- 著者
-
成田 泰子
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 經濟學研究 (ISSN:04516265)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.4, pp.57-68, 2004-03-09
1870年代以降、イギリス古典派経済学は衰退の様相を呈していた。その様な中でイギリス国内において、従来の古典派経済学の方法を激しく批判し、歴史的方法を採用すべきことを訴えたイギリス歴史学派が台頭してきた。彼らは、古典派に代わって主流派を形成するかのような勢いを示した。こうした状況の中で、ジョン・ネヴィル・ケインズ(John Neville Keynes)は、1891年、『経済学の領域と方法』を著し、理論派と歴史派との対立を理論派の立場から調停しようと試みた。本稿においては、『領域と方法』を、イギリス歴史学派による古典派批判に対するケインズからの回答の書として位置づける。なぜなら、ケインズが、イギリス歴史学派の活発な動きを非常に意識していたであろうことが容易に推察されるからである。こうして、従来ほとんど言及されることがなかったケインズとイギリス歴史学派との関係に着目し、イギリス歴史学派からの批判に対して、ケインズがどのような回答を与えたのかという点を、特に経済学の領域問題に焦点をあてて考察する。そして、ケインズがなした回答が経済学史上、いかなる意義持ったのかということを明確にする。