著者
岩永 成晃 宮田 昌明 早坂 信哉
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.140-150, 2020-10-31 (Released:2021-02-10)
参考文献数
12

平成26年の温泉法の改正によって,温泉入浴の禁忌から妊婦が削除されたが,一般への認知は十分ではない.本邦においては,妊婦の温泉浴の安全性について検証した報告は少なく,日本温泉気候物理医学会として妊婦の温泉浴の安全性について共同研究を行い,その結果を学会から発信するとともに,一般への啓発が必要であると考え,本学会において検討を行った.  妊娠初期から分娩までの期間,温泉地(別府市,指宿市)に居住する妊産婦へ自記式調査票にて以下の調査を行った.1)年齢(妊娠終了時),2)過去の出産回数,3)温泉入浴の状況:妊娠時期(初期・中期・後期)別に日常的な温泉入浴の有無と利用の頻度,内湯温泉や自宅外の温泉施設の利用の有無,4)妊娠中のトラブルの有無:流産(妊娠12週未満の早期流産は除外),早産,切迫早産,妊娠中毒症・妊娠高血圧症(浮腫,高血圧)等について調査した.  回収数は1,721例(回収率86%)であり,平均年齢は30.8歳(17~49歳),初妊婦643例(37.6%),経妊婦1,078例(62.4%)であった.年齢と出産回数は,産科的トラブルとは関連なかった.妊娠の初期と中期において,産科的トラブルは,週1回以上の日常的な温泉入浴者と週1回未満の温泉入浴者の間に有意な差を認めなかった.妊娠後期においては,週1回以上の日常的な温泉入浴者は週1回未満の温泉入浴者に比べ,むしろ産科的トラブルが有意に少なかった(20.3% vs 25.9%,p=0.028).また,里帰り妊婦に絞ってみても,妊娠の初期と中期においては,産科的トラブルの頻度は温泉入浴群と非温泉入浴群の間に有意差を認めなかった.一方,妊娠後期においては,温泉入浴群は非温泉入浴群と比較し,産科的トラブルが有意に少なかった(温泉入浴群13.0% vs 非温泉入浴群24.5%,p=0.028).  日常的に温泉浴をする妊婦において,そうでない妊婦とくらべて,産科的トラブルが増加することはないことが確認できた.温泉の禁忌症から“妊婦”の項目が削除されたことは適正なことであったといえる.
著者
田中 信行 宮田 昌明 下堂薗 恵 出口 晃 國生 満 早坂 信哉 後藤 康彰
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.263-272, 2011 (Released:2013-10-18)
参考文献数
22

研究の目的:同レベルの心拍上昇作用を示す 41°C、10分入浴と200m/1.2分走行の、心血管機能、血液ガス、代謝、末梢血組成への効果を比較、検討した。対象と方法:被験者は健康男子13名(28.7 ±3.6才)である。入浴、走行研究の前に30分安静させ、血圧、脈拍、舌下温、皮膚血流を測り、正中静脈に採血用の留置針を挿入した。その後、予備実験で約30拍の心拍増加を惹起した41°C、10分の入浴と200m/1.2 分(時速10km)の走行を別々に実施し、測定と採血を負荷直後と15分後に行った。結果と考察:入浴、走行直後の心拍増加は夫々27∼25拍と同レベルだった。走行後の収縮期血圧の上昇は入浴後よりも大きく、入浴後の拡張期圧は安静時より低下した。舌下温と皮膚血流は入浴でのみ増加し、温熱性血管拡張が示唆された。 入浴後、静脈血pO2は有意に上昇し、pCO2は有意に低下したが、乳酸、ピルビン酸レベルの変化はなかった。200m走では逆にpO2は低下し、pCO2は増加し、乳酸、ピルビン酸、P/L比は有意に上昇した。これらの結果は、入浴では代謝亢進はなく、血流増加に基づく組織の著明な酸素化とCO2の排出があり、そして走行では筋肉の解糖系の促進と TCA サイクルにおける酸化の遅れを意味している。 入浴、走行による白血球増加は短時間で消失することから、これらの変化は白血球の多い壁在血流と血漿の多い中心血流の混合で説明可能と思われた。入浴や運動後のリンパ球サブセットの変化に関する従来の報告も、この観点からも検討すべきであろう。赤血球や血清蛋白の変化から算出した血液濃縮の関与は、入浴で2%、走行で4%と、比較的少なかった。結論:入浴による健康増進は、代謝亢進なしに温熱性血管拡張による十分なO2供給とCO2排出が起こることで惹起される。運動による健康増進は強力な心血管系と筋の代謝の賦活により生ずる。この受動的効果の入浴と積極的効果の運動を組み合わせが、バランスの取れた健康増進には有益と思われる。
著者
宮田 昌明
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.149-179, 2006-03

