著者
早坂 信哉 尾島 俊之 八木 明男 近藤 克則
出版者
The Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
pp.2359, (Released:2023-07-24)
参考文献数
17

【背景・目的】高齢者において抑うつの発症は様々な疾患のリスクとなり,要介護状態に陥るきっかけとなる.一方,日本においては浴槽の湯につかる特有の入浴法が多くの国民の生活習慣となっているが,この生活習慣としての浴槽入浴と長期的な抑うつ発症との関連は明らかではなかった.本研究は,大規模な6年間にわたる縦断研究によって生活習慣としての浴槽入浴が長期的な抑うつ発症との関連を明らかにすることを目的とした.  【方法】Japan Gerontological Evaluation Study(以下,JAGES)の一環として2010年,2016年に調査対象となった11,882人のうち,自立しておりかつGeriatric Depression Scale (以下,GDS)4点以下で抑うつがなく,夏の入浴頻度の情報のある6,452人,および冬の入浴頻度の情報がある6,465人をそれぞれ解析した.コホート研究として週0~6回の浴槽入浴と週7回以上の浴槽入浴の各群の6年後のGDSによる抑うつ発症割合を求め,浴槽入浴との関連をロジスティック回帰分析によって年齢,性別,治療中の病気の有無,飲酒の有無,喫煙の有無,婚姻状況,教育年数,等価所得を調整して多変量解析を行いオッズ比を求めた.  【結果】週0~6回の浴槽入浴に対する週7回以上の浴槽入浴の抑うつ発症の,調整後の多変量解析によるオッズ比は夏の入浴頻度0.84(95%信頼区間:0.64~1.10),冬の入浴頻度0.76(95%信頼区間:0.59~0.98)であり,冬に週7回以上浴槽入浴することは抑うつを発症するリスクが有意に低かった.  【結論】習慣的な浴槽入浴の温熱作用を介した自律神経のバランス調整などによる抑うつ予防作用による結果の可能性があり,健康維持のため高齢者へ浴槽入浴が勧められることが示唆された.
著者
早坂 信哉 原岡 智子 尾島 俊之
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.112-118, 2016 (Released:2016-07-04)
参考文献数
20
被引用文献数
2

【背景・目的】介護保険によって入浴サービスが提供されているが,現在,高齢者にとって安全な入浴が可能か否かの具体的な判断基準・指針がなく,介護現場の入浴担当者は判断に困難を感じている.特に入浴前の体調確認は主に血圧測定,体温測定によって実施されていることから,本研究は,入浴前の血圧や体温と,入浴に関連した体調不良や事故の発生との関連について明らかにすることを目的とした.【方法】1.研究デザイン:症例対照研究(前向き調査による症例登録方式).2.調査対象:訪問入浴事業所として登録がある2,330か所の全事業所.3.調査方法:症例は入浴に関連した体調不良・事故の症例(以下,異常例と言う).対照は各事業所2例無作為抽出.調査期間は2012年6月~2013年5月までの1年間.4.解析方法:年齢,性別,障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度),要介護度,modified Rankin Scale,意識レベル,認知症高齢者の日常生活自立度,入浴前の血圧,入浴前の体温を単純比較した.その後,ロジスティック回帰分析を用いて,すべての体調不良・事故発生及び発熱,血圧上昇・低下を除いた体調不良・事故発生を目的変数に,その他の測定項目を説明変数とした単変量・多変量解析を実施した.【結果】異常例596件,対照1,511件を解析した.単純比較では異常例で体温が高かった.発熱,血圧上昇・低下を除いた体調不良・事故発生での多変量解析では,収縮期血圧は160~179mmHgでオッズ比(95%信頼区間)3.63(1.39-9.50),拡張期血圧は100~109mmHgで同14.71(1.31-165.77),体温は37.5~37.9℃で同16.47(3.30-82.40),38.0℃以上で同6.57(1.40-30.81)と有意な関連があった.【結論】高齢者における160/100mmHg以上の血圧,37.5℃以上の体温は入浴関連の体調不良・事故の危険因子である可能性がある.
著者
岩永 成晃 宮田 昌明 早坂 信哉
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.140-150, 2020-10-31 (Released:2021-02-10)
参考文献数
12

