著者
成瀬智仁
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

1.問題と目的 場面緘黙児(以下緘黙児)は他人への迷惑や教室での活動を妨害することもなく,ひっそりと声を出さずにいるために注目されず,問題視されることは少ない。彼らは非社会的傾向を持っているため症状が進行して集団に同調できなかったり,不登校などの症状を示し始めたときに教員達はその問題への対応に苦慮することになる。緘黙の症状にはさまざまな要因がかかわっており,改善への対応は発話だけでなく感情や行動などに長期的にかかわっていくことが必要である(河井 2004,成瀬 2007)。本研究では緘黙児の症状について分析し,小学校教員の指導援助の課題を検討する。2.方 法 ①調査時期と手続き:2012年7月~12月,A市公立小学校24校の教員(教諭,講師)に対して質問紙配布による依頼,後日回収,有効回収率61.7% ②調査協力者:335名(女性231名,男性104名)平均年齢40.1歳(SD=13.10,内訳:20代96名,30代94名,40代26名,50代以上119名) ③調査内容:緘黙についての知識4項目,緘黙児の担当経験項目16項目,基本的特性:性別・年齢。3.結 果 ①担任教諭239クラスの内,緘黙児が在籍しているのは36クラス(15.1%),わからないは7クラス(2.9%)だった。緘黙児担任経験のある教員は158名(46.9%)であり,担任経験のない教員は154名(45.7%),わからない25名(7.4%)だった。教員年代別の緘黙児担任経験は20代(26.8%),30代(38.9%),40代(38.9%)に対し50代(66.7%)や60代(71.4%)であり教員経験が長いほど緘黙児にかかわる割合が高かった(F(8, 337)=39.859, p<.01)。緘黙児担任経験教員より回答されたのは166ケースであり,女子105名(63.3%),男子61名(36.7%)だった。 ②緘黙児童のケースについて緘黙の特徴に関する12項目(5件法)をもとに主成分分析をした結果,「動作表現」と「言語表現」の2成分が取り出された(表1)。また,主成分得点をもとにクラスター分析をした結果,ほとんど話さない「緘黙タイプ」,動かない「緘動タイプ」,話も行動も控えめな「消極タイプ」,少し話せて行動は出来る「寡黙タイプ」の4類型に分けることが出来た(表2,図1)。学年別では高学年ほど緘動タイプが多くなっていた(χ2(5)=11.084, p<.05)。 ③学年別の緘黙症状は高学年ほど「表情」,「交友関係」,「教師との目線」などで現れ,低学年との間に有意差が見られた。「学習の理解」や「文章表現」でも高学年は低評価の傾向が見られた。緘黙症状の変化については「教員との視線」を合わすことが出来るほど(χ2(12)=23.582, p<.05),また,「動作のぎこちなさ」がない児童ほど(χ2(12)=21.201, p<.05)改善されていた。4.考 察 児童の緘黙症状によって4タイプの緘黙類型が見いだされた。また,学年進行により緘黙症状が改善する場合と,より悪化するケースがあり,緘黙児童に対する指導援助にはその児童に合わせた指導の必要性が示唆された。今後は緘黙児童への具体的な教育援助の方法を検討していくことが課題である。