著者
江川 優子 麻原 きよみ 大森 純子 奥田 博子 嶋津 多恵子 曽根 智史 田宮 菜奈子 戸矢崎 悦子 成瀬 昂 村嶋 幸代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.677-689, 2023-10-15 (Released:2023-10-28)
参考文献数
22

目的 日本公衆衛生学会に設置された「平成29/30年度公衆衛生看護のあり方に関する委員会」では,公衆衛生および公衆衛生看護教育の実践と研究のための基礎資料を提供することを目的として,公衆衛生および公衆衛生看護のコンピテンシーの明確化を試みた。方法 米国の公衆衛生専門家のコアコンピテンシーおよび公衆衛生看護におけるコンピテンシーを翻訳し,共通点と相違点を検討した。次に,米国の公衆衛生看護のコンピテンシーと日本の公衆衛生看護(保健師)の能力指標の共通点と相違点を検討し,公衆衛生および公衆衛生看護のコンピテンシーの明確化に取り組んだ。結果 公衆衛生と公衆衛生看護のコンピテンシーには,集団を対象とし,集団の健康問題を見出し,健康課題を設定し働きかけるという共通点がみられた。しかし,集団の捉え方,健康問題の捉え方と健康課題設定の視点,集団における個人の位置づけに相違があった。公衆衛生では,境界が明確な地理的区域や民族・種族を構成する人口全体を対象とし,人口全体としての健康問題を見出し,健康課題を設定しトップダウンで働きかけるという特徴があった。また,個人は集団の一構成員として位置づけられていた。一方,公衆衛生看護では,対象は,個人・家族を起点にグループ・コミュニティ,社会集団へと連続的かつ重層的に広がるものであった。個人・家族の健康問題を,それらを包含するグループ・コミュニティ,社会集団の特性と関連付け,社会集団共通の健康問題として見出し,社会集団全体の変容を志向した健康課題を設定し取り組むという特徴があった。日米の公衆衛生看護のコンピテンシーは,ともに公衆衛生を基盤とし公衆衛生の目的達成を目指して構築されており,概ね共通していた。しかし,米国では,公衆衛生専門家のコアコンピテンシーと整合性を持って構築され,情報収集能力,アセスメント能力,文化的能力など,日本では独立した能力として取り上げられていない能力が示され,詳細が言語化されていた。結論 公衆衛生の目的達成に向けたより実効性のある公衆衛生・公衆衛生看護実践を担う人材育成への貢献を目指し,日本の公衆衛生従事者の共通能力が明確化される必要がある。また,公衆衛生看護では,これまで独立した能力として言語化されてこなかった能力を一つの独立した能力として示し,これらを構成する詳細な技術や行為を洗い出し,言語化していく取り組みの可能性も示された。
著者
阪井 万裕 成瀬 昂 渡井 いずみ 有本 梓 村嶋 幸代
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.4_71-4_78, 2012-12-20 (Released:2013-01-09)
参考文献数
34
被引用文献数
1 2

目的:看護師のワーク・エンゲージメント(以下,WE)に関する研究の方法論を包括的に整理し,今後の研究の方向性について示唆を得ることを目的とする.方法:CINAHL, MEDLINE, PubMed, PsycINFO,医学中央雑誌を用いて,nurse, engagement, work engagement,看護師,エンゲージメント,ワーク・エンゲージメントの用語で検索した.2004~2011年11月までに発表された20文献を対象とした.結果:調査対象は病院勤務の看護職が大半であった.また,さまざまな病院・部署を同時に扱うことによる影響が考えられ,方法論上の課題が明らかとなった.WEの測定尺度は4つあり,近年はJob Demands–Resources modelを概念枠組みとしたUtrecht Work Engagement Scaleを用いた研究が多かった.看護師のWEの向上は,看護師の身体症状・うつ症状の軽減に限らず,組織の効率性やケアの質の向上にも寄与することが明らかとなった.結論:今後は,所属機関や部署ごとの特性を考慮した変数設定や解析方法を取り入れること,看護師のWEの向上を視野に入れた具体的な実践や介入が及ぼす効果を科学的に検証することの必要性が示唆された.
著者
寺本 千恵 永田 智子 成瀬 昂 横田 慎一郎 山本 則子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.336-345, 2018

<p><b>目的:</b>救急外来受診後30日以内の再受診例に関し,再受診の原因や経緯からパターンを見いだすことを目的とした.</p><p><b>方法:</b>診療録による比較事例研究の手法で分析した.2013年2月~12月に都内1大学病院救急外来を受診した患者のうち30日以内に再受診をした者を対象とした.事例―コードマトリックスによる分析から事例をパターン分類し,パターン別に群間比較した.</p><p><b>結果:</b>136事例は,初回受診時に医師から再受診を促された【予定再受診】,帰宅後に再受診を促された【医療職者の指示による再受診】,同じ症状が悪化した【医療が必要になった再受診】,異なる症状が出現した【異なるエピソードでの再受診】,再受診の必要性が低いと思われる【軽症での再受診】の5つのパターンに分類された.</p><p><b>結論:</b>本研究では,救急外来の再受診には5つのパターンがあること,初回の救急受診時に患者のパターンを把握し,それぞれに必要な支援をすることの重要性が示唆された.</p>
著者
成瀬 昂 有本 梓 渡井 いずみ 村嶋 幸代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.402-410, 2009 (Released:2014-06-13)
参考文献数
21
被引用文献数
1

目的 少子化の進む日本では,健やか親子21などの政策により父親の育児参加が推奨されている。父親の育児参加に関する研究では仕事の影響を考慮する必要があるが,仕事と家庭における役割の関係性(スピルオーバー)が父親の育児参加にどのように影響するのかは,明確にされていない。本研究では,父親の育児参加を育児支援行動と定義して,その関連要因を検討し,父親の育児支援行動と役割間のポジティブスピルオーバーとの関連を明らかにすることを目的とした。方法 A 市内の公立保育園17園と私立保育園14園に通う,1,2 歳児クラスの父親880人を対象に,無記名自記式質問紙による留め置き・郵送調査を行った。父親・家庭・多重役割に関する変数を独立変数とし,「母親への情緒的支援行動」,「育児家事行動」を従属変数とする階層的重回帰分析を行った。父親に関する要因,母親の職業を独立変数として投入した後(モデル 1),さらに仕事と家庭の両役割間のポジティブスピルオーバーを追加投入(モデル 2)した。結果 189人の有効回答を得た(有効回答率21.4%)。重回帰分析の結果,母親への情緒的支援行動の実施にはポジティブスピルオーバーの高さ,平等主義的性役割態度の高さが有意に関連していた。育児家事行動の実施にはポジティブスピルオーバーの高さ,母親が会社員・公務員であることが有意に関連していた。結論 父親の育児支援行動は,父親の持つ特性や経験などの背景要因よりも,仕事と家庭の両立におけるポジティブスピルオーバーとの関連性が強かった。また,ポジティブスピルオーバーが高いほど母親への情緒的支援行動,育児家事行動を行っていた。父親の育児支援行動を促進するための働きかけや政策を検討するためには,父親が仕事と家庭をどのように両立しているか,それによる影響を本人がどう捉えているかを考慮する必要性が示された。