著者
阿部 俊夫 坂本 知己 田中 浩 延廣 竜彦 壁谷 直記 萩野 裕章
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.147-156, 2006-01-30 (Released:2009-01-19)
参考文献数
27
被引用文献数
7 4

河川への落葉供給源として必要な河畔林幅を明らかにするために,森林内の落葉散布パターンを実測し,さらに,風速変動を考慮した簡単な物理モデルを用いて落葉散布の推定が可能かを検討した.落葉広葉樹林において,谷の両側斜面に単木的に分布するクリの木(両側各1本)を対象として,落葉散布を実測したところ,斜面から谷への方向では,落葉の散布距離は,最大で約25mであり,ほとんどの落葉は15m以内に落下することが分かった.モデルによる落葉散布推定の結果,一方のクリでは,樹冠近傍を除き,モデル推定値と実測値がよく一致した.累積落葉密度は,モデル,実測とも,距離15mで約90%に達した.もう一方のクリでは,モデルによる散布距離の推定値はやや過大となった.モデル推定値と実測値の比較の結果,林内風速が正確に測定できれば,本研究で提案したモデルを用いて落葉散布パターンを推定できる可能性が示唆された.しかし,林内では,樹木や地形の影響で局所的に風の吹き方が異なり,これがモデルの推定精度を下げる要因になっていると思われる.一方のクリで,モデルと実測が一致しなかったのも,この風速の不均質性が原因と推察された.ただし,大まかな落葉散布範囲は,河畔域の代表的な地点で風を観測することにより十分推定可能と思われる.また,本モデルは,その性質上,樹冠近傍の落葉密度を過小評価してしまう.しかし,落葉の累積%が80~90%に達する距離は,モデル,実測ともほぼ同じであり,落葉供給範囲を推定するという目的を考えれば,この違いは大きな問題ではないといえる.以上から,本モデルは,現時点での検証が不十分であるものの,今後,河川への落葉供給源の推定に有効なツールになりうると思われる.
著者
延廣 竜彦 佐々木 尚三
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>上川地方南部の南富良野町に位置する人工林流域において、グラップルとレーキブレードを組み合わせた林業用機械を用いた地がき処理を2015年7月に行った。地がきは筋状にササ類の根系と表層土壌を剥ぎ取った(地がき帯)。剥ぎ取った土壌は地がき筋間(残し帯)にまとめ置いた。このような地がき斜面上に土砂受け箱を設置し、2015年8月から土砂発生量の観測を行った。同時に、流域末端の簡易堰堤において流量・土砂濃度を観測し、土砂流出量を求めた。土砂発生量は地がき帯、残し帯ともに地がき後2~3年で森林土壌と同程度まで低下した。これは地がき後に植生が回復し、同時に土壌表面が落葉等で覆われることによって土壌の浸食速度が大きく低下したためと考えられた。2015年の地がき直後には流量増加時に土砂濃度が大きく上昇するケースが認められたが、渓床が大きく浸食された2016年の台風時を除けば流量の増加に対する土砂濃度のピーク値は低下傾向にあり、結果として土砂流出量も大きく低下した。以上より、地がき後の土砂発生量・土砂流出量の低下傾向は植生回復の程度に影響を受けると考えられた。</p>
著者
延廣 竜彦 佐々木 尚三
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>北海道内で最も植栽面積が大きいトドマツは主伐対象となる面積が今後拡大することが予想されており、増大する更新コストを低減することが求められている。本研究で対象とした車両系林業機械を用いて地がき作業を行う手法は更新初期コストを低減する面で有望であると考えられている一方、地がきを行うことによる表層土壌のかく乱やそれに伴う土砂移動、ならびに渓流を通じた下流域への土砂輸送などが懸念されている。しかしながら、このような大規模な地がき施工サイトにおける調査事例は少なく、地がきと土砂発生・土砂流出の関係については不明な点が多い。このため、北海道の上川南部地域のトドマツ人工林において、2015年にグラップルと特注のレーキブレードを組み合わせた林業用機械を用いて地がき作業を行い、地がき斜面からの土砂発生量および渓流からの土砂流出量について調査を行なった結果を報告する。</p>