平成26年の温泉法の改正によって,温泉入浴の禁忌から妊婦が削除されたが,一般への認知は十分ではない.本邦においては,妊婦の温泉浴の安全性について検証した報告は少なく,日本温泉気候物理医学会として妊婦の温泉浴の安全性について共同研究を行い,その結果を学会から発信するとともに,一般への啓発が必要であると考え,本学会において検討を行った.  妊娠初期から分娩までの期間,温泉地(別府市,指宿市)に居住する妊産婦へ自記式調査票にて以下の調査を行った.1)年齢(妊娠終了時),2)過去の出産回数,3)温泉入浴の状況:妊娠時期(初期・中期・後期)別に日常的な温泉入浴の有無と利用の頻度,内湯温泉や自宅外の温泉施設の利用の有無,4)妊娠中のトラブルの有無:流産(妊娠12週未満の早期流産は除外),早産,切迫早産,妊娠中毒症・妊娠高血圧症(浮腫,高血圧)等について調査した.  回収数は1,721例(回収率86%)であり,平均年齢は30.8歳(17~49歳),初妊婦643例(37.6%),経妊婦1,078例(62.4%)であった.年齢と出産回数は,産科的トラブルとは関連なかった.妊娠の初期と中期において,産科的トラブルは,週1回以上の日常的な温泉入浴者と週1回未満の温泉入浴者の間に有意な差を認めなかった.妊娠後期においては,週1回以上の日常的な温泉入浴者は週1回未満の温泉入浴者に比べ,むしろ産科的トラブルが有意に少なかった(20.3% vs 25.9%,p=0.028).また,里帰り妊婦に絞ってみても,妊娠の初期と中期においては,産科的トラブルの頻度は温泉入浴群と非温泉入浴群の間に有意差を認めなかった.一方,妊娠後期においては,温泉入浴群は非温泉入浴群と比較し,産科的トラブルが有意に少なかった(温泉入浴群13.0% vs 非温泉入浴群24.5%,p=0.028).  日常的に温泉浴をする妊婦において,そうでない妊婦とくらべて,産科的トラブルが増加することはないことが確認できた.温泉の禁忌症から“妊婦”の項目が削除されたことは適正なことであったといえる.
著者
田中 信行 宮田 昌明 下堂薗 恵 出口 晃 國生 満 早坂 信哉 後藤 康彰
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.263-272, 2011 (Released:2013-10-18)
参考文献数
22

研究の目的:同レベルの心拍上昇作用を示す 41°C、10分入浴と200m/1.2分走行の、心血管機能、血液ガス、代謝、末梢血組成への効果を比較、検討した。対象と方法:被験者は健康男子13名(28.7 ±3.6才)である。入浴、走行研究の前に30分安静させ、血圧、脈拍、舌下温、皮膚血流を測り、正中静脈に採血用の留置針を挿入した。その後、予備実験で約30拍の心拍増加を惹起した41°C、10分の入浴と200m/1.2 分(時速10km)の走行を別々に実施し、測定と採血を負荷直後と15分後に行った。結果と考察:入浴、走行直後の心拍増加は夫々27∼25拍と同レベルだった。走行後の収縮期血圧の上昇は入浴後よりも大きく、入浴後の拡張期圧は安静時より低下した。舌下温と皮膚血流は入浴でのみ増加し、温熱性血管拡張が示唆された。 入浴後、静脈血pO2は有意に上昇し、pCO2は有意に低下したが、乳酸、ピルビン酸レベルの変化はなかった。200m走では逆にpO2は低下し、pCO2は増加し、乳酸、ピルビン酸、P/L比は有意に上昇した。これらの結果は、入浴では代謝亢進はなく、血流増加に基づく組織の著明な酸素化とCO2の排出があり、そして走行では筋肉の解糖系の促進と TCA サイクルにおける酸化の遅れを意味している。 入浴、走行による白血球増加は短時間で消失することから、これらの変化は白血球の多い壁在血流と血漿の多い中心血流の混合で説明可能と思われた。入浴や運動後のリンパ球サブセットの変化に関する従来の報告も、この観点からも検討すべきであろう。赤血球や血清蛋白の変化から算出した血液濃縮の関与は、入浴で2%、走行で4%と、比較的少なかった。結論:入浴による健康増進は、代謝亢進なしに温熱性血管拡張による十分なO2供給とCO2排出が起こることで惹起される。運動による健康増進は強力な心血管系と筋の代謝の賦活により生ずる。この受動的効果の入浴と積極的効果の運動を組み合わせが、バランスの取れた健康増進には有益と思われる。
著者
早坂 信哉 樋口 善英 倉重 恵子 曽我 俊博
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.58-64, 2020-06-19 (Released:2020-06-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2

