著者
張 瑋容
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.73-94, 2019 (Released:2019-10-21)
参考文献数
27

本論文は1990 年代哈日現象の影響を引き継ぎ、日本の物事への好意的な受容が一般化しつつある現代台湾の文脈の下で、日本のメディアコンテンツの受容から、台湾人視聴者と〈日本〉との関係性を解くことを試みる。具体的には、インターネット掲示板「PTT」の中の日本テレビトラマ掲示板で起きたドラマ「おっさんずラブ」の人気現象に注目し、そこに掲載される「おっさんずラブ」の関連投稿の考察を通じて、ドラマをめぐる言説に投影される台湾人視聴者の「〈日本〉への眼差し」の解析を、本論文の目的とする。 まずは「〈日本〉への眼差し」を軸に先行研究を整理した結果を、「〈日本〉をめぐるファンタジー」という重層的で変動的な諸世代の〈日本〉への集合的想像によって持続的に形成されつつある動態的な枠組みで概念化した。この概念に基づき、「おっさんずラブ」の関連投稿の言説分析を通して、台湾人視聴者の「おっさんずラブ」への眼差しの向こう側に 映っている「〈日本〉をめぐるファンタジー」の重層的で変動的な構造を解析できた。言説の集中と反復、修正と転向により構築・増強されながらも、常にゆらぎとズレを伴うこの不安定な構造は、以下の三次元を行き渡って構造化されていくものである。それは①男性同士のホモセクシュアリティをめぐるユートピアと、②ドラマの構造に向ける良質ドラマ の理想像への期待といった、ドラマの「内部」に向ける視聴者の眼差しから解析された次元、及び③〈日本〉を重要な他者と位置づける集合的想像というドラマを抽象化する「外部」の議論から解析された次元を行き渡って構造化されていくものである。台湾人視聴者の重層的な〈日本〉への眼差しにより照らし出されたこの言説空間のゆらぎ、不安定性、自己増強・回復の性質は、「〈日本〉をめぐるファンタジー」という構造を前面化させてくれるのである。
著者
張 瑋容
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報
巻号頁・発行日
no.24, pp.113-130, 2021-07-31

従来のBL(ボーイズラブ)研究において、男同士の親密関係をめぐる腐女子の欲望や、ジェンダー規範の解放などが議論されてきた。BLの実写映画やドラマの増加により、腐女子の界隈を超えてより多くの人々に触れられるようになりつつある今日、BLが異性愛中心主義のジェンダー構造にもたらす攪乱をより包括的に分析する論点が必要になる。本稿はラカン批評を中心とするフェミニズムの議論を基に、「男」「同士」の「関係性」をめぐるファンタジーを構造化する理論構築を目的とする。まずは、象徴界、想像界、現実界といったラカンの概念を用いて、BLファンタジーの構造化を試みた。次に、BL ファンタジーを表す「攻め×受け」の造形に着目し、BL と異性愛中心主義とのパロディー的な対峙関係を論じた。最後に、本稿の議論を「BL ファンタジーの存在論」で締め括り、そこから異性愛中心主義の強固さと滑稽さを追究する姿勢を示すことで、BL研究を新たな次元に導くルートの開拓を試みた。