本稿は、一九二四年の加藤高明内閣の成立と幣原外交を、第一次世界大戦後の日本の政治的変化を日本の一等国化と内外の融和に向けた挑戦の過程として再検討することを目的としている。戦後の日本の政策は、日本の国際的地位の向上に対応し、国内政策と対外政策が連動しながら変化し、昭和初期の二大政党政治と協調外交をもたらした。本稿は、以下の三点に注目することで、以上の議論を展開している。 第一に、加藤高明は、外交官および憲政会の総裁として、イギリスを目標とする自由主義的な理想、すなわち、日本は一等国として国民それぞれが自立し、自らの責任を自覚する中で国民的義務を果たしていかなければならないという理想を持ち、そうした視点から加藤は、政府は国民に積極的に権利を付与することで、国民にその責任意識を持たせていく必要があると主張した。と同時に、加藤は第一次世界大戦中に外相として、中国に対し一等国としての日本の優越的地位を示すべく、高圧的な外交を展開していた。しかしこうした外交は、かえって英米や中国との関係を悪化させたとして、元老から批判されていた。 第二に、元老・西園寺公望は、原敬が暗殺された後、分裂に苦しむ政友会の再建を目標とし、高橋是清内閣総辞職後、政友会に首相の地位は与えなかったものの、政友会を与党として政権に参画させることで、その党内の統制と政権担当能力の回復を図ろうとした。加藤友三郎内閣は、そうした政友会を与党として始まったが、その後同内閣は、対外的にはワシントン条約によって規定された国際的義務を履行し、体内的には社会運動に対処し、政府に対する国民の支持を獲得するために、与党政友会以上に普通選挙の導入に積極的な姿勢を示した。対して政友会は、対照的に混乱を深めていった。そうした状況の下で一九二四年に政友会は分裂し、第十五回総選挙で普通選挙を公約に掲げた憲政会に敗北する。その結果、西園寺は加藤高明を後継の首相に指名した。それは西園寺が、当初持っていた政友会の再建という目標を、日本における政党政治の育成を図ろうとする意識に発展させ、政党政治を一等国に相応しい国内政治の在り方として受け入れたことを意味していた。 第三に、加藤高明内閣の幣原喜重郎外相もまた、上述のような国内の政治的変化に対応し、古い日本外交の在り方を一等国に相応しい外交の在り方に変化させようとした。一九二四年九月に第二次奉直戦争が勃発した際、幣原は張作霖への支援を要請する芳沢謙吉駐華公使に対し、内政不干渉の方針を徹底した。幣原は中国の政治的・経済的再建を目標とするワシントン条約の理念を意識し、中国政府に国際的責任意識を喚起させるため、国家主権独立の原則を積極的に適用しようとした。中国における国家意識の形成は、中国の政治的再建と日中関係の安定化の前提条件と考えられたからである。西園寺はこうした幣原外交を評価することで、加藤内閣全体に対する評価をも向上させ、続く昭和初期における二大政党政治の実現をもたらしていくのである。
著者
鄭 忠和 山口 昭彦 増田 彰則 宮田 昌明 枇榔 貞利
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