背景・目的 近年では、浴槽に浸かる温浴より、シャワー浴で済ませる人の割合が増加している。しかし、シャワー浴は一般的に温浴よりも温熱も冷え性の改善効果が認められない。また、カシスポリフェノール摂取は血流を改善することが知られている。そこで、カシスポリフェノール飲用後にシャワー浴を行う場合と、通常の水道水飲用後にシャワー浴を行う場合と比較し、カシスポリフェノール飲用後にシャワー浴を行う場合とで、シャワー浴の温熱刺激後の保温効果冷え性の改善効果および湯冷め遅延効果が得られるかを、皮膚表面温度および舌下温(深部体温)の差から明らかにすることを目的とした。対象・方法 健康な成人女性10名を対象にカシスポリフェノール飲用後のシャワー浴と水道水飲用後のシャワー浴とを、それぞれ41℃で10分間ずつ行い同一被験者内比較介入試験を実施した。各入浴時における手足の皮膚表面温度および舌下温の測定を行い測定値の平均を求めpaired-t検定で比較した。結果・考察 手足の皮膚表面温度表面体温では、カシスポリフェノール飲用後で有意な差をもって保温効果が高まる結果が得られた。したがって、シャワー浴の前にカシスポリフェノールを飲用することで、手足の保温、湯冷め遅延効果が得られることから、シャワー浴の短所であるである、浴後の体温低下、(いわゆる湯冷め)冷え性の改善効果が得られる可能性があると示唆された。舌下温の測定では、有意な差はなかった。結論 カシスポリフェノールを飲用後のシャワー浴は、水道水を飲用後のシャワー浴よりも保温効果が高まり、体温維持の延伸効果が得られると考えられた。
著者
早坂 信哉 三橋 浩之 亀田 佐知子 早坂 健杜 石田 心
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.62-68, 2021-06-16 (Released:2021-06-16)
参考文献数
13

背景・目的 一般公衆浴場である銭湯を定期的に利用する者は幸福度が高いなどの心身への関連をこれまで筆者らは横断研究で報告してきた。銭湯は浴槽が複数あり温水単体による通常入浴の他、冷水浴を用いた温冷交代浴をしやすい環境にあるが、銭湯におけるこれらの入浴の効果を測定した研究は少ない。本研究では銭湯における通常入浴及び温冷交代浴の心身への影響を介入研究によって明らかにすることを目的とした。方法 同一被験者内前後比較試験として、成人男女10名を対象に、銭湯で通常入浴(40℃ 10分全身浴)、温冷交代浴(40℃3分全身浴→ 25℃1分四肢末端シャワー浴(2度繰り返し)→ 40℃ 4分全身浴で終了)をそれぞれ単回行い、入浴前後で16項目の心身の主観的評価項目、体温、唾液コルチゾール、オキシトシンを測定した。結果 前後比較では、心身の主観的評価項目では通常入浴は幸福感など11項目、温冷交代浴では13項目が入浴後に好評価となった。通常入浴では唾液コルチゾールが入浴後に有意に低下し(p=0.005)、前後の変化量は群間比較で温冷交代浴と比べて通常入浴が大きかった(p=0.049)。考察 通常入浴、温冷交代浴とも心身への主観的評価は入浴後に好評価となりいずれの入浴法でも心身へ良い影響を与えることが推測された。温冷交代浴の優位性が報告されることがあるが、本研究では通常入浴でも好影響が確認できた。
著者
上岡 洋晴 早坂 信哉 武田 淳史
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
pp.2349, (Released:2021-10-25)
参考文献数
39

