著者
松本 健志 小笠原 康夫 片岡 則之 後藤 真己 梶谷 文彦 MOCHIZUKI Seiichi MATSUMOTO Takeshi TACHIBANA Hiroyuki
出版者
川崎医療短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

【目的】糖尿病に認められる血液レオロジーの変化は微小血管分岐部における血流分配にも影響し,局所的に心筋酸素需要-供給バランスを悪化させ,糖尿病と高率に合併する冠微小循環障害の原因になり得ると考えられる.本研究では血液レオロジー変化がもたらす心筋血流異常について基礎的検討を行うために,血液,タイロード溶液,および人工赤血球+血液による摘出潅流心モデルを対象に,冠微小循環単位レベル(最小の細動脈が潅流支配するサブミリメートルサイズの心筋微小領域)で心筋潅流分布評価を行った.【方法】血液,NRC+血液潅流では交叉潅流モデルを用いて潅流液を酸素化し,タイロード溶液については酸素バブリングにて心筋潅流を行った.人工赤血球にはテルモ社製Neo Red Cell(NRC,粒子径=200nm)を利用した.各潅流液での潅流中に血流マーカーであるHDMI(2μCi)を心筋内ボーラス投与し,心停止後,心表面に平行に心筋スライスを作製し(10μm厚,28枚/心筋),デジタルラジオグラフィによってスライス内のHDMI分布を測定した(空間分解能100μm).潅流分布の評価には,局所血流の不均一性の指標である変動係数(CV[%]=局所HDMI密度の標準偏差/HDMI密度の平均)を用いた.【結果及び考察】潅流量,左室発生圧は,NRC+血液潅流心では5.4±0.4ml/min/g,109±6mmHg,血液潅流心では2.8±0.1ml/min/g,108±15mmHg,タイロード潅流心では13.6±2.7ml/min/g,107±18mmHgであった.なお,NRC潅流ではヘマトクリット,リポソームの体積率は各々20±1,9±2%であった.局所心筋潅流のバラツキCVはタイロード溶液潅流心で最も低く,次いでNRC+血液潅流心,血液潅流心で最も大きかった.NRCは赤血球径の1/40であることからNRC+血液の粘性は血液に比べ低く,その結果,潅流量は増加し,さらに潅流不均一性の低下が認められた.加えてNRC添加により酸素供給不均一化の原因となる微小血管分岐でのプラズマスキミングも低減すると考えられ,NRC代謝改善効果に寄与するものと考えられた.
著者
軸屋 和明 立花 博之 平松 修 望月 精一 松本 健志 後藤 真己 OGASAWARA Yasuo KAJIYA Fumihiko
出版者
川崎医療短期大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

心筋内の血流分布は微小循環レベルで著しい空間的不均一性を示すことが知られ、冠微小循環障害発症メカニズムの関連因子として注目されている。本研究では、放射性分子血流トレーサ(トリチウム標識のデスメチルイミプラミン:^3H-DMI)を用い、従来にない高分解能(100サンプル/mm^2、最小サンプルサイズ0.lmm)で麻酔開胸家兎の心内膜側心筋と心外膜側心筋の血流分布の全体的および局所的不均一性を評価した。その結果、心内膜側では心外膜側に比して血流の全体的不均一性(global heterogeneity)は大きかったが、逆に近接サンプル間の血流相関性すなわち局所的な血流の一様性(local homogeneity)が高かった。また、フラクタル解析によって、血流分布のランダム性は心内膜側で小さく、クラスター様の分布パターンであることが明らかになった。以上より、心内膜側心筋は不均一な冠血管構造と心筋メカニカルストレスの影響下にあるために全体的な血流分布のバラツキは大きいが、高い心筋酸素需要に応じて局所血流調節が強く働き、血流分布を局所的に一様化していることが示された。また、サンプルサイズを変数とした近接サンプル間の血流相関値にあらわれる増加→プラトー関係から、血流調節ユニットが心外膜・内膜側ともに約400μmであった。この大きさは臨床的に知られる散在性の心筋虚血の個々の虚血領域の大きさに対応している。