慢性心不全・閉塞性動脈硬化症・慢性疲労症候群・慢性疼痛・慢性呼吸不全に対して、60℃の遠赤外線乾式サウナ装置を用いた温熱療法の効果を検討した。心不全に関しては、2週間の温熱療法は心室性期外収縮総数、連発性心室性期外収縮、心室頻拍を有意に減少させた。ノルエピネフリン濃度は有意に低下し、24時間ホルター心電図による心拍変動解析(SDNN)は30%有意に増加した。さらに、2週間の温熱療法で、グレリン及び成長ホルモンは有意に増加し、質問表による食欲の改善が認められた。温熱療法は慢性心不全患者で増加した酸化ストレスを減少させることも明らかにした。心不全発症ハムスターを用いた実験において、温熱療法非施行群と比較し、温熱療法群では、生存率を35%有意に改善し、eNOSのmRNA及び蛋白の発現や血清nitrate濃度を有意に増加した。温熱療法による血管新生に関する検討では、アポ蛋白E欠損マウスの下肢虚血モデルにおいて、5週間の温熱療法は下肢血流と血管密度を増加させた。L-NAMEやeNOS欠損マウスを用いた実験により、温熱療法の血流改善作用にeNOSとNOが重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、10週間の温熱療法により、閉塞性動脈硬化症(ASO)患者の下肢疼痛、6分間歩行距離、ABI、体表温度、レーザードプラ血流計による下肢血流、下肢血管造影、皮膚潰瘍に関して有意な改善を認めた。4週間の温熱療法は、軽症うつ患者の愁訴や食欲低下を改善させた。また、慢性疼痛患者の疼痛を軽減し、その後の社会復帰率を高めた。さらに、2名の慢性疲労症候群患者に対して温熱療法を施行し症状の改善を認め、社会生活に復帰した。温熱療法は慢性閉塞性肺疾患患者におけるRV dP/dt、運動中の肺高血圧、運動耐容能、QOLを改善することが示された。温熱療法は、これらの疾患に対する新しい治療法として期待される。
著者
宮田 昌明 高野 泰樹 山添 康
出版者
日本環境変異原学会
雑誌
環境変異原研究 (ISSN:09100865)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.247-251, 2004 (Released:2005-12-24)
参考文献数
23

Co-intake of grapefruit juice with drugs results in a substantial increase in oral drug bioavailability. In contrast, DNA damage in target organ induced by a food-derived carcinogen, 2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine (PhIP), was reduced in rats by grapefruit juice intake. Aflatoxin B1-induced DNA damage was also suppressed in rats treated with grapefruit juice and an ethyl acetate extract of grapefruit juice. A significant decrease in hepatic CYP3A content, but not in CYP1A, CYP2C, glutathione S-transferase and microsomal epoxide hydrolase contents was observed in rats after grapefruit juice intake. No significant differences in the portal blood and liver concentrations of aflatoxin B1, nor in blood concentration of PhIP, were observed between control rats and rats ingesting grapefruit juice. Thus, grapefruit juice intake causes suppression of carcinogen-induced DNA damage at least in part through decreased metabolic activation in rat liver.
著者
枇榔 貞利 宮田 昌明 鄭 忠和
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

我々は、サウナ浴を用いた温熱療法が臨床的に生活習慣病(高血圧症、糖尿病、高脂血症等)の患者の低下した血管内皮機能を改善させること、また、ハムスターを用いた動物実験において内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)を遺伝子・蛋白レベルで増加させることを明らかにした。そこで本研究の目的は、温熱療法の血管内皮機能改善効果が動脈硬化病変の発生・進展を抑制しうるかを検討することである。動脈硬化発症モデル動物としてapoproteinEのノックアウトマウスを用いた。まず、小動物用乾式サウナ装置を用いて、深部体温が約1度上昇する温度を設定するための予備実験を行い、41度15分間、その後34度で20分間のサウナ浴が至適条件であることを確認した。apoproteinEノックアウトマウスでは、12週令においては大動脈基部において動脈硬化巣が確認できるので6週令のapoproteinEノックアウトマウスに対してサウナ浴の効果を検討した。6週令のapoproteinEノックアウトマウス20匹を2群に分け、1群に対し上記の条件で1日1回、1週間に5回のサウナ浴を施行した。コントロール群に対しては、サウナ群と同じ時間だけスイッチを切った室温のサウナ装置に同様の期間入れることを行った。10週間のサウナ浴後に、麻酔下にsacrificeし、大動脈を摘出し、その標本に対し脂肪染色を行い、顕微鏡下に大動脈基部の動脈硬化巣の面積を計測し、両群間での比較を行ったところ、サウナ群では0.07±0.03mm^2であり、コントロール群では0.22±0.14mm^2と減少傾向が認められた。すなわち、アポEノックアウトマウスにおいて10週間の温熱療法が、大動脈の動脈硬化形成を抑制したことは、ヒトにおいても温熱療法が動脈硬化性疾患の発生・進展を抑制する可能性を示唆している。
著者
畑 竜也 宮田 昌明 吉成 浩一 山添 康
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20018, 2011 (Released:2011-08-11)

