックに別れたり重なったりすることが観察され、動原体は弾力性を有する構造体であり、中期の間、伸張をくりかえしていることが判明した.われわれは、染色体構築因子コンデンシンIのノックダウン細胞では、後期開始が遅延することを報告したが(Hirota, et. Al.,2004)、この細胞を調べると、動原体の伸張頻度が著しく低下していることが分かった。コンデンシンIのノックダウンによるセントロメアの脆弱化が、動原体にかかる張力の発生を妨げてために、紡錘体チェックポイントが稼働していると考えられた。これらの観察結果は、張力を検出するセンサーは動原体の中に存在していることを示唆しており、現在、チェックポイント機能との関連性を調べている(Uchida et a1.,未発表)。
著者
白髭 克彦 広田 亨 須谷 尚史 伊藤 武彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

出芽酵母、分裂酵母を用いた解析により、基本的な染色体情報解析システムのパイプラインは構築され、染色体の基本的な構造、染色体機能の制御、そしてその連携機構についていくつもの新しい発見があった。特に、本研究が契機となりひと染色体構造の解析技術を構築できた意義は大きい。興味深い発見につながったものとして、1)ヒトに於いて、ChIP-chip解析が可能となったこと、および、2)ヒトコヒーシンのChIP-chip解析から明らかとなったコヒーシンの転写に於ける機能の発見、があげられる。当初、本研究を開始した時点では、ヒト染色体でChIP-chip解析を行うことは、ゲノムの5割を超える繰り返し配列がPCRで増幅する際のバイアスとなるため不可能であった。そこで、この増幅法の検討を重ね、DNAをin vitro transcriptionにより、RNAとして直線的に増幅し、リピート配列によるバイアスを抑制することで、ヒト染色体構造もChIP-chip解析可能な系を構築することが出来た。さらに、この技術を用いて、コヒーシンについて、効率の良い染色体免疫沈降が可能な抗体を取得し、ヒト染色体上における局在解析を行った。その結果、染色体分配に必須の役割を持つコヒーシンがヒトではその機能とは独立にインシュレーターとして転写制御に機能していることが明らかとなった。