本研究は,温泉施設や公衆浴場の利用はCOVID-19に感染するリスクは低いというエビデンスの収集を第1の目的とし,さらに入手した報告を中心として温泉医学分野において取り組むべき研究課題の包括整理を行うことを第2の目的とした.  文献データベースは,CINHAL,Chochrane Library(Clinical Answer, Cochrane Protocol, Cochrane Review, Editrials, Special Collections, Trials),医中誌Web,MEDLINE,Web of Science Core Collectionを用いた.それぞれのデータベースにおいて,開設されてから検索をした2021年7月26日までの結果を採用することとした.介入研究及び実験的研究の場合には,次の変形型のPICOSとした.P(Participant:参加者-疾患の有無にかかわらず制限なし),I(Intervention:介入-普通の呼吸あるいは意図的にくしゃみやせき,会話をする行為),C(Comparison:比較対照-制限なし),O(Outcome:アウトカム-浴室や脱衣室での室内空気の流れや飛沫の動態と飛沫をシミュレートしたマーカー),S(Study design:研究・実験デザイン-コントロール群のない介入研究・実験を含む)を,観察研究の場合には,PECOS,P(参加者:疾患の有無にかかわらず制限なし),E(Exposure:曝露-公衆入浴施設),C(比較対照-制限なし),S(研究デザイン-横断研究,コホート研究,ケース・コントロール研究)とした.  第1目的において,適格基準に合致した研究は0編で,温泉施設や公衆浴場の利用はCOVID-19に感染するリスクは低いというエビデンスを現時点では示すことができなかった.第2目的に関しては,関連する先行研究が15編あった.COVID-19に強く影響される社会において,チャレンジすべき4つの研究課題をエビデンス・マップの位置づけで提案することができた.「A.温泉施設や公衆浴場の利用はCOVID-19の感染リスクが低いこと」,「B.温泉の泉質や公衆浴場の室温・水温がSARS-CoV-2を不活性化・弱毒化させること」,「C.温泉施設,公衆浴場,家庭での入浴習慣はCOVID-19の予防や症状の軽減につながること」,「D.入浴によってCOVID-19罹患後の患者の多様なリハビリテーションにつながること」であり,それぞれに適合した研究方法論でのアプローチが必要だと考えられた.
著者
早坂 信哉 樋口 善英 野々村 雅之 栗原 茂夫
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.17-22, 2020-06-19 (Released:2020-06-19)
参考文献数
12
被引用文献数
2

背景・目的 一般公衆浴場の銭湯は、生活空間として身近にある公衆を入浴させる施設である。従って、地域の住民にとって銭湯は、保健、医療、福祉の面としての健康増進の場、地域社会におけるコミュニケーションの場・ソーシャルキャピタルを高める場として期待され、大変重要な社会的資源であると考えられる。本研究では銭湯利用頻度と健康指標の1つである主観的幸福感について、男女別・地域別・世代別の各指標から調査分析し、その関連を明らかにすることを目的とした。方法 インターネットを利用した横断研究を2018年9月に実施した。調査対象者558名(男性281名(50.4%)、女性277名(49.6%))であった。週1回以上の銭湯利用頻度の高い者と週1回未満の銭湯利用頻度の低い者の2群に区分し、各群の主観的幸福感を比較検討した。結果 銭湯利用頻度の高い者は主観的幸福感が高く、男性が女性より高かった。一方、地域別は、首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県)より関西圏(大阪・京都・兵庫の2府1県)が高かった。さらに、年代別は、20~30歳代が高かった。以上より、銭湯利用頻度の高い者の主観的幸福感が高く、男性、関西圏、20∼30歳代の銭湯利用者で主観的幸福感が高いこととの関連が示唆された。考察 銭湯利用頻度の高い者の主観的幸福感は高く、男性、関西圏、20∼30歳代で特に高い傾向にあることがわかった。銭湯を習慣的に利用することで主観的幸福感が高まる可能性があると考えられ、銭湯の積極的な利用を進めることで地域住民の生活の質の向上につながる可能性がある。
著者
八木 明男 近藤 克則 早坂 信哉 尾島 俊之
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.67-73, 2019 (Released:2019-10-26)
参考文献数
13

背景・目的 抑うつは高齢者の生活機能低下の原因の一つであり、その予防は公衆衛生上の重要な課題である。本研究では縦断デザインにより高齢者の浴槽入浴頻度と抑うつ傾向発症 ( 以下、うつ発症) との関連を評価することを目的とした。方法 日本老年学的評価研究2010年度版、2013年度版の両質問用紙に回答した高齢者のうち、日常生活動作が自立し、2010年度調査時点でGeriatric Depression Scale (GDS) 4点以下であった4,466人 ( 男性2,159人、女性2,307人) を対象とした。2013年度調査でのうつ発症 (GDS 5点以上) を目的変数、2010年度調査時点での浴槽入浴頻度 ( 夏と冬それぞれ) を説明変数とし、共変量として年齢、性、婚姻状況、就労状況、等価所得、教育年数、治療中の病気の有無を用い、ポアソン回帰分析により解析した。結果 新規うつ発症は、夏の週0-6回で14.1% 、週7回以上で11.5% 、冬の週0-6回で15.1% 、週7回以上で10.8% に生じた。多変量解析の結果、週0-6回を基準とした週7回以上でのうつ発症率比 (95% 信頼区間) は夏で0.84 (0.71-1.00) 、冬で0.77 (0.65-0.91) であった。考察 浴槽入浴頻度が高い高齢者では新規うつ発症が少ないことが示された。高齢者の浴槽入浴はうつ発症の予防につながる可能性が示唆される。
著者
石澤 太市 渡邊 智 谷野 伸吾 油田 正樹 宮本 謙一 尾島 俊之 早坂 信哉
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.227-237, 2012 (Released:2013-10-23)
参考文献数
30
被引用文献数
5