胆汁酸の肝内濃度上昇は細胞を障害し、肝障害を誘起する。このため、肝内の胆汁酸レベルは厳密に制御されている。肝内胆汁酸レベルは、肝臓におけるコレステロールからの胆汁酸の合成調節によって維持されている。近年、胆汁酸合成を抑制する因子として、回腸で発現するfibroblast growth factor (FGF) 15/19が注目されている。最近当研究室では、マウスへの抗菌薬投与時に認められる肝内胆汁酸レベルの上昇に、ヒトFGF19の相同分子種であるFGF15の発現低下が関与することを明らかにした。FGF15/19の発現は胆汁酸によって調節されると考えられているが、転写レベルの発現調節の機序に関しては不明な点が多い。そこで、本研究では、胆汁酸による転写レベルのヒトFGF19の発現調節を検討した。FGF19遺伝子のプロモーター領域約9 kbを含むレポーターコンストラクトを作製し、ヒト結腸がん由来LS174T細胞を用いてレポーターアッセイを行った。ヒトの主要胆汁酸のchenodeoxycholic acid (CDCA)を単独処置した時、コントロール群に比べて明確な応答が見られなかったが、同時に胆汁酸をリガンドとする核内受容体のfarnesoid X receptor (FXR)を細胞に発現させると、CDCA処置時に応答が見られた。次に、約9 kbのプロモーター領域を段階的に欠失させ、応答を解析したところ、複数の胆汁酸/FXR応答領域の存在が示唆された。また、ゲルシフトアッセイによりFXRの結合が確認された。さらに、本研究で見いだした胆汁酸/FXR応答領域とこれまでに報告されているFGF19遺伝子の第2イントロン上のFXR結合配列が胆汁酸によるFGF19遺伝子の転写活性化に対しどの程度寄与しているかレポーターアッセイにより検討した。その結果、本研究で見いだした胆汁酸/FXR応答領域を含むプロモーター領域のコンストラクトではCDCA/FXRで約8倍、第2イントロンを含むコンストラクトでは約4倍活性が上昇した。さらに、両コンストラクトを同時につなげた時は約16倍活性が上昇し、相乗的な作用が見られた。以上の結果より、胆汁酸はFXRを活性化し、第2イントロンのFXR結合配列のみならずプロモーター領域の複数のFXR応答領域を介して相乗的にFGF19遺伝子の転写を亢進している可能性が示された。
著者
宮田 昌明
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.14, no.9, pp.381-385, 2014 (Released:2017-02-01)
参考文献数
25

腸内細菌は消化管でビタミン,短鎖脂肪酸の生成を担うだけでなく胆汁酸の代謝変換をおこなう。腸内細菌による胆汁酸の代謝変換は消化管の胆汁酸組成変化を誘導し,核内受容体farnesoid X receptor(FXR)シグナルやタンパク分解シグナルを介して宿主の胆汁酸代謝動態の調節に関与する。また近年腸内細菌による胆汁酸代謝変換を介するシグナルが肥満の予防の標的になることが報告された。本稿では,腸内細菌依存的な胆汁酸シグナルの脂質恒常性への寄与について紹介する。