著者
庄田 宏文 藤尾 圭志 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.46-50, 2012 (Released:2012-02-28)
参考文献数
15

Immunoglobulin Binding Protein (BiP)は熱ショック蛋白(HSP)70ファミリーに属するタンパク質で,生理的にはストレス応答蛋白として滑面小胞体に発現し,蛋白のfoldingを行うシャペロン蛋白である.BiPに対する自己免疫応答の報告は,関節リウマチ,全身性エリテマトーデスなどでみられ,主に血清抗BiP抗体が上昇するとの報告がある.我々のグループからは,新たにシトルリン化BiPに対する自己抗体が関節リウマチで出現することを報告した.抗シトルリン化蛋白抗体は関節リウマチの発症機序に密接な関与が推定されており,BiPに対する自己免疫応答の重要性が示唆される.また関節リウマチにおいては,BiPを認識するT細胞の報告もある.一方でBiPそのものには制御性活性があることが知られている.マウスモデルにおいてはBiPを認識するT細胞がIL-4, IL-10を産生し関節炎を抑制することや,BiPで刺激された樹状細胞は制御性活性を持つことが知られている.このようにBiPに対する免疫系の応答は多様であり,そのバランスが崩れることで自己免疫寛容が破綻することが,自己免疫疾患発症に繋がりうると考えられている.
著者
瀬理 祐 庄田 宏文 松本 功 住田 孝之 藤尾 圭志 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.154-159, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
39
被引用文献数
2

関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)は全身の慢性,破壊性の多関節炎を主症状とする代表的な自己免疫疾患である.病態形成において様々な遺伝,環境因子の関与が示唆されているが,依然として詳細な機序は不明である.最近,RAの疾患感受性遺伝子として約100種類が報告されたが,Peptidylarginine deiminase type4(PADI4)はRAのgenome-wide association studyによってnon-MHC遺伝子のRA感受性遺伝子として本邦より初めて報告され,様々な疾患の遺伝学的解析と併せてRAとの特異的な関連が示唆されている.現在,PADI4はアジア人や欧米人の一部でもRAとの関連が示され,アジア人ではanti citrullinated peptide antibody(ACPA)の有無に関わらず骨破壊の危険因子となることも報告された.PADI4遺伝子はシトルリン化による翻訳後修飾能を有するPAD4蛋白をコードする.PADI4は骨髄球,顆粒球といった血球系細胞で特異的に発現している.PADI4のRA感受性ハプロタイプではmRNAの安定性が増すことでPAD4蛋白が増加することが示唆されている.従来,RAにおけるACPAの特異性から,PAD4蛋白の増加に伴うシトルリン化蛋白の過剰産生とACPAの誘導といった仮説が注目されてきた.しかし,PADI4は核内移行シグナルを有することで様々な遺伝子発現の制御やneutrophil extracellular trapsの形成に関与し,RAの病態形成において多彩な役割を担う可能性が示唆される.本項ではPADI4の機能とRAにおける役割のまとめ,考察を行う.