背景:入浴は、身体を清潔に保つための重要な行為であり、生活習慣の一つである。入浴に対する意識は、疲れを取る、リフレッシュ、健康のため、睡眠をよく取るため等であり、健康維持と捉えることができる。しかし、これまで家庭での入浴習慣と健康状態との関係はほとんど研究されていない。目的:本研究は家庭における日々の入浴と身体的・心理的健康状態との関係を明らかにすることを目的とした。方法:健康成人男女 198 名を対象として調査を行った。入浴習慣の調査項目は、被験者の性別・年齢、浴槽浴頻度、入浴剤使用頻度、浴槽浴時湯温、浴槽浴時間、浴槽浴時水位について調査した。健康状態の調査項目は、気分プロフィール検査である POMS(Profile of Mood States)を用い、主観的健康感および睡眠の質については VAS(Visual Analogue Scale)を用いて評価した。結果:浴槽浴頻度の高い群において、「緊張不安」および「抑うつ・落込み」が有意に低く、主観的健康感が有意に高かった。また、入浴剤使用頻度の高い群では、主観的健康感および睡眠の質が有意に高かった。全身浴群においては、「疲労感」が有意に低く、主観的健康感および睡眠の質が有意に高かった。結論:入浴習慣と身体・心理状況との関連が、健康成人男女を対象として行った研究により明らかになった。全身浴による浴槽浴頻度および入浴剤使用頻度が高い入浴習慣は、中壮年の身体的・心理的健康状態を高めたと考えられた。
著者
後藤 康彰 早坂 信哉 中村 好一
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.256-267, 2012 (Released:2013-10-23)
参考文献数
32

【背景と目的】日常的な浴槽に浸かる温浴、温泉入浴施設の利用、緑茶の多飲は、日本人に特徴的な生活習慣であるとして着目し、これらの習慣が、日本人の健康に及ぼす効果について検討した。健康指標として、罹患率・死亡率との相関が報告され、疫学的健康評価に広く使われている主観的健康感(SRH)、睡眠の質、主観的ストレスを用いた。【方法】2011 年に静岡県が県民 5,000人を対象に実施した自記式アンケート調査項目のうち、SRH、睡眠の質、ストレスの程度を従属変数に、浴槽浴頻度(週 7 日/週 6 日以下)、温泉施設の訪問頻度(月 1 回以上/月 1 回未満)、緑茶の 1 日あたり飲料(1 日 1 リットル 以上/ 1 リットル未満)と、栄養バランスへの配慮(有/無)、運動習慣(週 1 回以上/週 1 回未満)、睡眠時間(7時間以上未満)、ストレスの程度(高/低)、喫煙(有/無)を独立変数とした logistic 回帰分析を実施した。【結果】調査への回答者は 2,779人(55.6%)であった。毎日の浴槽浴、月 1回以上の温泉施設訪問、緑茶多飲とそれらの組み合わせは、栄養バランスへの配慮、運動習慣、7 時間以上の睡眠、低ストレス同様、良好な SRH と関連した。毎日の浴槽浴は睡眠の質が良い状態(単変量解析でのみ有意)、低ストレス状態とも関連を示した。【考察】毎日の浴槽温浴、温泉入浴施設利用、緑茶多飲は、主観的健康感がよい状態と関連するとの知見が得られた。これらの生活習慣を取り入れることが、栄養バランスへの配慮、運動習慣、適切な睡眠、低ストレス同様、健康に寄与することが示唆された。
著者
早坂 信哉 原岡 智子 尾島 俊之
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
pp.2294, (Released:2016-02-22)
参考文献数
20
被引用文献数
2

