著者
田中 信行 宮田 昌明 下堂薗 恵 出口 晃 國生 満 早坂 信哉 後藤 康彰
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.263-272, 2011 (Released:2013-10-18)
参考文献数
22

研究の目的:同レベルの心拍上昇作用を示す 41°C、10分入浴と200m/1.2分走行の、心血管機能、血液ガス、代謝、末梢血組成への効果を比較、検討した。対象と方法:被験者は健康男子13名(28.7 ±3.6才)である。入浴、走行研究の前に30分安静させ、血圧、脈拍、舌下温、皮膚血流を測り、正中静脈に採血用の留置針を挿入した。その後、予備実験で約30拍の心拍増加を惹起した41°C、10分の入浴と200m/1.2 分(時速10km)の走行を別々に実施し、測定と採血を負荷直後と15分後に行った。結果と考察:入浴、走行直後の心拍増加は夫々27∼25拍と同レベルだった。走行後の収縮期血圧の上昇は入浴後よりも大きく、入浴後の拡張期圧は安静時より低下した。舌下温と皮膚血流は入浴でのみ増加し、温熱性血管拡張が示唆された。 入浴後、静脈血pO2は有意に上昇し、pCO2は有意に低下したが、乳酸、ピルビン酸レベルの変化はなかった。200m走では逆にpO2は低下し、pCO2は増加し、乳酸、ピルビン酸、P/L比は有意に上昇した。これらの結果は、入浴では代謝亢進はなく、血流増加に基づく組織の著明な酸素化とCO2の排出があり、そして走行では筋肉の解糖系の促進と TCA サイクルにおける酸化の遅れを意味している。 入浴、走行による白血球増加は短時間で消失することから、これらの変化は白血球の多い壁在血流と血漿の多い中心血流の混合で説明可能と思われた。入浴や運動後のリンパ球サブセットの変化に関する従来の報告も、この観点からも検討すべきであろう。赤血球や血清蛋白の変化から算出した血液濃縮の関与は、入浴で2%、走行で4%と、比較的少なかった。結論:入浴による健康増進は、代謝亢進なしに温熱性血管拡張による十分なO2供給とCO2排出が起こることで惹起される。運動による健康増進は強力な心血管系と筋の代謝の賦活により生ずる。この受動的効果の入浴と積極的効果の運動を組み合わせが、バランスの取れた健康増進には有益と思われる。
著者
後藤 康彰 早坂 信哉 中村 好一
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.256-267, 2012 (Released:2013-10-23)
参考文献数
32

【背景と目的】日常的な浴槽に浸かる温浴、温泉入浴施設の利用、緑茶の多飲は、日本人に特徴的な生活習慣であるとして着目し、これらの習慣が、日本人の健康に及ぼす効果について検討した。健康指標として、罹患率・死亡率との相関が報告され、疫学的健康評価に広く使われている主観的健康感(SRH)、睡眠の質、主観的ストレスを用いた。【方法】2011 年に静岡県が県民 5,000人を対象に実施した自記式アンケート調査項目のうち、SRH、睡眠の質、ストレスの程度を従属変数に、浴槽浴頻度(週 7 日/週 6 日以下)、温泉施設の訪問頻度(月 1 回以上/月 1 回未満)、緑茶の 1 日あたり飲料(1 日 1 リットル 以上/ 1 リットル未満)と、栄養バランスへの配慮(有/無)、運動習慣(週 1 回以上/週 1 回未満)、睡眠時間(7時間以上未満)、ストレスの程度(高/低)、喫煙(有/無)を独立変数とした logistic 回帰分析を実施した。【結果】調査への回答者は 2,779人(55.6%)であった。毎日の浴槽浴、月 1回以上の温泉施設訪問、緑茶多飲とそれらの組み合わせは、栄養バランスへの配慮、運動習慣、7 時間以上の睡眠、低ストレス同様、良好な SRH と関連した。毎日の浴槽浴は睡眠の質が良い状態(単変量解析でのみ有意)、低ストレス状態とも関連を示した。【考察】毎日の浴槽温浴、温泉入浴施設利用、緑茶多飲は、主観的健康感がよい状態と関連するとの知見が得られた。これらの生活習慣を取り入れることが、栄養バランスへの配慮、運動習慣、適切な睡眠、低ストレス同様、健康に寄与することが示唆された。
著者
後藤 康彰 西尾 真由美 田中 秀宗 芳賀 康平 有泉 健
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
pp.202344G04, (Released:2023-03-30)
参考文献数
34

背景・目的 温泉地で仕事仲間と余暇を楽しみながら働く過ごし方(温泉ワ―ケーション)が、心身にもたらす効果を検討することを目的とした。方法 2020年12月~2022年3月に、インフォームドコンセントを得られた、リモートワーク導入企業等で働く健常成人133名(男性95名、女性38名、平均年齢38.7歳、SD10.8)を対象とした。被験者は企業単位を原則とし、2泊3日温泉地で自由に過ごす群(以下未介入群:104名)、3泊4日温泉地で健康関連アクティビティ(入浴・運動・食事・休養等)提供を受け過ごす群(以下介入群:29名)に分かれ、全国の温泉地(延べ25か所)で温泉ワ―ケーションを実施した。滞在前後に末梢血液循環、自律神経機能、唾液アミラーゼ活性、歩行能力・柔軟性、健康関連自己評価(12項目)、気分・精神の状態(POMS2短縮版)、消化器疾患症状尺度(GSRS)を測定した。結果 介入群・未介入群ともに、唾液アミラーゼ活性、歩行能力・柔軟性、気分・精神の状態(8下位尺度)、健康関連自己評価、消化器症状の有意な改善が認められた。介入群では、末梢血液循環の有意な改善、自律神経(交感神経・副交感神経機能)の有意な賦活も認められた。考察 温泉ワ―ケーションが心身に多様なベネフィットをもたらし、滞在中の健康関連アクティビティがベネフィットを増幅する可能性が示唆された。今後も温泉地を活用した働き方・健康づくりのあり方を検討し、勤労者・企業・温泉地への貢献に取り組みたい。