著者
成清 修
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

ガラス的物質群の理解を目指して理論的研究を展開しているが、本年度は特に下記のことについての論文を出版することができた。ドープした半導体や希土類化合物(重い電子系)では金属スピングラスと呼ばれる新奇な状態が実現している。実験的には多くのデータの蓄積があるが、理論はほとんど未発達の状況にある。通常のスピングラスの理論は、絶縁体の局在スピンに対するものであるが、金属スピングラスの理論においては、遍歴するフェルミオン(電子)とスピングラスの秩序変数の共存を示さねばならない。2ないし3次元のスピングラスの議論はシミュレーションをしないと進まないが、理論的に確立しているのは無限大次元の解析的理論である。他方、フェルミオン系において確立した金属絶縁体転移(Mott転移)の理論は、やはり無限大次元の理論である。そこで我々は、スピン系とフェルミオン系の無限大次元の理論の統合を図った。具体的にはランダムなスピン・フェルミオン模型と呼ばれるモデルを無限大次元で厳密になる動的平均場近似を用いて調べた。過去、ミクロなモデルから出発して金属スピングラス状態を導出する試みは成功していなかったが、それはスピングラス系のダイナミクスを追跡できていなかったためである。我々はダイナミクスを正しく考慮し、金属スピングラス状態を導出することに成功した。同時にスピングラス相のなかで起こる金属絶縁体転移を導き、転移点を確定した。現在、本研究の一環としてクラスター描像にたって、大偏差解析およびマルチフラクタル解析を実行し、2ないし3次元での金属スピングラスの理論を構築しつつある。
著者
成清 修
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

フェルミ流体論を金属絶縁体転移近傍の異常金属相に拡張することを目指した理論的研究を、銅酸化物高温超伝導体を含む遷移金属酸化物を対象として行った。ここでの金属絶縁体転移が、従来主張されているような、局所相関が重要な(狭義の)モット転移ではなく、非局所的な反強磁性相関が重要な、異なるクラスの金属絶縁体転移であることを明らかにした。1.バナジウム酸化物の金属絶縁体転移バナジウム酸化物(V_2O_3)の金属絶縁体転移は、従来典型的なモット転移であると考えられていたが、近年の実験は、銅酸化物高温超伝導体の常伝導相に類似の、「スピン電荷分離」や「スピンギャップ」とよばれる異常を示している。我々は遍歴-局在双対性に基づいたネストしたスピンゆらぎの理論によって、2次元物質である銅酸化物の異常を解明してきたが、これを3次元物質であるバナジウム酸化物に拡張することによって、その異常を説明した。これらの異常は2次元に特有のものと思われていたが、ネストしたスピンゆらぎの理論では、次元性は重要ではなく、3次元でも異常があらわれることを明らかにした。また、これらの異常は、我々の理論では中間結合領域に特有のものなので、バナジウム酸化物および銅酸化物高温超伝導体は、従来言われているような強結合ではなく中間結合の物質であると結論した。インコヒーレントなスペクトルの効果金属絶縁体転移の近傍では、フェルミ流体論では主役の遍歴的な準粒子よりも局在スピンによるインコヒーレントなスペクトルのウエイトが大きくなっている。我々の遍歴-局在双対性理論は、この2つの自由度を考慮しているが、フェルミ流体論では前者しか考慮していない。この意味で、遍歴-局在双対性理論はフェルミ流体論の自然な拡張になっており、従来非フェルミ流体とかマージナルなフェルミ流体とよばれていた現象も、遍歴-局在双対性理論の枠組みで理解できることを明らかにした。