【背景・目的】介護保険によって入浴サービスが提供されているが,現在,高齢者にとって安全な入浴が可能か否かの具体的な判断基準・指針がなく,介護現場の入浴担当者は判断に困難を感じている.特に入浴前の体調確認は主に血圧測定,体温測定によって実施されていることから,本研究は,入浴前の血圧や体温と,入浴に関連した体調不良や事故の発生との関連について明らかにすることを目的とした.【方法】1.研究デザイン:症例対照研究(前向き調査による症例登録方式).2.調査対象:訪問入浴事業所として登録がある2,330か所の全事業所.3.調査方法:症例は入浴に関連した体調不良・事故の症例(以下,異常例と言う).対照は各事業所2例無作為抽出.調査期間は2012年6月~2013年5月までの1年間.4.解析方法:年齢,性別,障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度),要介護度,modified Rankin Scale,意識レベル,認知症高齢者の日常生活自立度,入浴前の血圧,入浴前の体温を単純比較した.その後,ロジスティック回帰分析を用いて,すべての体調不良・事故発生及び発熱,血圧上昇・低下を除いた体調不良・事故発生を目的変数に,その他の測定項目を説明変数とした単変量・多変量解析を実施した.【結果】異常例596件,対照1,511件を解析した.単純比較では異常例で体温が高かった.発熱,血圧上昇・低下を除いた体調不良・事故発生での多変量解析では,収縮期血圧は160~179mmHgでオッズ比(95%信頼区間)3.63(1.39-9.50),拡張期血圧は100~109mmHgで同14.71(1.31-165.77),体温は37.5~37.9°Cで同16.47(3.30-82.40),38.0°C以上で同6.57(1.40-30.81)と有意な関連があった.【結論】高齢者における160/100mmHg以上の血圧,37.5°C以上の体温は入浴関連の体調不良・事故の危険因子である可能性がある.
著者
小番 美鈴 渡邊 智 奥川 洋司 石澤 太市 松本 圭史 綱川 光男 園田 巌 井戸 ゆかり 早坂 信哉
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
pp.202244G03, (Released:2022-11-12)
参考文献数
10

目的 未就学児(子)における浴槽入浴がもたらす子の健康感や機嫌などの変化について、子の浴槽入浴習慣、保護者の背景因子との関連を示す。方法 2021年1月に、全国の0~5歳の子を持ち調査参加に同意を得られた429名を対象にweb調査による自記式横断研究を実施した。そのうち、データ欠損を含まない369名を分析対象とした。浴槽入浴をすることで得られる子の変化を「寝つきが良くなった、健康になった、機嫌が良くなった、会話が増えた、特に変わらない」とし、子の浴槽入浴頻度、入浴剤使用頻度、保護者の子の入浴法の意識、保護者の幼少期における入浴の思い出との関連について二項ロジスティック回帰分析を行った。結果 浴槽入浴を習慣的に行っている子は84.32%であり、そのうち、浴槽入浴をしっかり行うことで心身の変化が得られた子は58.68%(寝つきが良くなった19.07%、健康になった14.40%、機嫌が良くなった14.40%、会話が増えた10.81%)、特に変わらない子は25.64%であった。浴槽入浴により、子が健康になった、親子の会話が増えたと回答した者は、入浴剤使用頻度が高く、保護者の幼少期における入浴で楽しんだ思い出と関連があり、子の機嫌が良くなったと回答した者は、入浴剤使用頻度が高く、皮膚への乾燥防止などの子の入浴法の意識と関連があった。考察 浴槽入浴から得られる子の健康感や機嫌、親子の会話などの変化は、入浴剤の使用や子の入浴法の意識、保護者の幼少期の入浴の思い出と関連している可能性がある。
著者
早坂 信哉 中村 好一 梶井 英治
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1070-1075, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
31
被引用文献数
2

目的 市区町村社会福祉協議会が提供する高齢者入浴サービスである訪問入浴,施設内入浴について関連する事故の発生頻度をそれぞれ明らかにする。方法 対象:高齢者入浴サービスを実施している全国の市区町村社会福祉協議会(以下社協)444か所が対象であり,そのうち入浴に関連する事故の経験がある社協102か所を調査した。 調査,解析方法:2001年10月に郵送自記式調査を実施した。訪問入浴サービス,施設内入浴サービスの各々について,入浴サービス開始年月,2000年度の入浴延べ件数,および過去 5 年間のうちの入浴サービス実施期間の入浴に関連する事故件数を調査した。これらの項目につき過去 5 年間の入浴延べ件数を推定し,事故経験のある社協における入浴 1 万件あたりの事故件数を計算した。加えて入浴サービスを実施している社協全体における入浴 1 万件あたりの事故件数を計算し,日本全体における年間事故件数を推定した。結果 調査票の回収率は93%(回答数95)だった。5 年間の 1 社協あたりの延べ入浴件数(平均±標準偏差)は訪問入浴が4,245.0±4,637.7件,施設内入浴が22,235.3±37,259.4件で施設内入浴が多かった。事故経験のある社協における 5 年間の事故件数は訪問入浴が0.57±2.95件,施設内入浴が0.63±1.73件でほぼ同じだった。しかし入浴 1 万件あたりの事故件数は,訪問入浴が1.33件,施設内入浴が0.28件で訪問入浴が多かった。入浴サービスを実施している社協全体における入浴 1 万件あたりの事故件数は,訪問入浴が0.204件,施設内入浴が0.067件で訪問入浴が多かった。日本全体における年間事故件数を推定すると訪問入浴が63.1件,施設内入浴が149.1件であった。結論 入浴 1 万件あたりの事故発生率は,訪問入浴が施設内入浴より高く,福祉担当者や家族は注意を喚起する必要がある。
著者
石澤 太市 渡邊 智 谷野 伸吾 油田 正樹 宮本 謙一 尾島 俊之 早坂 信哉
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.227-237, 2012-08-31
参考文献数
30

