著者
清水 健太郎 小倉 裕司 後藤 美紀 朝原 崇 野本 康二 諸富 正己 平出 敦 松嶋 麻子 田崎 修 鍬方 安行 田中 裕 嶋津 岳士 杉本 壽
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.12, pp.833-844, 2006-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
53
被引用文献数
2

腸管内には多彩な細菌群がバランスを保ち共存しており,腸内環境を整えると同時に生体へ豊富なシグナルを送り続けている。腸管は,侵襲時の主要な標的臓器(target organ)であり,腸内細菌叢の維持は腸上皮におけるバリア機能の維持と感染防御の点で極めて重要と考えられる。しかしながら,急性期重症病態の腸内細菌叢や腸内環境に関する検討はほとんどされていない。われわれは,SIRS患者の腸内細菌叢と腸内環境の変化を明らかにし,近年注目されているシンバイオティクス(synbiotics)療法(“善玉”生菌+増殖物質)の有効性を評価した。研究結果を含め,侵襲時の腸管機能と腸管内治療に関して総説する。(1) SIRS患者において,腸内細菌叢および腸内環境は著しく崩れる。「善玉菌」であるBifidobacteriumとLactobacillusは健常人の1/100-1000程度に減少し,「病原性」を有するブドウ球菌数は,健常人の100倍程度に増加した。腸内細菌叢の崩壊と同時に,短鎖脂肪酸の産生は減少し,腸管内pHは上昇した。このような腸内環境の悪化は腸内細菌叢をさらに崩す(“腸内環境の悪循環”)と考えられる。(2)シンバイオティクス療法は,SIRS患者の腸内細菌叢および腸内環境を維持し,経過中の感染合併症を減少させる。シンバイオティクス投与により,BifidobacteriumとLactobacillusが高く維持され,腸管内の短鎖脂肪酸,pHも保たれた。また腸炎の発生だけでなく,肺炎や菌血症の合併を有意に減らした。シンバイオティクス療法が感染症の合併を防止するメカニズムに関しては,今後の検討を要する。(3)現在,急性期重症病態に対する標準化された腸管内治療は存在しない。シンバイオティクス療法は,腸内細菌叢を保持し,腸内環境と腸管機能を保つ点で生理的であり,重症患者の臨床経過を改善する有望な腸管内治療法と考えられる。