- 著者
-
徳田 信子
- 出版者
- 山口大学医学会
- 雑誌
- 山口医学 (ISSN:05131731)
- 巻号頁・発行日
- vol.65, no.1, pp.23-29, 2016-02-01 (Released:2018-03-08)
- 参考文献数
- 29
近年,摂取脂肪酸の多寡やバランスが種々の炎症性疾患やアレルギー性疾患に与える影響が注目されている.しかし,栄養学的な知見が数多く報告されているのに対し,機序の詳細には不明な点が多い.多価不飽和脂肪酸は水に不溶であるため,細胞内でその機能を発揮するためにはキャリアーが必要となる.我々は多価不飽和脂肪酸を可溶化する細胞内キャリアーである脂肪酸結合タンパク質(Fatty Acid Binding Protein:FABP)に着目し,免疫系支持細胞での発現や機能について検討している.免疫系の組織では,細網細胞と呼ばれる支持細胞が自身の産生する線維とともに網状構造をつくり組織を維持していることが従来から知られてきた.しかし近年,支持細胞は免疫細胞の移動や機能,恒常性の維持にも重要な役割を持つことが明らかになってきた.また,それぞれの免疫組織に特異的な支持細胞があり,同じ組織の中でもそれぞれの場に応じた機能を持つ細胞が存在していることがわかってきた.特に,リンパ節のT細胞領域の線維芽細胞はfibroblastic reticular cell(線維芽細網細胞,FRC)と呼ばれ, T細胞の移動や分化などに重要な役割を担っている.我々は,神経系に特異性が高いと考えられてきた脳型脂肪酸結合タンパク質FABP7がFRCに発現し,T細胞の恒常性に寄与していることを明らかにした.また,脾臓のT細胞領域にも同様の細胞が存在することを示した.FABP7は肝臓固有のマクロファージであるKupffer細胞にも発現し,サイトカイン産生や,スカベンジャー受容体を介した死細胞の貪食を調節し,急性肝障害および肝線維化の病態に関与していた.また,FABPは表皮の恒常性の維持や中枢神経系の傷害からの回復など,生体防御に広く寄与していた.これらのことから,支持細胞を中心としたさまざまな免疫細胞がそれぞれに固有の脂肪酸のキャリアーを持ち,他の細胞の機能を調節することで免疫応答を制御していることが示唆された.