背景:入浴は、身体を清潔に保つための重要な行為であり、生活習慣の一つである。入浴に対する意識は、疲れを取る、リフレッシュ、健康のため、睡眠をよく取るため等であり、健康維持と捉えることができる。しかし、これまで家庭での入浴習慣と健康状態との関係はほとんど研究されていない。<br>目的:本研究は家庭における日々の入浴と身体的・心理的健康状態との関係を明らかにすることを目的とした。<br>方法:健康成人男女 198 名を対象として調査を行った。入浴習慣の調査項目は、被験者の性別・年齢、浴槽浴頻度、入浴剤使用頻度、浴槽浴時湯温、浴槽浴時間、浴槽浴時水位について調査した。健康状態の調査項目は、気分プロフィール検査である POMS(Profile of Mood States)を用い、主観的健康感および睡眠の質については VAS(Visual Analogue Scale)を用いて評価した。<br>結果:浴槽浴頻度の高い群において、「緊張不安」および「抑うつ・落込み」が有意に低く、主観的健康感が有意に高かった。また、入浴剤使用頻度の高い群では、主観的健康感および睡眠の質が有意に高かった。全身浴群においては、「疲労感」が有意に低く、主観的健康感および睡眠の質が有意に高かった。<br>結論:入浴習慣と身体・心理状況との関連が、健康成人男女を対象として行った研究により明らかになった。全身浴による浴槽浴頻度および入浴剤使用頻度が高い入浴習慣は、中壮年の身体的・心理的健康状態を高めたと考えられた。
著者
森 康則 斉藤 雅樹 早坂 信哉
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.49-56, 2021

<p><b>背景・目的</b> COVID-19パンデミックに伴う、いわゆるコロナ禍の一方で、温泉地に新たに「ワーケーション」の需要が喚起されつつある。本研究では、コロナ禍以前の温泉地において、ビジネス目的の滞在実態の把握を目的に、解析を試みた。</p><p><b>方法</b> 環境省が全国の温泉地を対象に実施している大規模調査「全国『新・湯治』効果測定調査プロジェクト」のデータを用いた。同プロジェクトの調査シートの中から、温泉地旅行の目的を「ビジネス、研修など」と回答した群(N=255)と、それ以外の目的と回答した群(対照群N=7,196)について、有意差検定を行った。</p><p><b>結果</b> 対照群の年齢(58.2±16.1歳)に比べてビジネス目的の温泉地滞在者は年齢が有意に低く(49.1±14.2歳)、また、性別は対照群が男性48.1%、女性51.9%に対し、ビジネス利用群は男性75.8%、女性24.2%と、有意に男性が多かった。また、温泉地滞在期間は、対照群の日帰りが29.1%に対しビジネス利用群が12.0%とビジネス利用群が低く、対照群とビジネス利用群の一泊二日はそれぞれ54.3%と64.3%、二泊三日はそれぞれ7.8%と15.1%と、ビジネス利用群には日帰りよりも、一泊から二泊程度の宿泊を伴う滞在が好まれていることが示された。また、ビジネス利用群の宴会の実施割合(10.6%)は、対照群の3.6%と比べて有意に高かった。温泉地滞在後の感想や健康状態の変化は、全般的に対照群の方がポジティブな効果を回答する者の割合が高く、従来のビジネス目的の温泉地滞在者は、対照群に比べて健康改善効果などを比較的実感できていなかった状況が伺われた。</p><p><b>考察</b> 本研究によって明らかになったCOVID-19パンデミック以前の温泉地におけるビジネス利用者の状況は、今後、有効な温泉地におけるワーケーションの普及展開方法を議論する上で、重要な示唆になるものと考えられる。</p>
著者
早坂 信哉 三橋 浩之 亀田 佐知子 早坂 健杜 石田 心
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
pp.202142G07, (Released:2021-02-09)
参考文献数
13

背景・目的 一般公衆浴場である銭湯を定期的に利用する者は幸福度が高いなどの心身への関連をこれまで筆者らは横断研究で報告してきた。銭湯は浴槽が複数あり温水単体による通常入浴の他、冷水浴を用いた温冷交代浴をしやすい環境にあるが、銭湯におけるこれらの入浴の効果を測定した研究は少ない。本研究では銭湯における通常入浴及び温冷交代浴の心身への影響を介入研究によって明らかにすることを目的とした。方法 同一被験者内前後比較試験として、成人男女10名を対象に、銭湯で通常入浴 (40℃10分全身浴)、温冷交代浴(40℃3分全身浴→25℃1分四肢末端シャワー浴(2度繰り返し)→40℃4分全身浴で終了)をそれぞれ単回行い、入浴前後で16項目の心身の主観的評価項目、体温、唾液コルチゾール、オキシトシンを測定した。結果 前後比較では、心身の主観的評価項目では通常入浴は幸福感など11項目、温冷交代浴では13項目が入浴後に好評価となった。通常入浴では唾液コルチゾールが入浴後に有意に低下し(p=0.005)、前後の変化量は群間比較で温冷交代浴と比べて通常入浴が大きかった(p=0.049)。考察 通常入浴、温冷交代浴とも心身への主観的評価は入浴後に好評価となりいずれの入浴法でも心身へ良い影響を与えることが推測された。温冷交代浴の優位性が報告されることがあるが、本研究では通常入浴でも好影響が確認できた。
著者
早坂 信哉 石川 鎮清 岡山 雅信 梶井 英治 中村 好一 小栗 重統 岡山 明 柳川 洋
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.173-181, 2001 (Released:2010-04-30)
参考文献数
15

To determine the background of aged people who need bathing assistance, we analyzed data of the Survey on Demand for Health and Welfare Services of Japan as of 1997. The survey covered 21, 723 persons aged 65 years or older, and 1, 193 caregivers who provide care to persons 65 years or older throughout Japan. The main parameters were aged people's sex, age, marital status, health condition, degree of bed rest, and needs of care in daily life; relation between caregivers and aged people; life with care giver; job; family composition; use of home care services; demand for home care services; caregivers' sex, age, health condition, and employment status; and demand for home care services. Subjects were divided into three groups, those who need bathing assistance, those who do not need bathing assistance, and those who do not need care in daily life, and the rate was shown for each item. The results indicated that the rate of those who need bathing assistance was higher among (1) aged people who were older, have poor health, and are in bed alweys or almost alweys, (2) aged people who needed care in daily life, used home care service, and required home care service, and (3) aged people whose caregivers required home care services.Aged people who need bathing assistance are subject to frequent bathing accidents, so we need to pay attention to safe bathing service.
著者
原 豪志 戸原 玄 近藤 和泉 才藤 栄一 東口 髙志 早坂 信哉 植田 耕一郎 菊谷 武 水口 俊介 安細 敏弘
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.57-65, 2014-10-16 (Released:2014-10-25)
参考文献数
32

経皮内視鏡的胃瘻造設術は,経口摂取が困難な患者に対して有用な栄養摂取方法である。しかしその適応基準はあるが,胃瘻造設後の経口開始基準や抜去基準はない。 われわれは,胃瘻療養中の脳血管障害患者の心身機能と摂食状況を,複数の医療機関にて調査したので報告する。133 名 (男性 72 人,女性 61 人)を対象とし,その平均年齢は77.1±11.3 歳であった。患者の基本情報,Japan Coma Scale (JCS),認知症の程度,Activities of daily living (ADL),口腔衛生状態,構音・発声の状態,気管切開の有無,嚥下内視鏡検査 (Videoendoscopic evaluation of swallowing,以下 VE)前の摂食状況スケール (Eating Status Scale,以下 ESS),VE を用いた誤嚥の有無,VE を用いた結果推奨される ESS (VE 後の ESS),の項目を調査した。 居住形態は在宅と特別養護老人ホームで 61.3%を占め,認知症の程度,ADL は不良な対象者が多かったが,半数以上は口腔衛生状態が良好であった。また,言語障害を有する対象者が多かった。対象者の82.7%は食物形態や姿勢調整で誤嚥を防止することができた。また,VE 前・後の ESS の分布は有意に差を認めた (p<0.01)。胃瘻療養患者に対して退院後の摂食・嚥下のフォローアップを含めた環境整備,嚥下機能評価の重要性が示唆された。